第7話:断片の目覚め
頭を押さえたまま、俺はうずくまった。
視界が揺れ、脳裏に映像が流れ込んでくる。
――どこかの研究施設のような部屋。
冷たい金属の壁。
機械の唸る音。
そして、白衣を着た人影たちが俺を囲んでいた。
「適合率、まだ上がらないな……」
「だが、被験体としては充分だ」
耳に刺さる声。
顔はぼやけて見えない。
ただ、冷たい視線と、機械に縛られている自分の姿だけがはっきりと分かった。
「……俺は……あの時……」
映像が揺らぎ、今度は黒い液体のようなものが注ぎ込まれる光景が見える。
全身を焼くような痛み。
叫んでも声にならず、ただ赤い光が視界を覆っていく。
《――融合開始》
どこからか響く機械的な声。
そして、俺の中に何かが流れ込む感覚。
「やめろ……やめろおおおおっ!」
叫んだ瞬間、映像は霧のように消えた。
気づけば俺は路地裏の地面に座り込み、全身汗だくになっていた。
胸が荒く上下する。
今のは夢か、幻覚か――いや、違う。
これは……記憶だ。
「俺は……あそこで……“影”を……」
言葉の続きを口にできなかった。
喉が焼けるように痛く、ただ沈黙が広がる。
確信だけはあった。
あの空白の中で、俺は何かを“埋め込まれた”。
そして、その結果として――影は俺の中に生まれた。
夜風が肌を撫でる。
だが、背筋を冷たく走るものは風ではなかった。
「……じゃあ、俺はもう……人間じゃないのか……?」
その問いに答える者は、誰もいなかった。