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『姫騎士』だけど性別♂です!  作者: 神月大和
第二章 ラスティアの街で

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13/17

 ギルドマスターから解放されたクリスを、カーラはギルドのロビーで待ち伏せしていた。


「あーっ、クリスの姐御、やっと帰って来たぜ。良かった、あのババアに喰われてなくて」


 ――やっぱりそんなヒトだったんだよね……。


 しょんげりするクリスである。が、カーラはギルドマスターの代わりにクリスに引っ付いているその娘を見て、目を吊り上げてしまう。


「なっ、なんでハクラが姐御に引っ付いてんだよ!」

「なんでって、オレとクリスがパーティー組んだからに決まってるだろー。なークリスー」


 嬉しそうに捕まえた腕を実った胸に挟み込み、ぐりぐりとマーキングするかのように擦りつけてきた。それにカーラは愕然としてしまうのだ。


「なっ、ななななな、どうして! なら、姐御、あたしともパーティー組んでくれよ、お願いだ!」

「べーっ」


 白いのがピンク色の舌を出す。


「クリスはもうオレとパーティー組んでるんだ。母様だって、オレがクリスに色々教えてやれって言ってた。冒険者としての知識と、技術と、後、床の技術?」

「なぁあああッ!」


 大声を上げるカーラ、だけではないヒトビトが声を上げていた。


「マジか、ハクラちゃんとクリスちゃんが……」

「百合の~、花咲く~」

「お姉様……ありね。じゃあ、私だって……!」


 ――色々と眼が怖い。特に女の人の!


 と、気付かれないように遠い眼をするクリスである。

 そしてカーラが慌てたように言う。


「あっ、姐御、それだったらあたしが教えるから。床の技術だって! ……いや、それは姐御に教えてもらえたら良いかなって……まあ、兎に角、その白いのじゃなくって、あたしをパーティーメンバーにしてくれよ! それこそ、なんだってするからさぁ!」

「何もしなくて良いからどっか行けよー。しっしっ」

「ハクラ、テメェッ!」


 ピーチクパーチクと白いの黒いのが姦しい。クリスは遠い眼をしたまま何処かに行ってしまいたかったが、この場合、姫騎士として口を挟まねばならないだろう。


「駄目ですよ、喧嘩をしては」


 白いのと黒いのの頭をポンポンと撫でた。


「「ほわぁああ……」」


 ただ、この場合、何が正しいのだろうか。


 ――ハクラとはパーティーは決定してて、でも、ここでカーラを断ると、この二人……。


 はぁ、とクリスは内心で溜息を吐いた。


「それならばカーラもパーティーを組みますか。私は貴女のことも嫌いではありません」

「クリス⁉」

「おっしゃああ!」


 眼を見開くハクラに拳を突き上げたカーラ。


 ――あーもー、ホント、前途多難だよ……。


 本当はがっくりと崩れ落ちてしまいたいクリスの気持ちには、彼女達は気が付かぬ。


「えっと、姐御、俺も……」

「申し訳ありません、今は、まだこの二人で」


 がーん、と。


「なあ、お前、止めてくれねぇ? おっさんがこんな子供に振られて乙女みたいな顔してんじゃねェよ。そろそろ本気でパーティーから追放するぞ?」


 パーティー『ドッグバイト』の巨漢はもう戻れないところまで来ていたらしい。



「じゃあ、名前を付けないとな」

「クリス大好き美少女隊」

「それ採用」

「流石にそれは止めましょうか」

「「えーっ」」


 とギルドに併設された酒場の長椅子で、クリスの左右から仲良く不満を述べる黒いのと白いのである。左右から色違いの少女たちに挟まれ、大きさの違う肉感がむにむにとクリスに押しつけられていた。

 それだけではなくハクラは白い狐尻尾をクリスの腰に巻き付け、肩に頬を寄せればカーラも負けじとそうする。


 柔らかいし良い匂いだし、温かくてクリスはどうにかなってしまいそう。これがもしも堂々と男と宣言出来ていれば、肩を抱いて引き寄せることも出来るのではないかと益体もなく思うのだ。


 ――いや、姫騎士ならむしろしてもいい……。いや、やっぱり駄目だよね。


 二人の少女に挟まれて縮こまっていれば、していることと言えば結成されたパーティーの名前決めであった。これまでに出た名前と言えば、


『クリス大好き美少女隊』


 すでに『クリスきゅん大好き捜索隊』という【剣聖】と【狂戦士】の凶悪パーティーがいることを、彼女達は知る由もない。


『アマゾネス撃滅隊』


 これを出したのはカーラの方であった。アマゾネスがアマゾネスを撃滅して良いものか。アマゾネスを、ではなく、アマゾネスが、の意味だろうが、同族から絡まれそうな名前である。


『クリスハーレム』


「母様がそう言えって。それで、ハーレムってなんだ? 美味しいのか?」

「いいな、姐御のハーレム、賛成だ!」


 お嬢様には聞かせられぬ。


「では、」とクリスは場を仕切り直す。

「二人は冒険者になったのは何故ですか? やりたいことがあったのではないですか?」

「あたしは単に強いやつと戦って、強い男の種が欲しいから、そいつを探すのにも、金を稼ぐのにもちょうど良いから冒険者になったんだ。でも、強いやつはチラホラいんだけど、ピンとくるやつはいなかったんだよなー。こう、強い男で、あたしを痺れさせてくれるような……ん? 姐御にぶっ飛ばされた時みたいに、痺れるような……あーあ、姐御が男だったらよかったのになぁー」


