時空消滅の巻
運命の、エンブレム
「猪狩……猪狩?」
誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。ここは総合病院棟の303号室。現在猪狩がいる病室である。
(ん……? 誰だろ……というか体が動かん……)
途中から記憶がない。確か富士谷に能力を解除してもらって……それから……?
「気づいたか……猪狩弘」
どこからか声がしたので、猪狩はゆっくりと目を開けた。体を横にして見てみると、何と富士谷が椅子に座っているではないか!
「富士谷さん……? 生きているんですか!?」
「………」
富士谷からは返事がなかったが、猪狩は少しほっとした。
「他の二人は……?」
あの後、メルとエネはどうなったのか……猪狩は気になって富士谷に質問した。
「……横、って言うか真横」
慌てて体を横に向ける。真隣のベットでエネが、その横の机にメルが寝ているのが見え、猪狩はまたほっとした。
「……それにしても戻ったんですね……本当に……」
「……そうだな」
……ザワッ
富士谷の声に猪狩は何故か寒気がした。何処か……何かがおかしい様な……そんな不気味な声だったのだ。
「………あれ?」
隣のベットからエネが目覚めた。いつの間にかメルも目覚めている。
「……メル、エネ……起きたか。4人で少し話をしよう」
「どこ……ここ、病院?」
エネとメルが不思議そうに、同時にそう言った。
「そう言えば……ホントだ」
富士谷に驚きすぎて猪狩はここが何処なのか、まだ気が付いていなかった。それどころか……何故ここにいるのか……何故自分の体が動きにくいのか……?
「今……夜の9時半だ。お前たちがここに運ばれて来て1時間が経つ」
「1時間……って事は……あれ? 8時半に着いた?」
「そう、お前達がここに着いたのは8時30分」
裁判所突入が午後7時20分。そこで気絶したにしては間が長すぎる……。
「え、じゃあそれってまさか……?」
何かに気がついたのか、メルが少し驚いた口調でそう言った。
「そうだ。お前達が今いるのは……元の時間軸、つまり俺が死ぬ前の時間軸だ」
ー7:20
猪狩が富士谷と接触した瞬間、富士谷の能力を解除する能力……"|時空消滅《disappointed》"発動した。裁判所からは忽然と猪狩、メル、エネの4人が姿を消して、一時法廷内は騒然としていた。
「猪狩……? どこ行ったんだアイツ!?」
いち早く異変に気がついたのは零細だった。その1週間前、零細は富士谷と接触していた。
ー約1週間前(零細が猪狩を捜索しに行く直前)
メルが他の任務で外出中、富士谷は一人で零細に会いに向かっていた。藤港のAF入口……古屋にて、二人は遭遇したのだった。
「貴方は……どこかで見覚えがある様な……?」
「久しぶりだな……零細君」
どこで面識があるのか、久しぶりの再会に零細は動揺している。
「……猪狩弘を……か。遂に来たな……」
「ええ、やはりあなたの予言通りになりましたね。富士谷さん」
あなたの予言……。
「ふっ……そうだな。ようやく来た。この時が……」
「それに、あなたの最期の時も……」
「あぁ、その話をしに来た。私が最後にやるべきことを……お前に伝えに来たんだ」
「……? 俺に何かやれとでも?」
「いや、そうではなく……猪狩弘にな。ちょっと仕掛けて欲しいことがある」
「………? 危険事なら俺は嫌ですよ?」
「違う。このバッジだ」
そう言って富士谷が零細に見せたのは『A.F』の文字が刻まれたエンブレムの様なもの。
「この中に俺の血を入れた」
「……? まさかそれって……」
「シアンの予言を見て気付いたことがいくつかある……特に猪狩弘、佐野惟兎……この2人」
「"猪狩"……やっぱアイツの事でしたか……」
「そう。予言通りに行くと、アイツは真影が芽生えない。だから……」
最後に、富士谷はこう伝えた。
「猪狩弘に授けるんだ。俺の力を……」
10話辺りに出て来たエンブレムは結局、防衛力なんてものはありません。詳細は次話に公開予定。
もう伏線だらけですね。




