第4話:影の再来
観測者が消えた部屋は、ひどく静かだった。
だがその静けさは、安らぎではない。
胸の奥に残ったのは、冷たい不安と重い予感。
――ドンッ。
まただ。壁の向こうで、鈍い衝撃音が鳴る。
心臓が跳ね、思わず身構える。
「……来るのか」
壁に走る黒い亀裂。
そこから滲み出すように、漆黒の液体が流れ出す。
液体は床に落ちると形を変え、やがて“あの影”の姿を作り上げていった。
赤い瞳がこちらを睨む。
さっき倒したはずの影――だが、より濃く、より重く、異形を増している。
「……やっぱり、終わってなかったか」
背筋に走る悪寒。
だが恐怖だけじゃない。
同時に、身体の奥からまたあの熱が湧き上がる。
皮膚がざらつき、爪が鋭く伸びる。
《……適合率、上昇》
頭の中に、観測者の声がまた響く。
「……黙れ!」
俺は叫び、爪を振り抜いた。
空気を裂く衝撃。
光の爪が影の身体を切り裂き、黒い液体が飛び散る。
だが影はすぐに形を修復し、牙を剥いて飛びかかってきた。
爪と牙がぶつかり、火花が散る。
全身に響く衝撃――まるで自分自身と戦っているかのようだった。
「くそっ……!」
必死に押し返しながら、俺は思った。
これはただの怪物じゃない。
俺の力と“何か”で繋がっている――そんな気がしてならなかった。
影の赤い瞳が光を増し、耳の奥で声が重なる。
《――お前は俺だ》
「……なに……!?」
一瞬の隙を突かれ、影の爪が俺の肩を抉る。
痛みと共に、脳裏に響いたその言葉が離れなかった。