無口男と謎鳩の巻
あの男、遂に登場?
───満が猪狩に示唆した、右の席に座る男。一言も発さずに、淡々と猪狩の回答を吟味している。
「……以上です」
約20分に渡る質問攻めを終え、裁判は審議時間に突入。満が注意喚起した裁判官は、目の前のペットボトルを片手に取って、肩にいる鳩に飲ませている。
(今のところ不審な点はないが……なぜ肝心な事を離さんのだ? あの人は……)
沈黙の観客席で一人咳き込む満を、睨む様に横目で確認している間に、審議タイムが終了。一番右端の裁判官から一言。
「それでは猪狩弘。君の安全と皆の安全の為、君の真影を見せたまえ」
───観客一同が、瞬時にざわめき始める。
当然裁判官達も、猪狩に真影がない事など理解している。その上での質問、答えは一つしかない。
「……え?」
唐突な意味不明な内容に、猪狩は耳を疑った。
「……私、持ってないけど?」
猪狩の一言で会場が急に静まりに帰った。零細達も黙って猪狩を傍観している。
「それなら、"今ここで"作り出せ」
(そう言われたって……どうすんだよ零細!)
助けを求めるように零細を仰ぐ。暫くして、満がボードに何かを書き始めた。
しばらく経ち、満はボードを頭上に掲げ猪狩に指図した。
───貴殿は既に覚醒してる───
「どうした猪狩弘? 証明できないのであれば……」
「……そんなこと言われたって!!」
終わりの時間が迫り来る中、猪狩は真影の出し方が分からず困惑している。
(───全員、どうやって出してた……?)
突然猪狩が冷静モードに切り替わる。背景一つ一つを鮮明に辿り、その答えに迅速に迫る。
しかし必死に思考を巡らすものの、真影の出し方は十人十色。頭を抱えこむ猪狩に、一段と辺りがざわめき始める。
……そんな状況の中、ただ平然と彼を見つめる男が一人、いや更に一羽。満が注意するように指示していた、一番左端にいる裁判官であった。肩には何故か鳩のような小さな生物を乗せている。
「………」
「……憑依しますか? 猪狩弘には残って……」
ボソボソ聲で机の鳩が喋る。勿論、ざわついている会場に鳩の声は伝わっていない。しかし猪狩には鳩が喋った音を確かに聞き取った。
「…………!? 喋った……?」
(あ、バレてる……)
(バレてますね……)
猪狩の声でまた会場が平然に戻った。喋る鳩に困惑する猪狩は言葉が出てこない。
猪狩が鳩に気づいたのを機に、今まで一度も口を開かなかった、鳩の席に座っている男が話し始めた。
「バレてしまっては話が早い……裁判長、宜しいですか?」
何を考えているのか、鳩が裁判長に指示を仰ぐ。
「……君なら構わん。手短に」
裁判長がそう答えると、男は鳩を持って猪狩の側へと近寄って来た。
──気がつくと、男がそっと猪狩に手を触れていた。3人の視界が急に薄れ始めた……
(何するんですか!? 急に!)
何故か声が出せない。そればかりか、ここに来るまでに走った分の疲労が薄れていく……
(何なんだ? これは……!?)
しばらく暗闇の空間を越すと、3人は班員棟……つまり崖の孤城へと戻ってきていた。
「……私が1時間前にいた場所。ちょうど6時20分に戻させた。何かあるといけないから……」
男はそう言うと、班員棟の地下通路へと続く階段を降りていった。
(……まず誰だよこのおっちゃん)
「猪狩弘、着いて来い。見せたいものがある…………
……おまえには一つ、真影が必要だ」
第二章、いよいよクライマックスです。
次回、ちょっとややこしい二章最終回となるかも……
それでは2回目の最終回、乞うご期待♪




