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『姫騎士』だけど性別♂です!  作者: 神月大和
第二章 ラスティアの街で

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本日2回目の投稿です!

 女傑族(アマゾネス)


 人間によく似た女だけの種族であり、褐色肌のしなやかな筋肉は強靭な膂力を秘める。人間の女性そのものの見た目ではあるが、別の種族と言わざるを得ないほどに基本的な身体能力は異なっている。それだけではなく、魔力よりも〈氣〉に長け、全身に〈闘気(オーラ)〉を纏わせることで途轍もない威力を発揮するのである。


 力を尊び重んじる好戦的な種族である彼女達は、普段は自分たちの集落で暮らしているが、その好戦的な性格から、或いは気に入った男を手に入れるために外に出て来、傭兵や冒険者として活動することも多かった。


 今クリスに声を掛けて来たカーラも、より高みを目指すために、そして、強い男の種を得るために冒険者をしている十六歳であった。

 ツカツカとクリスの許へとやって来て、舐め廻すように彼女を見た。

 内心、


 ――近ッ! ……ってか、この娘、野性味溢れてるけど、女の子って本当に良い匂いするよなぁ……。


 と思ってはいるものの、クリスはそれをおくびにも出さずに淡い微笑みを浮かべていた。


「フンフンフン」と彼女は鼻息のかかる距離でクリスを睨め廻し、一言、

「よっしゃヤろうぜ」


 ――ストレートッ!


 感動してしまうクリスである。が、


「もしもテメェが勝ったら、あたしの躰、好きにしてもいいぜ? その代わり、あたしがかったらあたしがテメェの躰を好きにする」


 ――うぇえッ!? それってどっちにしても、……


 そう、叫びそうになったのを、クリスはなんとか堪えた。

 昨日と言い今日と言い、クリスはアネッサの言った通りに自分には女難の相があるのだと確信した。『真実の瞳』のお墨付きである。

 嫌なお墨付きだ。


 ――ハァ、と内心で溜息を吐いてしまう。が、冒険者とは舐められたら終わりだとも聞いていた。だからこそ、


「いいでしょう。その決闘、受けて立ちましょう」


 きっちりと彼女に勝って、そして抱かなければいいに違いない。ただ、


「オッケ、やりぃ!」


 と、嬉しそうに肩を抱いて来るカーラには、


 ――嗚呼、やっぱりイイ匂いだし、こんな風でも、女の子の感触だよなァ。


 と、クリスは邪な思いを抱いてしまうのだが。

 クリスはその誘いに打ち勝てるのか。

 二人は冒険者ギルドの訓練場へと向かった。



   ◇◇◇



 ギルドに併設されている訓練場は円形で、観客席まで付いているから、そうした用途に使用することも少なくないのだろう。踏み固められた地面の上で、クリスは覇気を纏うカーラと相対した。


「私がラスティア冒険者ギルドのギルドマスター、ハクビだ」


 あろうことか、この決闘の審判はギルドマスターと名乗る女傑が行うこととなった。

 まるで女親分と言った態の美女であった。


 東方国の着物と呼ばれる衣装を身に纏い、胸元を大きく広げて着崩していれば、見えてはいけない部分まで零れ落ちそうで気が気ではない。琥珀色の瞳で唇は朱い。顔には不思議な赤い模様が描かれ  彼女は長い白髪の狐人であり、その尾は九本に別れていた。


 九尾の狐人族。

 もはや見ただけで強者と分かる出で立ちだ。


「へぇ、可愛いじゃあねぇか」


 彼女はクリスを舐め廻すように見、ベロリと唇を舐めていた。


「――」


 白眼を剥きそうになってしまうクリスである。が、


「んじゃあ、この決闘で怪我を負ってもお互いに責任はない」ハクビは説明をはじめた。「が、殺すような攻撃はご法度だ。ま、生きてりゃ殺すような攻撃じゃなかったってことだな。降参するか動けなくなった方の負け。おーけー?」

「オーケー」


 とカーラは言うが、


 ――ぶっそうだなぁ……。しかもなんかギルマスもおっかないし……。


 クリスはすでにしょんげりだ。が、


「はい、分かりました」


 と答えておく。


「じゃあ、得物はどれを使うかい?」


 ハクビはクリスに問いかけた。クリスはチラリとカーラへと視線を向ける。


「カーラさんは選ばないのですか?」

「あぁん? あたしの得物はこいつだよ」


 彼女はグッと拳を握って突き出した。


「そうですか。それならボクも」


 クリスが左腕に着けている腕輪に魔力を通せば、身に付けていたプレートアーマー、小手やブーツの白銀が消えた。白を基調とした衣装で、スカートにスパッツと言う、防具を外した衣服だけの姿となった。


