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『姫騎士』だけど性別♂です!  作者: 神月大和
第二章 ラスティアの街で

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12/17

本日3回目の投稿です!

「ようこそ、ラスティア冒険者ギルドへ、姫騎士クリスティーナ――いいや、クリス坊や」


 えぇえー……、どうしてこんなことに……。

 クリスはカーラとの決闘の後で、ギルドマスターであるハクビにギルドマスター室に連れ込まれていた。


 連行(あんない)されたギルドマスター室は畳敷きで異国情緒溢れる佇まいだ。巨大な座椅子にふんぞり返ったハクビは膝を立てて座って、扇情的な太腿が際どい所まで露わ。煙管を構えていれば大店の女主人、否、やはり無頼の女親分であろうか。


 九本の白い狐の尾が波打つように流れ、頭には凛しゃんと白い狐の耳が経つ。琥珀色の瞳がまさしく獲物を前にして細められ、顔には不思議な赤い模様が描かれている。美女ではあるが、迫力のある女傑であった。むろん、大きく肌蹴られた胸元から零れ落ちんばかりに主張するそのボリュームも、その迫力の一つだったには違いない。


「ん? なんだ? 揉みたいのか? なんなら吸っても良いぞ」

「なんてことを言うんですか!」


 くつくつと嗤う彼女に、クリスはもったいないと思うが――って、


 ――あれ? ボクの視線バレてた? そんな風に見ないようにはしていたけれど……。


「はっ、不思議そうな顔をしているが、気にしないようにと気にしているのはバレバレだ。ま、それも、私が坊やの性別に気が付いているからだけどな。んじゃあ、座れ、あ、靴は脱げよ。畳の上は土足厳禁だ。ああ、それか、もしくは私の膝の上に座りたいってンだったらそれでもいいだろう」

「エンリョシマス」

「遠慮しなくても良いんだがなァ」


 ニヤニヤとする彼女の前でクリスはブーツを【換装環】に収納すると、彼女も向かいに腰を下ろす。


「お前、普通に女の子みたいな座り方をするんだな」

「こう座るものではないのですか?」


 クリスはキチンと足を閉じ、足を揃えて正座を崩したようにして座っていた。


「ま、こっちでは正座なんて普通はしないだろうし、姫騎士サマが胡坐を組むなんて下品なことは出来ねぇんだろうがな。いいさ、それで」


 煙管を吸えば白煙がもうもうと立ち上がる。クリスはなんとはなしにそれを眺め、眺めているうちに白いものが忍び寄っていた。

 しゅるり、と彼女に巻きついてきたものは、ハクビの狐の尾であった。


「ちょっ、えぇえっ⁉」

「ほれ、こっちに来い」


 もふもふの狐尻尾に捕まえられ、クリスはハクビにむぎゅっと捕獲された。


 ――っ、めちゃくちゃ大きいし、柔らかいし……だから、どうして女の人ってこんな良い匂いがするのさ!


「もがもがふがふが」

「ははは、そうかそうか、そんなにも気に入ったか」

「ふがぁーっ」


 ともがくクリスはもはや姫騎士ではない。ただの男の娘である彼女をハクビは上機嫌そうに玩ぶ。


「やっぱりこうして話そう。この方がちょうどいい」

「ちょうど言いわけ……っぅ!」

「んー、坊や、何か文句があるんだったらスカートの下を全部脱がしてやるぞ? ほら、やっぱり立派なものがついていた……ああそうだ、そうして大人しくしていろ」

「うぅう……」

「くくく、可愛いじゃあないか」


 ポンポンと後ろ頭を撫でられれば、クリスは知らない母という存在を幻視してしまう。ただし、尻尾によって股間を弄られていたのだが。


「そこを弄るのは止めてください。ちょっ、あぁッ!」

「うーん、可愛い声だ。良いじゃないか、坊やが男だってのはバレてるんだし、お前だってこうされてて嫌じゃないんだろ?」


 ――まあ、そりゃあ、男の子だし。


 その一瞬力を抜いたことを、歴戦の狐人は見抜いているのである。

 くつくつと嗤う様子にはクリスは彼女の腕の中でバツが悪くなる。


 ――と言うか、やっぱりどうしてボクの周りにはこんな女の人ばかり寄って来るんだろう……。

スキル『姫騎士』の呪い。

 本気でそれを考えたい。


「それで、どうしてボクが男だってすぐに分かったのですか?」

「あぁ? そりゃあ勘だよ、勘。信じないならこのままヌくぞ?」


 ――ナニを⁉ ってか勘って!


