表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『姫騎士』だけど性別♂です!  作者: 神月大和
第二章 ラスティアの街で

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/17

本日3回目の投稿です!

「はぁ……今日は色々あったなぁ……」


 部屋に着いたクリスはホッと肩の荷を下ろす。

 年不相応な疲れが見て取れた。本当に、色々とあったのだったから。


「でもまあ、宿は良いところが見つかって良かったよ、この値段なら、むしろ安いくらいだ。それに、なんだか安心できる感じだし」


 フフっと笑って丁寧に整えられて清潔感のある部屋には満足する。これまで張りつめていた糸が緩んだかのよう。だからだったのだろう、彼女の到来に気が付かなかったのは……。


「……よっと、じゃあ、今のうちに着替えて……」


 ゴソゴソと今着ている衣装を【換装環】へと戻し、ラフな普段着へと着替えようとする。

 その時だった。


「お姉ちゃん、ご飯いつにする? ってお母さんが……え? お兄、ちゃん……?」

「は……?」


 ガチャリとドアを開けたリビーとクリスは互いに固まった。

 気に入ったお姉ちゃんがいる筈だった部屋には、上半身裸でパンツ一丁の少年が。


 男性でありながらも女性らしい骨格と筋肉ではあったが、まったく胸のない姿に男物のパンツ。そして、先ほどまでは後ろ頭で結んでいた金髪が解かれ、姫騎士として整えていた化粧まで消え去っていれば、少なくとも彼が男性であることは見て取れた。

 リビーの顔が歪み、膨らんだ感情が悲鳴となって破裂する。


「キャアアアアアアーーーーーッ!」

「ちょっ、待っ!」

「んむぐぅううッ!」


 クリスは咄嗟に彼女を捕まえて口を押さえていた。そこに、


「どうしたのリビー!」

「どうしたんだリビー!」


 お母さんお父さんが飛び込んで来た。

 彼らが見たのは、女の子のように綺麗な顔立ちだが、紛れもない少年が、半裸で愛娘の口を押さえる姿であった。


「お前ぇえッ!」

「ちっ、違ぁッ!」

「リビーっ!」


 素早い身のこなしで飛び退った少年に、父親の猫人族が柔軟な肢体から繰り出した強靭な突き。傷ついただろう娘を母親が抱きしめ、もはや弁解の余地のない修羅場の風情。


「違います! ボクはそんなつもりじゃ……」

「そんなつもりじゃなかったらなんでこんなことになってるんだよ! この野郎、綺麗な顔してリビーを襲おうだなんて、なんてクソ野郎だ! 衛兵に突き出すまえにぶっ殺してやる!」

