第3話:観測者
窓の外で閃いた赤い光は、一瞬の幻ではなかった。
次の瞬間、空間が揺れる。
まるでテレビの画面が乱れるように、視界にノイズが走った。
「――っ!」
俺は反射的に構える。
爪が半ばまで伸び、皮膚がざらつき始める。
また“あの影”か――そう思ったが、違った。
ノイズの中から現れたのは、人の形をした“光の残像”だった。
顔立ちは曖昧で、男か女かも判別できない。
ただ、冷たい視線だけがこちらを射抜いていた。
《対象、確認。記録を開始する》
あの声だ――頭の奥で響いた声。
息を呑む俺に、その存在は一歩、また一歩と近づいてくる。
「お前……誰だ……!」
叫んでも、返答は淡々としていた。
《観測者――それが我々の呼称。君の変化を、監視し、記録する者だ》
観測者?監視?記録?
ますます訳が分からない。
胸がざわつき、心臓が早鐘を打つ。
「なぜ……俺なんだ? 俺はただの人間だったはずだ!」
観測者は首を傾げるように動き、言葉を告げた。
《“ただの人間”は、こんな力を宿さない》
《君は既に“選ばれた”存在だ――異形と人の境界を越えた者》
「……選ばれた?」
思考が追いつかない。
けれど、その言葉が“後戻りできない”事実を突きつけてくる。
観測者の瞳――赤く光る虚像が、俺を映す。
その中に、確かに“異形の自分”が立っていた。
次の瞬間、観測者はふっと掻き消え、空気だけが重く残った。
――俺は本当に、人間なのか?
夜の静寂の中で、自分自身に問い続けるしかなかった。