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オオバケ!   作者: 羽兎
〜プロローグ〜
1/47

数多の運命

エピソード0、いわゆるプロローグ

────夢を見た。



 あの時から何も変わらない。何を願っても無意味な夢を願った。


────そうか。だから逃げ出した。


逃れた先で待っていたのは()()。誰も見つけられない()()世界。そんな楽園(箱庭)から、君は僕を連れ出した。

 


──────そのはずだった。


   






「……数多の運命、未知の楽園……」


「…………? おい惟兎、朝だぜ。起きないと」


 ある学生寮、朝8時。17歳の少年、佐野惟兎(さのゆいと)がベットから目を覚ました。朝の集合礼拝の支度を急ぐ。


「それにしても……さっきの寝言」


 服に着替えて顔を洗う。隣にいるのは佐野の同級生、柊碧(ひいらぎあおい)。彼とは小さい頃からの仲で、良き友人だ。


「ん……何か言ってた? 寝言?」


「……まぁ、覚えてないなら……ちょいと急ぐか」


 碧は顔を洗い終えると、部屋の灯りを消し始めた。


「あ……待って」


 支度を終え寮部屋から出た2人は、急いで下の礼拝堂へと降りていく。



……ギギッ!


「……今日はやけに静かだね。"シスター"アイ」


 礼拝堂はいつもと違い、静寂に包まれている。おかげで入口の扉を開ける音が、辺りによく響き渡る。



「……31秒遅刻。チッ、素数か。許す…………次からは気を付けろ。2度とこの場に近寄れなくしてや──」


 部屋の隅にあるオルガンの影から、アイが顔を覗かせる。


「もう絶対に遅れません。マジで……」


「……全員揃ったな。今から礼拝を始める」


「と、言っても3人だけどね。相変わらず……やる意味あるの?」


 3人の日課、礼拝。3年前にアイが始めた頃は、多い時は100人程いた。3人となった現在、司会も賛美も形にならない。





「今日はやけに静かだなら、いつもは外から……」


 学校の校風にそぐわない礼拝堂。そこに通う3人を標的(ターゲット)とする輩も少なく無い。しかしその邪魔者も、今朝は見えないようだ。



「え? シスター気付いてないの? 昨日の事件……」


 佐野が表情一つ変えず、驚いた様子見せる。


「……何だ? 事件って?」


「……そうだ。僕達何気無く来て、シスターに会えたけど……この学校の奴ら────」





───それは昨夜、唐突に起きたことである。


 いつもの様に、夕食を食べ終えた2人が寮に向かおうとしたところでいった。


…………バタっ!


「……おい? どうした惟兎? 急に……」


 突如惟兎が倒れ、前を歩く碧の背中によれかかった。


「分かんない。体が勝手に……」


「……おぶってくから捕まれ。しっかりしろよ……」




 碧が寮に着き、佐野を横に置いた、その時である。


「……数多の運命、未知の楽園……理の世界」


「…………どうした惟兎? 遂に頭おかしく───」


 声を低くして何かを呟く佐野に、碧が声をかける。


「───惟兎? 違うな……私は猪狩。猪狩戒(いかりカイ)。こいうを()()()()()


「おい! ふざけてるなら──」



───佐野の()()では無い。柊は恐怖で一歩も動けない。


「……ここも又、理の分岐点。いつか救い出す……そこから()を」


 碧の方を向いて、佐野はそう言った。


「…………?」


 戒はそう言うと、佐野の体ごとチリの様に消え去り始めた。



「……何で消えっ!? 何を連れて行くんだ! 何とか言えよ!」


 碧は取り乱して佐野に触れようとした。しかし身体には触れられない。戒と共に、彼の姿が消えて行く。

 



「……消えた? いや……夢?」


 そう思う柊の肩には、重いものが抱きついている。


「……? え?」


 後ろを振り返り、蒼は驚いた。


「ねぇ……早く下ろしてよ……もう大丈夫だから」


 生暖かい手が顔に触れる。振り返ると、消えた佐野がそこにいる。



「……? 何でこっちに!? だって……!」


「……何言ってるの? もういいから下ろし……」



……ドサッ!


 驚きと焦りで、碧は肩の力が抜けてしまった。


(……本当に夢? 何だ一体……)


「……夢? 僕も同じ……」 


「……!?」


 (言葉に発して無かった……筈の、俺の声……)


「え? だって聞こえてる……あ、本当だね」


「……お前、何か覚えてる?」


「……覚えてるって?」


「その……何か無かった? 異変みたいな」



 少し考えた後、何かを思い出した佐野は答えた。


「確か倒れた時、変な声が聞こえて……周りから、碧以外いなくなった……夢?」


「……? いやそれって……」


 柊は少々戸惑った。同時に寒気が走る。


「……消えた? 人が?」


「……うん。そういう事になるね」



(……それなら俺の夢は一体?)


「……さっきから言ってる夢ってなに?」


「あぁ……お前と違って、お前が()()()夢」


「…………?」


「まぁいいんだけど……何で心の声が分かる?」


「……知らない。でも分かる……何でだろう?」



「……まぁいいとして、消えたって…………」


「…………多分ね」





「─────そんでシスターはここにいるって訳」


「……取り敢えず、この学校には誰もいない、と?」


「あぁ……昨日俺たちで確かめた」


「そんな異世界じゃあるまいし…………そう言えば惟兎は?」


「……………………あれ? いないな」






──なるほど、君はあくまで『現実』を望むのか。これが佐野惟兎。 


 僕が碧に見せた夢は全部『創り話』。彼を僕の世界に巻き込むと()()になる。


 シスター"アイ"……彼女もまた同じ。決して僕の邪魔などさせない。


 奴等の世界の佐野惟兎は、偽物(フェイク)。私が創り出した彼に瓜二つの操り人形(マリオネット)……あとは削除し、全て計画通り……


──そのはずだった。佐野惟兎、どこへ行ったのだ。


 君は自分の運命から逃れたら。自分の生きる世界を書き換えてまで、()()()()()()()()()? だから、僕がいない世界へと行ったのか。 

───そんな『理の世界』などある筈ない。


 『未知の楽園』から逃れようとする羊が後一匹。見せて貰おう。君達の辿る道を。



 





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