「はっ、話を聞いてください、事故なんですって! ボクが着替えているところにリビーちゃんが入って来て……」

「何言ってやがんだ、テメェが引き込んだんだろうが! それで、それでリビーを! 許さねぇッ!」


 吹き荒れる父親の拳撃。


「思ったよりも鋭っ⁉ だから、襲おうとしたのではなくって、ボクの着替え中に……うわわわわッ!」


 ビッ、


 と頬を掠めたパンチ。すかさず蹴りが入ればサッと避けた。だが室内は狭く、彼を傷つけないようにと思えばクリスはジリ貧に追い込まれる。


「くっ、うぅうっ、こうなったら……」


 クリスは【換装環】に魔力を廻し――、


「何しようとしてやがる、お前!」


 柔軟な躰から捻りを加えて撃ちだされた父の拳。それがクリスに真正面からぶつかろうとして――。


「は?」

「え?」

「ふにゃあっ⁉」


 ビタリと彼の鼻先で留まった。


「えっ、えっ? クリスティーナさん……?」

「お姉ちゃん……?」


 母と娘は眼を見開いて口をポカンと開け、突然現れた姫騎士然とした美少女には父親も唖然として固まっていた。


「……あ、あは……お願いだから、話を聞いていただけないでしょうか……」


 クリスはなんとかそれを搾り出した。



「すまなかった!」


 父親の赤みがかった猫耳が生えた頭が下げられた。

 彼は名前をデニスと言った。元冒険者で、ガタイの良い、赤みがかった短髪の、強面の猫人族だ。


 ひとまず落ち着いたところで家族の部屋に移り、クリスが実は男であり、〈エルピス〉が『姫騎士』であるために「姫騎士」の格好をしていることを説明した後のことであった。


「リビー? お客様の部屋はちゃんとノックをしなくちゃ駄目って言っているでしょう?」

「ごめんなさいぃ、ママぁあ……」


 母親であるケイトリンが叱れば、娘のリビーは泣きじゃくる。少女の泣き顔はクリスにとっていたたまれない。


「謝るのは私じゃなくってクリスティーナさんでしょう? ごめんなさい、クリスティーナさん……」

「ごめんなさい、お姉ちゃん……ん? お兄ちゃん……?」

「い、いえ、誤解は解けたのなら良いですよ……あ、あはは……」


 クリスは乾いた笑みを浮かべるでしかない。


「それで……このことは内密にしていただければありがたいです。別に絶対に正体を隠さないといけないというわけではありませんが、……その、ボク自身が人目を気にしてしまいますので……。それで、ボクは出て行きますので、それで内緒にしていただければ……」

「絶対に口外はしねぇ!」とデニスが言えば、

「いやぁ、お姉ちゃん出て行っちゃやぁ!」

「えぇッ⁉」


 縋りついて来たリビーにクリスは思わず面食らってしまう。


「内緒にしておくから出て行かないでぇ、もうノックしないで入ることはしないからぁ……うぇえ……」

「い、いや、だって、こんな人が宿にいたら気持ち悪いでしょ?」


 クリス自身は信念を持って姫騎士をやっているが、他人から見れば気持ち悪いと思う人もいるだろう。だからこそ、彼らの不快感を煽らないようにそう言った。


 が、リビーは涙目で首を振る。「気持ち悪くないもん、お姉ちゃんはお兄ちゃんだったけど、お姉ちゃんで良い人だもん。悪いのは勝手にドアを開けたリビーだから、だから、出て行くならリビーが出て行くからぁ!」

「駄目だよそれは、ボクが出て行けばそれで収まるんだから……」

「いやぁあああ……」


 縋りついて泣くリビーには困惑してしまう。

 と、


「クリスティーナさん、いいえ、クリスさんとお呼びしてもよろしいでしょうか?」母親であるケイトリンが。

「えっ、あっ、はい、構いませんが……」

「では、クリスさん」ケイトリンは真っ直ぐにクリスを見、「出て行く必要はありません。非はこちらにありますし、リビーもこれだけ懐いていますし……」


 ――いやぁ、ボクとしてはどうしてここまで懐かれるのか、よく分からないのだけど……。


 コテンを首を傾げれば、美少女モードになっているクリスは本当に美少女にしか見えやしない。


「お兄ちゃん、綺麗……」

「あはは、ありがとう……」


 キラキラと猫目を輝かせるリビーには、本当にどうしてここまで懐かれたのか。


「ですが、ご迷惑にはなりませんか?」

「そのようなことはありません。それに、クリスさんとしても、今から宿を探すことはお手間だと思いますし、むしろ男性と知られている宿の方が、気安くはないでしょうか。協力も出来ますし……」

「うっ……」


 それは願ってもない話。だが、


「どうしてボクにそこまで……」

「それは――」ケイトリンは少しだけ溜め、

「まずは、クリスさんは悪い人ではないこと、リビーがこれだけ懐いていますし。この子はそうしたところがとても鋭いのです。だからクリスさんを呼びに行かせたのですが、それが仇となって……。ですが、弁明するわけではありませんが、普段のリビーはそうした失敗はしません。クリスさんに、そこまで気安く感じていたということでしょう」


 クリスがチラリとリビーを見れば、うんうんと強く頷いている。

 だからどうしてここまで気に入られたのか。


「お兄ちゃんはいい人の匂いがするの! それに、わたし、お姉ちゃんもお兄ちゃんも欲しかったから、綺麗なお兄ちゃんが、クリスお兄ちゃんがここにいてくれるととっても嬉しい!」

