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泣く彫刻


 いや〜……ただ領域畑を広げただけと比較すると、エネルギーの獲得が全然違うわ。


「んふぅ〜、これなら割と簡単に収穫できそうだね」


 暗闇で驚かしただけで感情が収穫できるとは……。もっとも、私が関わってないとダメだってのがネックか?


「色々と試して効率のいい収穫を目指したいけど……そうだねぇ……とりあえずは驚かして感情を収穫するのが手っ取り早いかな?」


 なんなら豚貴族の領主館でやってきた事とあんまり変わらんからね。


 でもなぁ……別に私は今まで、驚かしたくて驚かしてた訳じゃねぇのよ。

 人目につかないように行動して、たまたま目撃されちゃっただけだからね。

 それで幽霊だのオバケだの騒がれちゃったんだけど。


「自分の意思で、幽霊のフリしたり驚かしたりするのは上手くいくのかねぇ……」


 演技力とか演出力とかが必要になるでしょ?


 

 自信ナイナー、不安ダナー。



 ――――――――――――――――――――――




「フッ、……フッ、……フッ」


 短く断続的な呼吸を繰り返し、早鐘を打つ鼓動を抑えようと必死なピエロ仮面は、自分に言い聞かせていた。


 見間違いだ! こんな真夜中の宝石店に子供がいるはずない!


 しかも目の前でフッと消えてしまうなど……それこそ幽霊としか……。いや、そんなはずはない!


 仮面の下を冷えた汗が伝う。


「……はぁ」


 深呼吸まじりのため息を吐いて精神を落ち着ける。


 そうだ見間違いだ。


 辺りを視線だけで見渡すが、怪しく常夜灯が照らす通路に自分以外の姿はない。


「なんだ……やっぱり見間違いじゃないか」


 ……どうやら緊張で精神が昂っていたようだ。


 灯に照らされて、壁に自分の影が映し出された光景に少し驚いてしまったが、……それだけだ。


「……ふふ」


 まさか自分の影にさえ驚いてしまうとは、意外に繊細だった自分に笑いが込み上げてきた。


 そして仲間と合流するために踵を返そうとした瞬間……


 

「……ッ!」


 

 壁に自分の影ではない、別の人影が…………スーッ……と横切った……。


 


 再び浅く、激しくなる呼吸。


 混乱気味の心が語りかけてくる。


 『本当に見間違いなのか?』


 恐る恐る壁とは逆の方、すなわち影が居たであろう場所を窺う。


 …………いない。


「見間違いだ、見間違いだ見間違いだ……」


 自分に言い聞かせるようにブツブツと呟く。しかし――


 ペタペタペタペタペタペタペタペタッ……!


「はぅあッ!!」


 すぐ後ろを何者かが走り抜ける足音に、情けない声を上げて振り返る。だがそこには暗闇が広がるばかりだ。


 手足が冷たくなるのが分かる。そして漠然と心に訴えかける認めたくない考え……。

 


 『何かいる…………』



 いやそんなはずはない! 現に周りを見渡しても誰も居ないではないか!


「ふぅ……ふぅ……ふぅ……」


 仲間と合流しよう。別に怖い訳ではないが早く仲間の顔が見たい……。


 足音を立てないように、暗い通路を進む。

 自分は本来、ここに居てはいけない侵入者なのだ。バレないようにコソコソ移動するのは、おかしいことではない。

 決して、いもしない何者かに見つからない為に、足音を立てないようにしている訳ではない……。


 そして、いつもなら辺りを確認してから通り過ぎるであろう横道を、下を向きながら通り過ぎようとした時……。


「……ッ!!」


 バッと二度見をするように横道を振り返った。


「……フッ、……フッ、……フッ」



 何も居ない……。

 横道には何も居ないはずなのに……。

 

 一瞬だけ、視界の隅に子供がいた気がするのだ……。


 しかし、横道は薄暗い灯りがわずかに通路を照らすだけで……もちろん誰もいない。


 それが逆に不気味だった。


「ハァ! ハァ! ハァ!」


 情けなくも、周りを視界に入れないよう足早に移動する自分は、泥棒としては失格なのかもしれない。

 だが、今の仮面泥棒にはそんな事を考える余裕は無かった。


「……ヒィ! …………な、なんだ……ただの彫刻か……」



 下を向いていたせいだろう、目の前に現れた彫刻に軽い悲鳴をあげてしまう。しかし、すぐにただの彫刻だと分かりため息を吐く……。


「……馬鹿馬鹿しい」


 いったい自分は何を考えているのだ。

 幽霊などいるはずない……。神経が過敏になってしまっているだけだ……。

 先ほど視界のはじに映った人影も、きっと店内に幾つも飾ってある彫刻が、記憶から写り込んだに過ぎない。


「……ふぅ」


 そう、判断してしまえば、もう大丈夫だ。


 落ち着いて目の前の彫刻を見てみる。


 女性が座りながら楽器を弾いている彫刻だ。


「……ふむ」


 売れば幾らになるだろうか? いや、このサイズの彫刻は持ち出すのに苦労しそうだ……。やはり盗むなら貴金属がいいだろう……。


 冷静を保つため。そんな仕事の事を無理矢理考えてみる……。


 


 …………ピチョン…………ピチョン…………



「……?」


 水音? 水道の蛇口が緩んでいるのか?

 あぁなんだ……近くにトイレがある。

 きっとトイレの洗面台から音が聞こえているのだな……。


 そう判断した瞬間…………。



「ひぃ!!」



 全身の肌が毛羽立つ感覚に襲われる。


 洗面台の水音? …………違う。

 聞こえていた水音は蛇口から漏れた雫なんかではなかった……。



「ヒぃいいいいいいい!!」



 尻餅を付いて、バタバタと後ろに下がる。



 …………ピチョン…………ピチョン…………



 楽器を弾いている彫刻の女……、無機物であるはずの物言わぬソレは……



 止めどなく瞳から涙を流していた……。

 


 


――――――――――――――――――――――




「あひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」


 あーー! 他人の焦る顔ってなんて面白れぇんだろ!

 まさに寿命が伸びるようだね!


「んひひひひ……」


 趣味が悪いって? 嘘つけ、他人の不幸は蜜の味だろうがよ!


 それにコレは趣味じゃないから。感情を収穫する立派なお仕事です! 給料出てんのよ。ごめん遊ばせ。



 まあ、私のやった業務を聞いておくれよ。


 まず、最初の壁に映る人影と足音は簡単だね。

 隙間から隙間に移動してただけ。


 そして視界の端に映る美少女の正体も私……あれは常夜灯と同じ光を光滅玉こうめつだまで作り出して、私の足元から照らす。


 そして、こっちを振り向く時には、光の方向を変えて私の姿を隠す。そうすることで視界に一瞬だけ映る美少女の完成よ。


 そして最後に、泣く彫刻の女。

 アレは先回りして彫刻に水滅玉すいめつだまを発動させ、タイミングよく水を流したんだ。


 子供騙しみたいなもんだけど、効果は充分だったようだね。いったんビビっちまうと、小手先のちょっとした演出がよく刺さるわ。


 一気にバッと驚かすより、こうやってジワジワとビビらせる方がエネルギー効率も良さそう。


「んふふふふ。まさか今までの経験が生きるとはね」



 んじゃあ……ピエロ仮面の泥棒さん。


 もうちょっと収穫に付き合ってね?


 

 


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― 新着の感想 ―
幽霊側で人間脅かすゲームやってるようなもんすよねー
[一言] お化け度に磨きがかかっていく....
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