「テメェ、舐めてんのか?」カーラは眉間に皺を寄せた。

「いいえ、舐めてなどいません。戦士である貴方と、同じ場所で戦いたいのです」

「ふぅうん、後で吠え面かいても知らねェからな。――だけど、あたし好みだ」

「……………………」


 クリスはもうどんな顔をすればいいのか分からない。だから、


「はじめましょう」


 クリスはギルドマスターにそう言った。すると彼女はニヤリと口角を吊り上げた。


「せっかちさんだな。おーけー。んじゃあはじめ」


 ――へっ⁉ ちょっ、そんなおざなりな。


 クリスはギョッとした――それもやはり押し殺しはしたのだが――、ギルマスの合図に、カーラは即座に跳び出していた。

 地面を蹴って、風を切ってクリスに肉薄。


 ――(はや)い。


 が、


「ほう」


 ギルマスの感心。


「おらぁっ」


 裂帛の気勢と共に打ち出されたカーラの褐色の右拳。クリスはそれを――。


「おぉっ」ギャラリーが響動(どよめ)くその前で、クリスはカーラの拳をいなし、その勢いのままに回転して投げ飛ばした。

「りゃっ!」


 投げ飛ばされる中空で、カーラは柔軟で強靭な体捌きで蹴りを繰り出した。一瞬眼を見開いたクリス。だが、たおやかな手つきでいなし、くるりと回転して避ければ、カーラは更に追撃の蹴りを放った。


 トッ、


 とあくまでも軽やかにクリスは後ろに跳んでいた。


「へっ、やるじゃあねぇか」カーラは地を蹴って追いすがった。


 彼女の瞳はぎらぎらと輝き、歯を剥き出しにして戦闘の喜悦が迸る。


 ――わぁ、これが女傑族(アマゾネス)。うん、相手にとって、不足なし。


 くすり、

 とクリスも頬を緩ませていた。


「はぁあああッ! おらおらおらおらぁッ!」


 カーラのラッシュ。

 少女であろうとも女傑族(アマゾネス)の強靭な褐色の肉体から放たれる連打は暴力の具風だ。

 クリスはそれをあくまでも嫋やかにいなし、流し……、


 ――凄い、回転もパワーもますます上がっていく。いなしたまま崩そうとしているのに、パワーで強引に引き戻しては打ち込んでくる。これならまだいなし続けられるけれど、もしもこのままパワーが増していくのなら……。


「おらぁッ!」


 拳に前蹴りが混じった。ひらりと可憐な蝶のように舞い、クリスが避ければカーラの方が距離を取った。


「ま、こんくらいはやってくれねぇとな。どうだ? あたしもなかなかのものだろ?」

「ええ、素直に驚嘆します。これが女傑族(アマゾネス)  いいえ、カーラの戦闘力」

「そうだ、あたしの力だ。だが、こんなもんじゃあねぇぞ。覇ァあああッ!」


 彼女が叫べば気圧が増した。


 (オーラ)

 肉体を通して膨れ上がる、魔術よりもより物質的な生命エネルギーの発露である。


 それを扱うことを気功とも言う術によって、カーラは己の身体能力を高め、攻撃力、防御力、俊敏性、それらを爆発的に向上せしめる。

 そして彼女の〈エルピス〉は『拳闘士(グラップラー)』。その威力はもはや計り知れぬ。


「覚悟しろよ、ここからが本番だ」

「そのようですね。それならばボクもこちらを使用しましょう」


 クリスはその唇から詩を奏でる。

 世界へと聞かせる己の詩を。


「〝我は騎士にして姫、姫にして騎士。弱きを援けて強きを挫く。凛と咲き誇れ、白百合の華〟」


 魔法の始動呪文。

 魔法の使用に必ずしも呪文は必要ではない。が、それを唱えることで世界との経路を繋ぎやすくする。より滑らかに、より深く、速く。

 魔法とは世界に夢を魅せる行為にして術。自らの精氣(オド)を呼び水として、世界の魔力を使い、結果を引き寄せる。


 風が吹き、風を孕んで彼女のポニーテールもスカートもはためいた。

〝風の舞踏衣装(ウィンド・バトルドレス)


「さあ、踊りましょう」

「血のダンスをなぁ!」


 先ほどとは比較にならぬ速度、威力でカーラは飛び出した。

 突き出された右拳。

 ただ風を切って、猛威を纏ってクリスに襲い掛かった。


 クリスはそよ風を纏っていた。その風を手繰るように、踊るように、カーラの手を取っていなしてしまう。掠めた暴力の拳。放たれた鎌のような踵。暴威が荒れ狂い、それを柔らかな風が宥めるようにワルツへと誘ってしまう。


