未来の猪狩、現るの巻
悪夢の、同窓会
ー再び3年前、11月11日午後6時ー
「お前……その顔二度と見せるなって言ったよな?」
剛の怒鳴り声が同窓会の会場に響き渡った。
「いいからよ!」
菜々風も必死に叫ぶ。会場にいる皆が二人の方に注目し始め、二人は場所を変えて話し始めた。
(菜々風の奴、何で俺を探して……?)
猪狩は不思議に思った。兄から聞いた話だと菜々風は剛と会った直後に行方不明。今日まで姿を現さなかったのだ。
「鹿野の伝言を伝えに来たんだ! お前の弟に!」
剛と猪狩は呆気に取られた。
「お前……鹿野は死んだって……!?」
「……! いいから弘はどこにいる……? じゃないと俺が奴殺されんだよ!」
二人が菜々風が何故焦っているのか理解できず、困惑していたその時だ。
彼の背中に何か、冷たいものが走った。
「おい、菜々風。そこで何してる」
猪狩には聞き覚えのある威厳のある声が、背後から迫って来る。
「居場所を聞き出してたんだ……でもコイツしらねぇって言って……」
("兄ちゃん"? 菜々風の兄なのか……?)
咄嗟に背後を振り向く。鹿野が側に立っている。
「菜々風、鹿野と一体お前……」
「……従兄弟の兄貴!」
「おい菜々風! 何処だと言って……」
「だから、知ら無い! 取り敢えず落ち着いて」
(……俺、鹿野に殺されるって一体全体……?)
大声で叫ぶにも関わらず、猪狩の声だけが会場に響き渡る。
(……そう言えば、俺のこと見えていない様な……?)
「おい、お前は確か……弘の兄貴?」
猪狩の声が届かなかったのか、彼を無視して鹿野が続ける。
「20年前の例の事件、直後。未来のアイツに背中刺された……アイツは、一体何だった……!?」
(俺が鹿野を刺した……!? 未来の俺を見たって本気で……!?)
「それより気掛かりなのは、奴があの晩に言ったことだ!!」
────2010年、植松事件の直後
「おい、菜々風しっかりしろ! 一体誰が!?」
アジトに戻ってきた菜々風。何故か右腕が折れている。
「背が低い……男……傷は浅いからそれより……」
…………ズーン、
扉が開く低い音と共に、一人の男がアジトに侵入して来た。全員、何処かで顔ぶれがあった。
「おい、止まれ───」
扉の近くにいた一人の団員が駆けつける前に、その男は菜々風の方へと走り出した。
「おい、こいつナイフを持って………!」
…………ザクッ!
一人の団員が呆気に取られている。男のナイフは菜々風……ではなく、彼を庇った鹿野の腹に貫通している。
「うぁぁぁぁぁっっ!?」
血が流れ始め、それに少し遅れて鹿野の辛々しい呻き声が部屋中に鳴り響いた。
「団長! しっかりして下さい!」
「おい、相手は……! 全員、まとめて叩き潰せ!」
鹿野の掛け声に皆が順応する。男は直様宙を舞う。
「お前ら全員、地獄に落ちろ……!」
見た目から想像出来ないほど、若々しい声で呟いた。頭から墜落する彼に一人が飛び掛かるが、男は皆の視界から消えた。
「おい、まて……なぜ俺を狙わない……!?」
宙を自由に飛び交う彼は、唯一人、菜々風を狙って来ない。
……ギギッ、
扉が開くと同時に、零細が入って来る。
「おい、誰だお前!」
いつ扉の方へ移動したのか、男を見て零細が叫んだ。
「お前……猪狩なのか……!?」
零細の一言で、見覚えのあるこの男の顔が、一体誰のモノなのか皆理解した。
男は、その狂気に満ちた目の瞳を零細に当て、操り人形を操る手の如き仕草を彼に見せ、一言放った。
「零細か。お前は来い」
男は冷淡に命令すると、まるで彼が零細を操っているかの様に、零細が男の方へ寄せ付けられる。
「何でだ……? 体が動かない……」
幾ら戻る仕草をしても、体が男の方へ強制的に向く。その顔はもう目の前に迫る。
「おい菜々風……。この姿でお前を殺せない。同窓会の日、猪狩弘に殺される。それが運命なのだ……」
「何言っ───」
菜々風は瞬きを一回した。そして気がつく。男と零細が音もなく、一瞬の内に消えた事に……。
「………………!?」
これにより族員25名が負傷、零細は行方不明。菜々風と鹿野は真相を突き止める為、幾度となく猪狩の元を訪れたが、剛と警察の包囲網により、この同窓会の日まで一度も会う事が無かった……。
───再び11月11日午後7時
「嫌な予感………」
菜々風の勘は当たる。二人は幾度となく彼の勘に救われ、剛の追跡を掻い潜って来たのだ。
……ゾクッ、
猪狩は突然、鹿野の際とはまた違う、気配を背後から感じ取った。剛達は変わらず言い争っている。
「やぁ、佐野惟兎くん」
猪狩の耳元で誰かが囁く。恐怖を背後にし振り向けない。
「………仕方ないなぁ」
声の主はぐるりと猪狩の側を周り、前に立つ。猪狩は顔を上げ、戦慄した。
何かが取り憑いた、3年前の猪狩である。
長い長い走馬灯編、いよいよクライマックスです。
なんか、死亡フラグが立ちすぎなキャラがいる様ないない様な…。次回、いよいよ物語が動き始めます!