第5話:影との対話
肩を抉る痛みに歯を食いしばる。
赤い瞳が目の前で揺れ、影の声が頭の奥で響いた。
《――お前は俺だ》
「……ふざけるな!」
怒鳴り返し、渾身の力で影を突き放す。
爪が閃光を放ち、黒い肉体を裂いた。
だが、影は笑うように形を揺らし、再び立ち上がる。
《否定するな。お前の血も、肉も、力も――すべて俺と同じだ》
「違う! 俺は人間だ!」
《ならば何故、変わった?》
《何故、その身体を受け入れた?》
言葉が胸に突き刺さる。
否定したいのに、返せない。
俺は確かに、あの夜から“人間のまま”ではなくなっている。
影が一歩近づく。
重くのしかかる気配に、足がすくみそうになる。
《お前が俺を拒む限り、苦しみは続く》
《だが……受け入れれば、全てが一つになる》
「……一つ、だと?」
その言葉の意味を問い返そうとした瞬間、影はさらに爪を振り下ろす。
反射的に交差した俺の爪とぶつかり、火花が散る。
互いの力が拮抗する中、耳の奥に声が響き続ける。
《思い出せ。お前が“なぜ選ばれた”のかを――》
「なにを……知っている……!」
答えは返らない。
ただ赤い瞳が、俺の奥底を覗き込むように輝いていた。
次の瞬間、影の身体が霧のように溶けて消えた。
残されたのは、俺の荒い息と、脳裏に残る言葉だけ。
――俺は、影と同じ存在なのか?
恐怖と疑念が胸を支配する。
だが同時に、抗えない引力のように“真実を知りたい”という欲望が膨らんでいった。