「勘だよ、歩き方とか立ち居振る舞いとか、勘ってのは特別な力なんかじゃあねぇ。簡単に言やぁこれまでの経験則だ。坊やを見て、なんかぶら下がってそうだな、とピンと来て、そう言う目で見てたらああやっぱりって確信を持つ感じだ」


 逢ったばかりのギルドマスターにそのような眼で見られるとは、やはりこれは呪いに違いない。だが、特別な〝眼〟を持っているお嬢様だけではなく、クリスを男だと見抜ける者は少なからずいると言うワケなのだ。


 ――師匠からは、これくらいならもう合格だって言われたのに……いや、師匠の事だから、もしかしてこれも踏まえてさっさと“外”に出したとか? ……ありえそう。


 しょんげりとしてしまうクリスである。


「で? ボクが男だと分かったらどうするんですか?」

「いいや、どうもしねぇよ? 別にギルドの登録書には性別の欄はねぇし、お前は自分が女だって言ってねぇんだから、嘘も吐いてねぇ」


 だからお前に何かペナルティを課すようなことは何もねぇよ。

 とハクビはそう言った。クリスを抱っこしながら。――抗いがたい。


「ま、坊やがお願いを聞いてくれなかったら、もしかすると私の口が滑ることがあるかも知れねぇがな」

「大問題だ!」

「ははは、そんな悦ぶんじゃねぇよ」

「これが悦んでるように見えるの⁉」

「いやぁ、見えるなぁ」

「ひゃあっ! ちょっ、どこ触って、ひぃいっ!」

「いや、いいよ、坊や。本当に女の子みたいな声出してちょっと先っぽだけ……」

「それは絶対許しちゃ駄目なやつだって先生が言ってたよ!」

「大丈夫、大丈夫」

「誰かー! 助けてー!」


 クリスは九本の尻尾でもっふもっふにされた。


「うぅう……」

「ははは、まだ堪能し足りないが、お駄賃としてお前をDランクに上げておいてやろう。お前のレベルだとFは物足りねぇだろうし、Eに留めておくのは勿体ねぇ。Eランクから討伐クエストを推奨していて、Dランクでひとまず一人前ってところになるからな。カーラに勝ったんだから、周りから文句もでねぇだろう。んで、知識が足りねぇんだったら、パーティーを組んで教えてもらいながら討伐クエストに出ろ。その方がよっぽど合理的だ」

「そういう話は普通に真面目に聞きたかった……」

「それじゃあつまんねぇだろ。後私がヤりたかった」

「それが一番の理由だよねぇ!」


 クリスが憤慨しようが狐の女親分かんらかんらと取り付く島もない。


「はぁ……」とクリスが溜息を吐けば、

「おいおい溜息を吐くと幸せが逃げるぞ」

「これ以上どう逃げると?」

「具体的には開いた隙間に私が這入っていく」


 もふもふの狐尻尾がくねった。

 それにクリスは慌てて口を塞ぐのである。


「いやー、やっぱお前いいわ。おちょくり甲斐がある。私のストレス発散のためにもまた来いよ、なんなら布団の中でも可愛がってやるよ」

「間に合ってます!」

「ほぉう?」

「あ」


 そこでハクビは嗜虐的な光を宿した。


 ――クリスは拙いと思ったが後の祭り。


「だが、見た所まだまだ相手は小娘だったと見える。それなら大人の女というものを教えるべきだろうな」

「結構です!」――ってかそんなことまで分かるなんてアネッサ様並みだ……。


 本気か本気でないか分からないが、一瞬迸らせた凄艶な色気には、骨も残さず喰らい尽くされると、クリスは半ば本気でそう思った。


「ま、いいさ。で、お前に紹介したい奴がいる。お前のパーティーメンバーだ。なんならハーレムメンバーにしても構わねぇ」

「ふぁ?」


 終始押されっぱなしのクリスからは妙な声が出た。

 そんな彼に構わずハクビはパンパンと手を打ち鳴らす。


「おいで、ハクラ! お前に紹介したい奴がいる」


 その拍手(クラップ)には何かしらの〝力〟が籠められていた。

 ぞわりとしたものを感じれば、彼女はニタリと艶麗な紅唇を吊り上げる。

 と、


「呼んだか! 母様!」


 バァアアアン!


 まるで障子を突き破る猫のような様子で、一人の美少女が突っ込んで来た。奥の木戸を開け放ち、眼が点になるクリスの前で彼女はハクビへと飛び込んでゆく。


「あ~、やっぱり母様のおっぱいふっかふっか~。オレの目指す頂だ!」

「ははは、今の歳からそれだけそだってりゃあ、間違いなくここまでは来れるだろう。私が保証してやるよ」

「ホント⁉ 母様大好き~。ふひゃあっ。オレの揉んで大きくして~」

「こうか、こうか? ははははは」


 ――えっと、ボクは何を見させられているんだろう?


