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オカルト俺と平成ギャル。  作者: 吉村吉田
2/3

2話

「ビビってんのかと思ったらそれかよ! あり寄りのありだよ!」

 幽霊にツッコミを入れられた。呪われるわけでも取り憑かれるわけでもなく、鋭いツッコミを入れられた。

「だ、だって! 幽霊ってもっと井戸越してテレビ画面から出て来そうなビジュアルだと思うだろ!!」

「バーカ! 死んだらみんな同じになるわけねぇだろ! したら誰が誰だかわかんね~じゃんJK」

「JK? なんで女子高生がでてくるんだ? 突然の自己紹介か?」

「ちっげーよ! J常識的にK考えてって意味だよ、話になんねぇ! まじでサゲ」

「サゲ?」

「いちいちめんどくせぇなお前は」

 仲良くなりたかったはずの幽霊とこうして口論になってしまうなんて、ブレスレットを手に入れて浮かれていたつい先程は思いもしなかった。ギャルの幽霊は一通り怒鳴ったあと、かったるそうに髪を弄る。そして、ため息をついてから、こちらに哀れみの眼差しを向けた。

「はぁ、なんか引っ張られる~と思ってたら、せっかく見えるやつに会ったつーのに」

「ギャルの幽霊さん……」

「ギャルの幽霊じゃなくて、アタシは四谷麗! 鬼カワイイ名前だろ?」

「いかにもオカルトな名前の幽霊なのにギャルだ……」

「小学校の頃四谷怪談ってふざけて呼ばれててケッコー気にしてたアタシの傷えぐんないでくんない? アンタKYって言われね?」

「ケー……?」

「もういいよ!!」

 少し話しただけだが、ギャルの霊もとい四谷麗は見た目だけでなく中身も、俺の理想の霊とは、かけ離れている気がする。調べていた限りでは死んだ人間というのは、この世に恨みや未練があって霊体化するはずだ。自分の言いたいことが言えて、さっぱりした性格に見える彼女は一体なぜ幽霊として、この墓地に居たのだろう。

「はぁ……見える人に会ったら、ずーっと話したかったことあるのに、頼りになんなそう、サイアク」

 出会ってから2度目のため息。疑問に思ったことは

「話したかったことって?」

 と、俺が促すとすぐに聞かされることとなった。

「……ひとつこの世に未練? があんの、多分幽霊になっちゃった原因ていうか? このままフヨフヨ漂ってるのも嫌だから、早いとこ成仏したくてさぁ、誰かが助けてくれるの、死んでからずーっと待ってたワケ」

 ファッションや言葉遣いが古いのを見るに、彼女は10年以上は前に亡くなったのだろう。長い間ずっと待ち続けていた救いの手は、気の毒なことに相性の悪そうな俺だったというわけだ。

「その未練は何だ? 頼りなく見えるかもしれんが、俺の力でできるだけ叶えてやりたい、俺そういうの好きだからさ」

「す、好きって」

「オカルトマニアなんだよね」

「オタッキーかよ!」

 一瞬なぜか戸惑っているようだったが、彼女のツッコミはやはり鋭い。なんにせよ、未練を断ち切り成仏させる過程を請け負うことができれば、俺はさながらホラー映画の中の霊能者だ。見た目には気迫を感じない彼女も、幽霊には変わりがない。全て受け入れて、成仏する力になれたらば、オカルトマニア冥利に尽きる。

「だから聞かせてくれ、君の未練」

 そう問い掛ければ、夕日に染まって少し赤い顔がこちらを向き、彼女は俺の目を真剣に見つめた。

「アタシの未練は……できなかったこと」

「え?」

 尻すぼみになっていく語尾を聞き取れなくて、もう一度聞き返す。

「だーかーらー! 恋愛できなかったことだよ!!」

 やけになったようで、叫ばれた未練の内容に、俺は驚くと同時に肩を落とすことになった。それがよりにもよって恋愛だなんて。派手に見える彼女が初心だったのもなんだか意外だ。

「……すみません、それに関しては俺、専門外でして」

 思わず敬語で返事してしまう。成仏出来ずにひっかかっている未練の正体が、まさか一番俺が興味が湧かないどころか苦手な分野。適当な相手を探してやるにしても、経験値不足の俺にはハードルが高い。どうしたものか。

「つっかえねぇな~、てか、案外簡単だと思うけど ピッタリじゃん?」

「ピッタリって何が?」

「アタシとアンタ!」

 何を言っているのかよく分からない。まだ頭の中ははてなマークでいっぱいな俺に言い聞かせるように「つまりさぁ」と、彼女は話を続けた。

「アタシを見つけてくれて、怖がらずに助けようとしてくれて、それって少女漫画ばりに運命的な出会いじゃね? アンタが運命の王子様じゃないかってアタシは思うんだけど」

 幽霊のくせに、グレーのカラーコンタクトの奥がいきいきと輝いていた。今まで、俺に告白して来た女の子たちと似ている目だ。苦手な視線のはずなのに、彼女が俺の好きな幽霊である為だろうか? 今まで出会った女の子に比べて、何故だか抵抗感はあまりない。

「いや、だから、俺は恋愛はちょっと……」

……うん、だからと言って彼女の要求を飲む気はさらさらないが。ここは丁重に断っておく。と、目の前の麗はなぜかぐっと拳を握り締め、ないはずの足をジタバタして大声を出した。


「うっさい! もう決定したし! 私の未練、きちんとアンタが絶ってくれよな」


 ギャルっていうのは皆んな、こうも自己肯定感が高く押し付けがましいのだろうか。俺との将来を勝手に確信したドヤ顔に、今度は俺の方がため息をついた。

2話。3話目からは月曜夕方に週1投稿にするつもりです。よろしくお願いします!

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