第2話:残響
荒い息を吐きながら、俺はその場に膝をついた。
床にはひび割れ、壁には深い爪痕。
さっきまでの戦いが、すべて幻覚だったなんて思えない。
「……俺の、力……?」
指先を見つめる。鋭く伸びた爪は、なおも光を帯びて震えていた。
けれど、次第にその光は消えていき、爪も少しずつ元の形へと戻っていく。
ただ――皮膚にはまだ異様なざらつきが残っていた。
背筋を汗が伝う。
恐怖もある。だが、それ以上に強烈な違和感。
まるで「自分の身体ではない」感覚が、今も抜けていかない。
――ドンッ。
不意に、壁の向こうから衝撃音が響いた。
心臓が跳ねる。
影は消えたはずだ。だが、本当にそうなのか?
静寂の中、耳に残るのは、自分の荒い息と、まだ震える心臓の音。
そのとき、脳裏に声が響いた。
《――観測開始。対象、適合率……七二%》
「……誰だ?」
俺は思わず周囲を見回す。
だが、誰もいない。
ただ、空気だけが重く淀み、冷たい視線に晒されている気がした。
恐怖と不安、そして疑問。
なぜ俺は変わった?
この声は誰だ?
そして、さっきの影は――一体何者だったのか。
次の瞬間、窓の外に赤い光が一瞬だけ閃いた。
俺は息を呑む。
戦いは、まだ終わっていない――そう確信せざるを得なかった。