「あはは、ありがとう」


 あまりにも真っ直ぐな言葉に、クリスは思わずリビーの頭を撫でていた。


「んにゃごろろろろ……」リビーの咽喉が気持ち良さそうに鳴る。


 その様子にケイトリンは


「ふふ」


 と笑う。


「後はですね、あの、クリスさん!」

「えっ、あっ、はい」


 急に彼女の圧が強くなった。妻の様子に夫のデニスもギョッとした様子。


「お化粧を、教えていただけないでしょうか?」

「ふぇっ、えっ? あの……」

「今のその顔は、先ほどと比べて化粧をしていますよね?」

「は、はい……」


 確かに先ほどのクリスはすっぴんを見られていた。

 彼の素の顔も美少女然としてたいそう可愛らしい。そして、化粧をせずとも裸さえ見せなければ、彼を男だと思う者はほぼいないだろう。が、化粧をしたクリスは、姫騎士として、美少女として完成され、よほどの眼や勘を持っていなければ、彼を男の娘だと思うものはない。

 女性であるケイトリンはそれを見、


「是非、教えていただきたいのです!」


 そう、熱を持ったワケであった。


「えー、ママ、狡いー、わたしもお兄ちゃんにお化粧教えてもらいたいー」

「お兄ちゃんが良いって言ったらね。どうでしょうか、クリスさん、教えていただけないでしょうか」

「お願い、クリスお兄ちゃん」


 猫耳母娘の熱を持った赤銅色の眼差しに、クリスはたじたじとなって後ろに引いた。


「えぇと……」


 チラリと同性であるデニスに助けを求めれば、

 ふぃっと視線を逸らされた。


 ――そんなぁあ……。


「駄目でしょうか、クリスさん、私達はクリスさんのことを黙り、この宿にも泊めて協力します。なんならば宿泊代をまけても構いません。クリスさんのお化粧の技術、いいえ、もしもあるならば美容の技術も。その対価として教えていただければ。そうすれば、ただ黙っているよりも信用できませんか?」

「お願い、お兄ちゃあん」


 文字通りの猫なで声。


 ――ってか、ケイトリンさん、結構したたかだよ……。


 そう、顔立ちの整った猫耳母娘に押されたクリスは、「……はい、わかりました。あ、でも、流石に宿代をまけるとかはしなくて構いませんので……」

「ありがとうございます!」

「ありがとうお兄ちゃん!」

「あ、あはははは……」


 チラリとデニスを見れば、


「俺もそれで構わない。が、一つだけ言っておく」


 彼はそこで圧を強め、


「リビーに手を出したら許さねぇからな?」

「出すわけありませんよ……」


 クリスはしょんげりである。が、


「なんだと、俺の娘が可愛くないってか?」

「そんなことは言っていません、可愛いですけど、まだ幼すぎます!」

「お兄ちゃんが可愛いって言ってくれた! 嬉しい! わたし、すぐに大きくなるから! だからお兄ちゃんのお嫁さんになる!」リビーは可愛らしく破顔。


 だが、それこそがクリスとデニスが危惧していたことなのだ。


『姫騎士』の呪い。

 女難の相。


「それは良いわね、リビー。頑張りなさい」

「うん、頑張る!」

「そんなことは許さんぞ!」

「あ、あはははは……」


 クリスは乾いた笑いしか出て来ない。


 ――いい人達だし、ボクも凄く助かるんだけど……どうしてこうなるの?


 クリスの瞳からは、心の汗が零れ落ちていた。



   ◇◇◇



 そして『プリンセスオーダー』のパーティー活動は始動した。それは恐ろしいほどに順調で、あっさりとクエストをクリアし、ギルドからも他の冒険者達からも覚えは良く、めきめきと実力を発揮して新進気鋭。

 クリスとハクラの冒険者ランクもCへと上がっていた。

 そうして、とある一つの依頼が舞い込むのである――。

ブックマーク、感想、評価、いいね、たいへん励みとなります!

少しでもオッと思っていただければ、是非是非ポチッと、よろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