悪魔の研究の巻
深い、闇
────12年前……藤港某所、午前2時。
光の届かないレンガ作りの地下。蛍光灯が強く照らす一室の机は、大量の丸薬と何かしらの器材で溢れかえっている。
「おい紫姫! お前ここの配合ミスったろ……」
その薄暗い部屋には、3人……志喜屋、鷹星、鷲上が居座っている。
「……間違えたも何も、この薬は活性剤」
彼らが本部から受けた指令、『PW4計画』。本部から研究員として専属され、早1年と2ヶ月。研究開発は遂に、最終段階へと突入していた。
「……誰か、飲んでみる?」
『試薬』と書かれた箱を指差しながら、志喜屋が言った。
「誰が飲もうか? 死ぬよ、あれ……」
そう言いながら鷹星は箱を開け、部屋の奥隅へと向かった。
その先にあるのは、鉄格子で囲まれた『牢屋』。
「うぅ……もうやめてくれぇ……」
中から聞こえて来るのは、何かに怯える男の声。その狭い檻の中には、痩せ果てた男、女、そして子供。10人程が収容されている。
その肌に纏うのは、泥で塗れた布切れ……ただ一枚。牢屋の隅の方には、積み上げられた死体の山が鎮座している。
「はい、口を開けてね〜。あー……」
鷹星の左手にある丸薬を目にし、男の口をこじ開けた。男は静かに首を振り、鷹星の手を払いのけた。
「よくできたね〜。お疲れ様」
鷹星は男の喉元まで薬を運ばせると、笑みを浮かべながらその場を離れた。
───その、数秒後。
「……父……さん? やめて……!」
一人の女が、子供を抱えながら悲鳴を上げた。
目の先にいるのは、鷹星が先程話した男。目の焦点が合わず、豹変している。
「……何? またなの……? 今度はあなたなの……!?」
彼女が何かを言いかける前に、男の体が棘状に変化する。突如女は声を失った。
………直後、部屋中に鋭い音が鳴り渡る。暫くして、鉄格子の下から血が滲み出した。中からは赤子の泣く声が聞こえてきた……しかし、次第にそれも収まった。
「……これで15人目ね。"覚醒者"」
檻の方に目を当てず、気にもしない様に志喜屋がそう唱える。
「犠牲者はその倍だけどね〜」
『覚醒』から数分後、鷹星が確認しに行った檻の中では、巨体と化した男が丸く気絶していた。
「今回も……失敗作、か」
「えぇ……10分も持たない。そんなところ」
───自身に秘められる真影のチカラを、最大限に引き延ばす……当然エネルギーは燃え尽きる。シアンの予言まで後12年。
───来るべきその日までに、この問題を解決せねばならない。
その実験台は、WCに真影の情報を与えた『ユダ』とその家族。
……後に『悪魔の研究』と称されるこの実験は、3人の心を大きく傷つける要因となるものであった。
───実験開始から400日。
最終調整は困難を極めていた。しかしながら順調に事は進み、応用活性剤の完成で真の完成…………そのはずだった。
───実験開始から415日目。試薬は盗まれた。
『試薬品』……後に、この失敗作がPW4の前身になる事など、この時は誰も考えもしなかった。