 カーラはあっけらかんと。


 ――ガクガク、ブルブル。


 クリスは握ったグラスが震えないように必死で堪えた。


「オレは母様が冒険者してたから、母様みたいな大人の女になりたくて冒険者になったんだ。それで気に入った男と番になって、オレみたいな子を生むんだ。あー、そうだなー、クリスが男だったら良かったのに。この匂い嗅いでると、とってもドキドキしてキュンキュンして来るんだー」

「あー、分かるわー。あたしも姐御と一緒にいると、なんかこの辺りがムズムズすんだよー。女なのになんでなんだろうなー」


 なでぇ、なでぇ、と引っ付きながら左右で下腹部を撫でないでいただきたい。

 クリスはもはや気が気じゃあない。クリスが男であることがバレれば、それはもう酷いことになるに違いない。


 ――だからどうしてボクの周りにはこんな女の子ばかり集まって来るんだろうなぁ。うぅ、ジーナお姉ちゃんとエレノアお姉ちゃんは、とても優しくて温ったかくって、こんな感じじゃなかったのに……。


 クリスは彼女たちの本当の姿と今の姿を知りはしない。


「「あー、ホント、姐御クリスが男だったらなー」」


 ガクッ、ガクッ、ブルッ、ブルッ。


 ――どうしよう、今すぐにパーティーを解散したくなってきた……。


 目的が一致したからか、或いは女の勘とでも言うべきか、そして実際馬も合うのだろう、彼女達はたいそう意気投合していた。ただし対クリスとして。


「じゃあ、姐御はどうなんだよ、どうして冒険者になったんだ?」


 コップを握り潰しそうになっているクリスにカーラが問いかけてきた。興味津々と言った態で二人の美少女が更に身を寄せた。その感触に嬉しくとも悪寒を感じつつ、子リスは答えるのである。


「そうですね、ボクは冒険がしたかったのです」男らしくなって、そこにはジーナお姉ちゃんが居て、それで、女の子にモテちゃったりもして……。


 ――って、あれ?


「おー、いいな、クリス、一緒に冒険しよう!」

「おお、あたしは強いやつと戦えればそれで良いからさ、姐御と一緒に冒険してたらそれも叶いそうだ!」


 嬉しそうにする左右の白いのと黒いのだ。


 ――まさか、これ、ジーナお姉ちゃんがいないだけで、ほぼボクの夢叶っちゃってる? いや、まだ冒険ははじまってもないんだけどさ。ただ……。


 とクリスは眼を輝かせている左右の彼女達を見やった。


 片や戦闘民族であり、すでにCランク冒険者である女傑族(アマゾネス)のカーラ。

 片やギルドマスターの娘であり、冒険者ランクはDとのことだが、その年にしてすでに三本の尾を持つ狐人のハクラ。狐人は魔力――彼らによれば妖力とも言うらしいが――、その〝力〟が高まるにつれて尾の数は増えていくらしい。

 そしてカーラを戦闘力の面ではすでに凌駕している姫騎士のクリス。


 冒険者としてはルーキーではあるのだが、実の所、冒険に必要な技術は知識もすでに師匠によって叩き込まれていた。新米であるのは冒険者としての立ち居振る舞いなのである。


 すでに本格的な冒険――それこそ、この領に座している、世界七慾ダンジョンの一つ、『色欲』のダンジョンに潜りはじめても問題ないほどのメンバーではあるまいか。


 ――いや、まだそれは早いよな。冒険はしたいけれど、勇気と無謀は違うんだ。……それを見定められるようにするとか言って、師匠にはどれくらい恐ろしい目に合わされたことか……ぶるるっ。


 かつての修行と言う名の虐待に思いを馳せてしまう。が、


「ええ、二人が一緒であればとても頼もしい。これから、よろしくお願いします」

「ああ、よろしくお願いされたぞ」

「おう!」


 と言ったところで、カーラがピンと閃いた様子であった。


「お願い、命令……オーダー。おぉッ! 決めたぞ! このパーティーの名前、『プリンセスオーダー』ってのでどうだ! 姐御のお願いをオレ達が叶えるんだ!」

「いえ、それは……お二人の望みもありますし……」


 とその対象が言う。


「ああ、それも姐御の命令だな! 姐御の望みを叶えて、あたし達の望みも叶えろって言う。それにオーダーって、秩序って意味もあるんだろ。姐御の秩序。姐御の支配……あ、なんかぞくぞくキュンってきた」


 だから下腹部を撫でないでいただきたい。


「いや、それだと、ハクラの意見も訊かなくては……」

「おお、クリスの命令。命令されるのは嫌いだけど、なんだ? クリスだともっと命令してって思えるぞ。群れのボスの命令……そっかー、オレ、なんか知らないけど、もうクリスをボスって思ってたのかー。流石は母様だ、凄いヒトを紹介してくれた!」


 反対意見が出てくれない。


「なー、姐御ー、『プリンセスオーダー』で良くないかー」

「良くないかー」


 左右からおねだりするように言って来る黒いのと白いのに、彼女達の方が一つ二つ年上であるのだが、本当は男であるクリスには断れよう筈もない。


「…………わかりました。では、パーティー名は『プリンセスオーダー』で」

「やりぃ!」

「やったー」


 ハイタッチを交わし合う黒いのと白いのはすでにたいそう仲が良い。


「「『プリンセスオーダー』結成! わー!」」


 ご機嫌な美少女達に水を差すことは、クリスには到底無理筋なのだった。

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