 ぐにぐにと形を変えて踊る母娘のスキンシップ。それにしてはそのベクトルが偏り過ぎなのではないか。――あっ、ちょっと色の違う部分が。


「見たな?」

「ッ⁉」

「母様、誰?」


 身を強張らせるが、初対面の彼女の前ではクリスは姫騎士を演じる。


「ああ、お前のパーティーメンバーとして良いんじゃないかって思ってな」

「えー、オレのパーティーメンバー?」


 ひょいっと躰を起こしたのは白い美少女であった。ハクビの毒気をこれでもかと抜いて無垢にした様子。とは言え、確かに彼女はハクビの娘らしかったが。


 年の頃はクリスと同年代だろうか、白く透き通るような白の長髪に、愛らしく可愛らしい顔立ち。頭には白の狐耳が乗っかり髪は背中まで伸びていた。琥珀色の瞳はクリクリとしてクリスを窺い、短めの白を基調とした着物に身を包んで下はホットパンツだ。

 その躰は年不相応に発育が良く、剥き出しの太腿もたいそう肉付きが良い。

 彼女の白い狐尻尾は三本であった。


 彼女はひょいひょいとクリスに近づいて来、すんすんとクリスの匂いを確かめた。彼女はためすすがめつ。そうしてニカッと破顔。


 ――うわぁ、可愛いなぁ。


 クリスは眼を奪われた。


「おー、良い匂いだー。気に入ったぞ、お前ならパーティー組んで良い。オレはハクラ。お前の名前はなんて言うんだ?」

「ボクの名前はクリスティー……「クリスだよな、な?」……はい」

「おー、クリス、クリスクリスー」


 母親の圧を知ってか知らずか、ハクラはクリスを気に入った様子でその周りをくるくると回った。むぎゅっと抱きつけば、母譲りの巨峰がクリスに押しつけられて潰れる。


「よろしくなー、クリスー」

「はい、よろしくお願いします、ハクラさん」

「ハクラでいいぞー。にははっ♪」


 ――いい子そうだな、だけど、ボク、パーティー組んで良いって一言も言ってないんだけどね! でもこんな状況で断れるわけないでしょ。このギルドマスターが母親で、見てるんだし! しかもこの子、ここまで気に入ってくれた様子で、断ると凄い泣きそうな気がする……まあ、気に入ってもらえて悪い気はしないんだけど……うん、おっぱい大きくて柔らかい。


 孤児院育ちのクリスは、小さな女の子の反応を分かっていた。ハクラはクリスと同年代らしかったが、その気配には近しいものがあった。


「ははは、良かったな、ハクラ。んじゃあ、クリス、いっちょ頼んだわ。別にお前がハーレムを作ることは否定しないが、ハクラを泣かせたら許さねぇからな?」


 ――だったらなんでパーティーに推薦した!


 クリスは抗議したいがギルマスは取り合わないに違いない。

 しかも――。


「おいハクラ、もっとちゃんと挨拶しとけ、こういう時は、不束者ですが、末永くよろしくお願いしますってな」

「不束者ですが、末永くよろしくお願いいたします?」


 キョトンとした様子がたいそう可愛らしい。

 だがクリスは二の句が告げないのだ。


「おい返事」ドスの効いたギルドマスターの声。

「ハイ、コチラコソ、ヨロシクオ願イシマス」

「お嬢さんを幸せにします、お義母さん、は?」

「………………」

「おら、はやく言えよ」

「お嬢さんを幸せにします、お義母さん」

「おう、頼んだぞ、ムスコよ」

「…………………………」


 ――間違いない、やっぱりボク、呪われてる。神殿に行かないと……いや、でも、神殿も女神官さんだしなぁ……。


 ハイライトの消えたクリスであったが、ハクラは彼の腕にしがみつき、考慮はしてくれない。


「なーなー、クリスー、冒険行こーぜ、冒険ー」

「おう、そうだ、こいつこう見えてDランク冒険者だし、冒険者としての知識も技術も叩き込んであるから、色々と教えてもらえ」

「おう、いっぱい教えるぞー」


 とハクラは元気いっぱいに腕を上げる。だがその母親はベクトルを変えるのだ。


「床の技術もな?」

「そっちも教えるのかー、分かったー母様ー。でも女同士だろー? でも頑張るぞー」

「おう、頑張れ」


 ニカッと破顔する母娘を他所に、クリスは、目から冷たい汗を流してしまうのである。

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