遺言と伝言の巻
第三章、始動
「……猪狩、いくよ」
───スリップ前、18時30分。
現実時間の猪狩と満が、裁判所に向かう時刻である。
───AF地下通路内
「答えろ……何か喋……」
腹部と肩、足を各々刺された富士谷の血が、猪狩の手に滲み込む。瞬殺───言い回し用の無いその有様に、猪狩は唖然として動かない。
「手の中に……」
富士谷の親指先端、血に隠れた紙が二人を覗いている。メルのその声からは、先刻までの陽気は消えている。
「…………紙?」
猪狩の手に富士谷の腕がそっと触れる。『死後硬直』では言い表せない程、強く握る手から紙が引き離せない。
「……真影?」
「…………?」
軽い音を立て、メルが富士谷の頭に飛び乗る。
「何が起こって……?」
僅か1ミリ、富士谷の拳が開く。猪狩には、富士谷が『自ら動いた』様に感じた。
「おい、メル。もしかして……生きているのか?」
気を失ったのか、メルはまるで動かない。
「……おいメル! どうなってんだ……?」
富士谷の顔にへばり付くメルをむりやり引き剥がす。何に驚いたのか、突然猪狩が青ざめる。
脈がない───触れた瞬間、即座に実感したのだ。
「どうなってるん……」
声を上げる猪狩の肩に、軽く何かが舞い降りた。
「これが……私の真影です……」
途切れ途切れの掠れ声が、確かに左耳へと届く。視界の端には白い羽がチラついている。
「…………!?」
白い鳩に驚くと同時、頭の中で理解が追いつかない猪狩は、不意に言葉を失った。
「私の真影は……他人に憑依する能力、そして操る事ができるんです」
声を取り戻し、メルは話し始めた。
「……それは、死人にも通用するのか?」
「えぇ。ですがその場合、条件が必要です…………取り出せましたか! その紙」
「その紙? あ、左手か」
メルに焦る猪狩は、右ポケットを触りながらそう答えた。
「……やはりメッセージですか? 先程の真影、私でなければ解除出来ない、そんな仕様でしたので……」
未読の猪狩は、先に手紙を渡した。目を細くして、メルがその手紙を読み上げる。
───猪狩 弘へ
「……猪狩弘へ? 俺宛?」
「どうやら、その様です……
───この手紙が届いていると言う事は、私は死んだのかい? これは、死後に現れる……言うならば遺書、そう思えばいい。
───早速だが本題だ。もし私の真影に巻き込まれ、この手紙を読んでいるなら、直ちに下記の行動を行うことだ。
○私の能力は死んでも消えない。死後1時間経つと、私のカバーから護られず、お前達は消滅する。
……って、え? 初耳ですよこんな条件!」
「……とりあえず続きを」
○もう一人の私に会え。仮に君達が未来に居る場合はすまない。『シアン』という人物を探せ。後に記す。
○君達が過去にいるなら、もう一人の私に会いに来い。ただ、もう一人の自分とは絶対に会うな。
……って確か、裁判中ですねあの人……」
「……続きは後だ、急ぐぞ。因みに……」
下に倒れている富士谷を振り向こうとする。それを遮るかのようにメルが口を開いた。
「……連れてっていたら間に合わない」
猪狩が急いでメルの後を追う。
───それから一言も発さず走り続け、瞬く間に地下通路を抜けた。程なくして、余りの暗さに司令塔の方角を見失ってしまった。
「……何時ですか?」
メルがそう声にし、慌てて猪狩が腕時計を確認する。
───18:45
死後間も無く10分。暗闇の中、二人は先に行き詰まったのだった。
───それから20分。同じ場所を幾度無く回り続けた挙句、残り時間は後30分に迫っていた。そんな中、メルが何かを思い出した様に口を開く。
「───エネ!」
しばらく空きました。
後25pvで1000達成です!よろしくお願いします!
それでは、また次回お会いしましょう!




