希望と絶望…第二章,完の巻
副編メインの、本編メイン
男に触れられた猪狩は、1時間前の世界に戻っていた。
「何を見せたいと……?」
───班員棟の地下通路。
男が言うに、元々班員棟は地下にあったらしい。
敵襲に備え、狭く複雑で行き止まりも多々ある"地下要塞"───長年使われていないからか、今はもはや幽霊屋敷の様相である。
「…………」
猪狩が質問するも、男は頑なに無言を貫く。代わりに鳩が流暢に会話を交わす。
「ここが元18班係室…………私達の元事務所です」
入り組む通路を抜け、一層暗い部屋に辿り着いた。男が扉の前で棒立ちしている。
「てことは、二人は元々…………同僚?」
「…………」
今度は鳩の方からも返事が返ってこない。気遣いからか、猪狩が慌てて話題を逸らした。
「…………そもそも、何で鳩が喋ってんだ!?」
「それは……話すと長いですよ? 因みに私はメルです」
鳩が男の肩を軽く叩いた。何故だろうか、猪狩の思いとは逆に、鳩が男を指示している。
「それに……お前誰だ!?」
色々状況が飲み込めない中、説明皆無で連れて来られたことを猪狩は思い出した。まだ二人の名前も聞いていないのだ。
鳩が軽く2回、男の口を優しく叩く。男は初めて口を開いた。
「富士谷です…………富士谷で結構です」
(何言ってるんだ…………?)
「ほら……ここです。着きました」
立ち止まって目の前にあるのは、錆び古びた鉄の扉。到底二人では開けられようもない。
「長年内側から閉まってます……何故か真影でも開ける事ができず…………」
「そこで君の力を借りたい。猪狩君」
「…………え? 俺?」
真影保持者でもない自分に何を任せるのか、猪狩は不思議であった。
「猪狩君。これを預……エネから頂きました」
差し出された紙切れを受け取り、上からそっと広げた。
「まだ私達も読んでない。そう言う掟だ」
薄く焦げた紙に3人が目を通す。小さく、3文字だけ写されている。
───予言書
「…………予言書?」
訳もわからず、驚いた表情を見せる猪狩とは別に、二人は各々沈黙している。
「…………?」
猪狩の方を見ながら、二人が同時に口を開ける。
「"定められし者"」
(……………………俺?)
「取り敢えずこれを読んで……」
富士谷が猪狩に差し出したのは、雑な筆記体で書かれた…………再びの紙切れ。
「これは……?」
「AFの希望と絶望の書……シアンの予言」
───シアンの予言
零細が以前話した、未来を予知する真影『絶対予知』の持ち主、シアン。彼女が60年前に残した『秘匿』の予言書である。
手紙の存在を知る者はごく僅か。富士谷達はある目的のもと、この予言書を探し求めていた。
薄い予言書の巻頭に書かれていたのがこの一節。
───次世の記、小半。我天の神が全てを无に帰す…………
(……………厨二病?)
───しばらく続き、最後の一節。
───月満ちし天命の子ら。光を手にし、神を欺く愚者、新天の神となるであろう───
(そういや俺が生まれたの満月だったな……)
偏りのある小説を熟読している猪狩。時間を要する内容でも、猪狩には内容が一瞬で読解できた。
「『これから"神"とやらを凌駕する真影を手にして、敵と戦え!』って言われても……な?」
「……はい。ですが猪狩さn……」
「待て、メル! これ以上彼にs……!」
「…………?」
メルは一度止まって、話題を微妙にずらして再び話し始めた。
「……これがシアンの予言の全容ですが、もう一冊別のg……!」
メルが突然話を止める。猪狩を覗き込むその瞳の端には、半開きの扉が見えている。
…………ギ
「………?」
猪狩達のいる扉の向こうから鈍い物音がし、メルと富士谷は扉の方を振り向く。視界に何かが映る前から、不吉な予感は猪狩に走っていた。
「…………動くな」
首が170度手前で静止する。富士谷が10度先の何かを凝視しながら注意を促した。
……ギギギッ
二人の前の重い扉が開き、暗い地下通路の中に光が差し込む。
……ドサッ
眩しさに2人が目を瞑っている間、扉の反対側から、何かが倒れる重い音が鳴った。
「なんですか今の音……! 大丈夫ですか富士谷さん!!」
──────返事がない。
「富士谷…………さん?」
寒気がより鮮明に、猪狩の全身を走る。首と体は俄然動かせない。
「富士谷さん……聞こえますか!!」
力を入れると同時、猪狩の胴体が富士谷の方を振り向いた。
───それと同時に、扉の向こうの部屋に誰かが入っていった。
(誰だアイツ……?)
注意を扉の奥に逸らした、その時だ。
「富士谷さん………? 富士谷さん!?」
猪狩が振り向く時にはもう遅い。
背中合わせに伝わる静寂……富士谷の姿がない。
『死んでいた』という表現、敢えてです(流石に詳細書くのはヤバすぎるので)。
第二章、とりあえず終わり。
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