 暴威と嫋やかさ。

 相反する力の質だが、それがどうしてここまで噛み合うものか。


 打撃を掌がいなす。リード。ステップ。リード。まさしくクリスがカーラをリードし、踊るような攻撃の応酬。その隙を突いてクリスはカーラの関節を極めにかかるが、


「甘ぇ!」


 決まる前に力で押し戻した。

 だが、クリスのダンスの前にカーラは隙を見いだせぬ。


 ――チッ、やっぱ技術的にはあたしが負けてるか。押し切れないし、押され切れはしねぇけど、攻撃が通りかけてるのはあいつの方だ。いけ好かねぇ。だけど、いけ好かねぇのに愉しいってどういうことだよ!


「お、あ、あ、あ、あ、あ、あ――――」


 喜色満面、咆哮破顔。互いの応酬は苛烈を極めた。

 やがて、カーラは氣力を爆発的に高め、


 アーツ〝破壊拳〟。


 それは拳による突きであった。

 が、闘気を纏って突き出されたそれは、点にして面の攻撃。破壊圏。膨大な闘気を纏い、真正面の相手を尽く破壊してしまう。


 避けようが、真正面に立つならばそれは射程範囲圏内。

 そして、いなそうが、破壊の闘気を纏ったそれは、触れるにはそれ相応の“力”が必要となるのである。それは氣であり、魔力であり、なんにせよ、そこに籠められた“力”を越える“力”でなくば触れられぬ。


 柔よく剛を制すという言葉があるが、それと同時に反対の言葉も存在する。

 剛よく柔を断つ。

 剛を制し切れなかった柔は、むべなく断たれるのだ。


 真正面に居て拳を突き出されたクリスは、


 ――気張ろうか。「すぅううう」


 息を、纏った風を吸い込んで、


是嗚(ゼア)ッ!」


 轟、と。

 剛、と。


 大地を踏みしめ鉄塊と化し、振り抜かれたカーラの拳を下からカチ上げて弾き飛ばした。


「なッ、アッ――」


 眼を見開く彼女にクリスは肉薄し、躰を寄せ、首を抱き、足を払って押し込んだ。


「ひゅう♪」

『きゃーっ!』


 ギルマスが口笛を吹き、黄色い声――の中に野太い声も混じっていたが、クリスは倒れるカーラを抱きすくめる形で咽喉に指を当てていた。


 紫水晶の瞳とブラウンの瞳が交錯。


「チェックメイト。ボクの勝ちで良いですか?」

「な、なななっ……」


 間近に寄せられたクリスの可憐で凛々しい貌にカーラは褐色の肌を真っ赤にさせて戦慄いてしまう。


「ふふ、可愛らしい」


 あわあわする彼女から身を離せば、「あ……」と哀しそうな声がした。


 ギルマスはくつくつと嗤っていた。「おいおい姫さんよ、確かに私は動けなくなった方の負けとは言ったが、こんな方法でとは、トンだ姫騎士もいたモンだ。カーラ、納得するか? まあ確かに、動けなくはされていたが」


「え、あっ、うっ、うぅうう……」


 カーラは羞恥心で真っ赤になって俯いてしまう。


「まあ、勝ちで良いだろう。勝者クリスティーナ!」


 わぁあああッ! と観客席が湧き、「マジかよ、あのお嬢ちゃんがこれからこのギルドに所属すんのかよ!」「女取られねぇか?」「私は一向に構わん! ってか是非とも見たい!」「なんか目覚めてる奴がいるぞ!」

「きゃーっ、クリス様ーっ!」


 力を示し、鮮やかな手腕には女冒険者達も色めき立つ。

 可憐で凛々しいことは嫉妬の対象であったが、“強さ”を伴い気品のある姫騎士はむしろ惹きつけられる華。男にいやらしく媚びることもなく、むしろ女の子を可愛がる。クリスティーナはもはや嫉妬の対象ではなく、羨望、憧憬のアイドル――。


「えっと、約束、だから、な……?」


 もじもじとするカーラがクリスの裾を捕まえていた。


 ――あっ、可愛い……じゃなくって!


 ……えっと、「カーラ、さん?」


「そうじゃなくって、カーラって呼んでくれよ、な? 姐御」


 頬を染めつつもニカッと破顔する彼女のことを、クリスはもう拒めなくなっているのであった。

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