第8話:追跡者
夜の路地裏に座り込んだまま、呼吸を整えていた時だった。
――カツン。
規則正しい足音が近づいてくる。
暗闇の向こうから現れたのは、黒いコートに身を包んだ数人の男女だった。
彼らの目は冷たく光り、俺を標的として見据えていた。
「……誰だ、お前ら」
問いかけても答えず、一人が小さな端末を取り出し、俺に向ける。
端末が赤く点滅すると同時に、耳の奥で低いノイズが走った。
《対象確保開始》
「……また“観測者”か?」
思わず構えると、先頭の男が口を開いた。
「違う。我々は“管理局”の者だ」
管理局――?
初めて聞く名前だ。だが、その声色に容赦はなかった。
「君の存在は危険だ。放置すれば、都市全体に被害を及ぼす」
「従順に確保されるなら、まだ処置の余地はある」
「……処置?」
胸の奥で何かがざわめく。
彼らの言葉は、人間ではなく“化け物”として俺を扱っていた。
「待て……俺は人間だ!」
だが、返答は冷酷だった。
「人間? それを決めるのは我々だ」
瞬間、彼らの手元で装置が唸りを上げ、赤い光が網のように広がった。
空気が歪み、逃げ場を塞ぐ檻が形成される。
「……クソッ!」
身体の奥が熱を帯びる。
爪が伸び、皮膚がざらつき始める。
彼らの目が、それを確認するかのように冷たく光った。
「見ろ。人間なら、そんな変異を起こすはずがない」
――違う。違うはずだ。
だが、否定の言葉は声にならなかった。
俺の姿は、まぎれもなく“異形”へと変わりつつあった。
次の瞬間、赤い檻が俺を包み込み、全身を締め付ける。
苦痛に顔を歪めながら、俺は心の奥で叫んでいた。
「……助けてくれ……誰か……!」
その叫びに応じるように、影の声が再び響いた。
《抗え。お前は俺だ――》