消えた記憶の巻
あの日、あの時…
まだ眠れる……もう少しだけ……寝させてくれ……!
───ピピピピ、ピピピピ!
「うるせぇ! この……目覚まし!」
1人の中年の男の声が、朝鳴り響いた。埃っぽい部屋に脱ぎっぱなしの靴下……。とことん不衛生のこの部屋で20年間一人暮らし。
彼が仕事に雇われたのは一月前。それまで遊び暮らして来たおかげで借金まみれの生活を送っている……。
男の名は猪狩弘。更年期に突入して、最近はイライラする事が日々増してひどくなった。
ある日猪狩は、自分が何故か5kgも痩せていることに気づいた。
「何だ? ダイエットも何も……?」
もう一度量ってみる。間違いはない。
「壊れたか? この体重計(まぁ、古いもんな)……」
猪狩はそう思い、ゴミ袋を持ち出し処分して、気にもせず寝床に着いたのだった……。
──翌日、体重計を捨てに、外へと出た彼には違和感があった。やはり体が軽いのだ。
「俺、痩せたのか……?」
不思議に思った彼は、壊れた体重計をゴミ袋の中から取り出し、もう一度体重を量る。
……ピピッ!
表示された数値を見る。
──45kg
……モデル並みのスタイルだ。
「流石にあり得ん……。一回診てもらうか」
家に戻り保険証を取りに行く道中、彼は道行く人の視線がいつもに増して多い事に気がついた。
「俺の何がおかしいんだ?」
頭に限界が来た彼は、道行く人にそう怒鳴り散らした。
「きゃあ〜!!」
突然彼女は怯えた様な声をあげ、逃げていった。
「何もそこまで……?」
少し疑問に思った彼は、横にある店の硝子窓に映る自分を見て驚いた。
「俺……若返ってる!?」
───今日も昨日も何かがおかしい。
保険証を取り、車で内科へと向かう途中の出来事。急に対向車線から、信号無視した車が突っ込んできた。
キキーッッ!
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
猪狩は急いでハンドルを切ったが、絶対に間に合わない……!
──その時、彼の頭に頭痛が走り、長い長い走馬灯を見たのだった……。
───────
「おい、猪狩! しっかりしろ!」
目が覚めるとそこは救急車の中。聞こえて来たのは猪狩の古き親友、零細の声だった。
(………? こいつ誰? それにここ……?)
「お前、今死んだら鹿野の野郎どうすんだよ!」
ズキッ……!
不意にお腹辺りに激痛が走った。反射で手を動かそうとするも、体の感覚がない。
すると彼は、何かに気が付いたかのように、腕時計の方へ注意を向けた。
───2022/11/11/PM11:27
(3年前の11月11日……? 確か…………!)
日付を見て、猪狩は思い出した。
───この日何が起こったのかを……
「よぉ、剛、久しぶり。元気してたか?」
……それは、猪狩が救急搬送される、その5時間前のことである。
(剛……?)
聞き覚えのある名前に猪狩は反応した。
「お前の弟、何処にいるか知らない? ヒロちゃんだよ!」
(やっぱり…… 兄貴!? 何で忘れてたんだ? それと……あいつは?)
「知るかよそんな阿呆……それよりお前、二度とその顔俺に見せるなって言っただろ!」
もう一人の方の顔を見る。ふと何かを思い出した。
(確かこいつ……そうだ! 例の事件…………!)
───2010年
通称"半切れ者三人組"ー猪狩と同級の菜々風と零細、猪狩の3人は暴走族の族長、鹿野の命令で抗争相手の本拠地"植松"まで下見に来ていた。
下見は順調に進み、自分達の本拠地"鹿野WORLD"に戻ろうとした所、その事件は起きた……。
猪狩達が拠点への抜け道を進んでいた時、細い路地裏に1人の男が立っているのが見えた。
「お前……誰だ?」
細く響く零細の声。暗くて辺りがよく見えない。その次の瞬間、奈々風が男の首にナイフを構え脅した。
「おっちゃん……この道、俺らしか知らないはず……誰の御命令で?」
その通り、ここはアジトへと繋がる道のはず……仲間以外知るはずない。
「わ、わたしは何も……!?」
「おい、零細! 呼んで来い!」
「おい待て! もう少し話を聞いてやれよ……」
「いいから呼んでこないと──」
「わかった……呼んべばいいんだろ? 呼んでくりゃ……猪狩、ここ頼んだ」
「おい、待てよ二人共!」
猪狩の声は届かず零細は行ってしまった。そして次の瞬間……。
ジャギッッ!
不快音と共に、菜々風はその男の首をナイフで掻っ切った。
「おい菜々風!? 何考えてんだお前!!?」
ウゥゥゥ…………
何故かこのタイミングでパトカーの音が鳴り響く。
「悪いな……これも鹿野の命令でな―」
(長の……?)
猪狩には菜々風の言う意味が分からなかった。
「何の話して……」
「だから命令! 猪狩を潜入させろって……」
「………何言ってるのか全くだ」
理解できず、少々怒り気味でそう怒鳴った。
「後、頼んだぞ!」
そう言うと、菜々風はその場を走り去っていった。数秒後、数人の男がこちらに向かう音が聞こえた。
「警察だ! 手を挙げろ!」
一人の男が単独で突入してきた。
「日本でその言葉初めて聞いた」
(舐めやがって……)
猪狩は警察の指示に従い、署まで連行されて行った……。
その後取り調べが行われたが、零細は謎の行方不明、鹿野や菜々風、その他の暴走族員は行方をくらますなど、捜査は難航。
結果的にこの殺害事件は猪狩が首謀となり、少年医に収容されることに。
───これが植松事件の全容となる。
猪狩剛はその後真相を突き止める為族の痕跡を辿り、その後菜々風に邂逅。
しかし菜々風との会話は、驚きのものである。
「鹿野は死んだ。殺されたんだ………お前の弟に」
「………?」
「一月前だ! ミライの猪狩が……嘘じゃ無いんだよ!!」
剛は菜々風の態度に見切りをつけた。
「……もういい。お前二度と俺達の前にその顔見せるなよ!!」
気でも狂ったのか思った剛は、彼の追跡を断行。他の族員を当てにしたが、鹿野の行方は掴めないままでいた……。
─────そう、この11月11日までは…………
この度は、この様なわけもわからない様な、ど素人の書いた小説を、最後まで読んでくださりありがとうございました。これからも頑張ります!