1話
「悪いけど、そういうの興味ない」
たった今、高校に入って何度目かの告白を受け、また女子を振った。
俺は別に普段から女子にキャーキャー言われるようなイケメンというわけではない。むしろ、小学生の頃は地味なタイプだった。いじめられることもなく、かといって目立つこともなく。ふざけているやつらの後ろで手を叩いて、適当にヘラヘラしているような子供だった。成績や運動神経も中途半端。女子たちの話題に上がることも少なかったように思う。
中学に上がり、変化が起きた。入学してすぐはイケメンや目立ってふざけている奴がモテる風潮があったが、ほんの一二ヶ月経てば女子も大人になり、俺のような、気の抜けた無害に見える奴に注目するようになったのだ。偶然聞き齧ってしまった噂話によると俺は「隠れファンが多い」んだそうだ。制服マジックは、男子にも多少はあるらしい。きっと俺は精神年齢が早めに成長しているだけで、社会に出ればなんてことない凡人なのだ。だからその注目に調子に乗ることはなかった。そして生憎、恋愛なぞ心底興味がなかったため、中学の恋愛エピソードといえば、何度か受けた告白と、学ランの第三ボタンをむしり取られたくらいのものである。
中学生という多感な時期に恋愛への興味がゼロなのだから、この先もきっと興味が湧くことはないのだろうと春休みに腹を括った通り、こうして高校に入ってもペースの変わらい告白を断り続けている。……というわけである。
可哀想だが、気のない相手と惰性で付き合っても、その気をどこかで見せなければ結局は向こうから振られてしまうだろう。それに俺には昔から恋愛よりも興味があることが一つあるのだ。これからその用事があるのでこんなところに呼び出されている暇はない。
放課後、急いで向かったのは近所のガチャガチャ専門店。
「入荷してる! “秘密のオカルト魔道具シリーズ”!!」
俺の趣味はガチャガチャ……ではなく“オカルト”の方である。そういう意味ではないが、生きている女の子よりも死んでいる女の子の方が興味がある。霊感が全くないのがコンプレックスになるほど、俺は幽霊や怪奇や妖怪と言ったオカルトチックなものに目がない。
このガチャガチャは、“本当に効果があるオカルトグッズ”としてオカルトマニアの間で俄かに噂されているものだ。ハズレのガムが多く入っていて、“魔道具”が入っている確率は極めて低い。レアリティがあると効果を裏付けているようでゾクゾクする。狙いは俺のコンプレックスを解消する“魔寄せブレスレット”魔除けと反対の“魔寄せ”効果があり、周囲の幽霊を引き寄せ、その霊とコンタクトが取れるらしい優れ物だ。そんなもん、噂が本当ならば出るまで回せば実質タダである。ひとまずは400円を投入し、いざ!
――ーガシャン
居ても立ってもいられず出て来たカプセルを開けて、中の真っ黒いビニールを爪で割く。
「は? 嘘、だろ?」
中身が見えた時、咄嗟にそう声が出てしまった。だって、まさか一発ででるなんて。数々のパワーストーンが、紫色に煌めきシャラシャラと連なる美しく怪しげなブレスレット。
「やった――――!! 魔寄せブレスレット、ゲット――――!!」
思わず、いつになく高いテンションのまま叫んだ俺に、景品を補充しにきた店員からの冷たい視線が刺さった……ような気がした。
しばし感動を噛み締めたあとに、店を出てから、ブレスレットを腕に通してみる。男の腕でもきちんと通せるのを見るに、子供向けというよりはやはりマニア受けの商品なのだろう。益々、効果に期待がかかる。せっかくだ。このまま幽霊がいそうな場所まで行ってみることにした。
幽霊が集まる場所としてベタだが、近所のとある墓地にやって来た。時刻は午後5時。夕焼けが墓石を照らして砂利道に焦げた影を作っている。本当はもっと深い夜の方が幽霊との遭遇率が高い気がするが、はしゃいだテンションのままに早めに到着してしまった。苔の蒸した古ぼけた墓石や、丁寧に世話された綺麗な墓石。周囲を見渡しながら、ブレスレットに引き寄せられた幽霊は見えないかと歩き回る。
理想としては邦画ホラーよろしく黒髪が長く伸びてボサボサで、顔色は青ざめている恨めしそうないかにもな幽霊に会いたい。襲われて害が及ぶ可能性はあるが、幼い頃から幽霊に遭遇する日を夢見て、仲良くなる方法ならバッチリ調べてある。しかし、はやる気持ちとは裏腹に、まもなく墓地を一周しようというところでシンとした墓地にはカラスの声が響くのみだ。やはりガチャガチャ如きに効果はないのだろうか? まだ信じて次のスポットに移動しようか?
気持ちが揺らぐ俺の肩を、その時スッと妙な風が冷やした。
もしかして、期待が高まり足元にあった視線を上げると、そこに現れたのは
「もしかして見えてる?」
歳は多分、俺と同じくらい。そして足がない女の子だ。重力をまるで無視してふんわりと身体を浮かせている。間違いない、俺が探し求めていた存在、幽霊だ!!
幽霊……なのだが。
「なに固まってんの? アタシの話聞こえてんでしょ? ユーレイにビビってるカンジ?」
語尾が伸びた気怠げな口調は、幽霊の風格がまるで無い。何より一番期待外れだったのは、その見た目である。まず髪型。理想だった黒髪は根本数センチだけ、あとは金髪よりの茶色い髪で、ボサボサどころかクルクルと巻かれている。前髪は恨めしく顔を隠すことはなく、かき上げて固められている。次に肌の色。本当に死んでいるのか? というくらい健康的で、少し焼けている。唇こそ色がないがこれはどうやら化粧だ。目の周りはバサバサしたまつ毛に縁取られ、その中にはグレーの大きな虹彩。カラーコンタクトだろうか。幽霊が、カラコンて。
服装だって、理想は白い装束かいいとこ白いワンピースだったが、現実は違った。多分これ、うちの学校の旧制服だっけ? 着崩した紺色のブレザーに胸元を大きく開けた分白いシャツ、ブカブカのベージュのカーディガンはボタンの位置的に男ものだ。下半身は心許ないくらいに短いスカートで、脚があやふやに消えるあたりに白いルーズソックスを履いている。
「ギャ……」
「ギャ?」
「ギャルの幽霊って、そんなの有りかよ」
“魔寄せブレスレット”の効果は本物だったが、夢を叶えたおかげで、俺はある意味夢を失ってしまった。
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