真夜中の宝石店でバレエを踊る
部屋に鍵は掛かってないから自由に出られる。
「なにげに閉じ込められてない状態がデフォルトなのは初めてじゃない?」
今までは捕まってるのが当たり前だったからね。逆に自由に外出できるのが不安になる。これって職業病ってやつかな? ……うん、違うな!
廊下に出てみると、思ったより暗くてビックリした。
そういや豚貴族やホテルのように、従業員がいつもいる施設と違って暗いのは当たり前か。まったく見えないってほどじゃないけど。
「今度、暗視の能力でも開発するかなぁ……」
作るとしたらどんなゲームだろ。暗視くらいならリソース的に安いからなんとでもなりそうだけど……う〜ん、レースゲームで車のへッドライト?
いやいや、それは目が光るから目立つな。
「ん〜、住居部分はあんまり広くない?」
いや、分かってるよ。豚貴族の屋敷と比べちゃいかんね。あっちはほとんど自宅が街だったからさ。
この家だって学校の体育館ぐらいの広さはある。
「ある程度は回ったかな?」
後は、お店部分な訳なんだけど……多分この扉の向こうよな? 事務室っぽい所から通じてる扉の向こう側がお店なはず……。
「カギは掛かってるか……ほんじゃスキマを作ってヌルっとな……」
ふむ、向こう側は……倉庫だね。
在庫とか置いておく所かな? そしてその先は応接室、そして店舗部分と……。
「あ〜、やっぱり店側は広いね」
外から見たら博物館みたいだって言ってたけど、内装もソレっぽい。
ガラスケースに入れられた宝石を眺めながら、薄暗いフロアを進んでいく。
「ほぉ〜、なかなか趣があるねぇ」
いかにも高そうな宝石や指輪が並んでいる。
いや、盗まねぇよ。敵対していない協力者の持ち物を盗むのはリスク高すぎんでしょ。敵対してたら盗むのかって? あたり前じゃない……むしろ盗まないの?
宝石展示コーナーを抜けて通路を進む。
へぇ、宝石以外にも色々売ってんだね。
壁に掛かった絵や彫刻を見ながら進む。せめて明るい場所で見たかったわ。
「ふぅ〜ん……上の階もあるのか……」
動いていないけど、エスカレーターがある。まぁ今回は一階の探索かな。
彫刻を眺め、上流階級気分に浸りながら通路を進んでいくと格子状のシャッターが降りていた。
「あ〜このタイプのシャッターはスキマじゃ越えられないなぁ」
天井から降りて来たであろう、格子シャッターは向こう側が見える。向こう側が見えるって事は私がスキマと判断できないんだよね。
「霧化の能力なら超えられるけど、セットしてきてねぇや」
イマイチ使い勝手の悪い霧化は二軍落ちしがち。というか他の能力が外しにくいだけだなんだけど。
今みたいに、いざという時に使えないんじゃ話にならないなぁ。下手な能力ばっかり増えていく。
「次の能力アップではちょっと考えないといけないなぁ……」
単純に能力スロットを増やすだけだと、使い勝手の悪い能力が死蔵することになる。
「……ひょっ」
そんな事考えてたら、通路に響くような足音が聞こえて来た。やべ、誰かこっち来る。
なんで真夜中の博物館じみた宝石店に人がいるんですかねぇ?
カツッ……カツ……カツッ……
一定のリズムを刻む足音は、徐々に大きくなって、コチラに近づいて来ていることが分かる。
スキマ……入り込めそうな所がねぇわ……。ええい、こうなったら!
カツッ……カツッ……カツッ……
灯りを持った誰かが近づいてくると、それに合わせて通路に光がさす。その人物は私の目の前を通り過ぎて――『ふむ……』と一言呟いた。
「……」
う、うぉお……ご、誤魔化せてるか?
はい、私は現在、よく分からんポーズを取ってる彫刻の横で同じポーズ取ってます。
う、う〜ん。どうよ? 意外に気づかんだろ?
暗いから上手いこと紛れ込んでるらしい。
バレエのようなポーズを取った私の前で、その人物は壁に付いてる装置をカチャカチャとイジる。
あ〜、こいつマキ髭副店長じゃん。真夜中まで残業お疲れ様です。頼むからこっち向くなよ。
戸締り? 見回り? 何にせよこの体勢けっこうキツいから早くどっか行ってくんね?
――――――――――――――――――――――
よし、どっか行った。
変なポーズで足がツるかと思ったわ。
しかし、すぐに移動すると副店長に見つかるかもしれんなぁ。少し時間潰すか……。
格子シャッターのせいでこれ以上の探索も出来そうにないし、スキマの中で大人しくしとこ。
私はポケットから懐中時計を取り出して、時間を確認する。
「現在、二時十五分か……三十分くらい時間を置けば大丈夫だよね?」
スキマを作ってその中で横になる。
「うん? なんかおるな」
すると外で動く気配を感じたので見てみる。
「うわぁ……なにその仮面?」
二人組の黒ずくめが腰を落として、スススと移動していた。顔にピエロのような仮面を付けている二人組は、辺りを警戒するように壁に機械を取り付けている。
「……今日は解析だけだ。宝石に手をつけるなよ」
「分かってますよ。やる時には一気に……でしょ?」
ふぅ〜ん……コイツらアレだ。
OL女の言っていた泥棒って奴だろ。
切れ者と謳われた私には分かるね!
……ごめん嘘。こんな怪しい奴が夜中の宝石店うろついてて泥棒だと思わない方がイカれてるわ……。
二人組の泥棒ピエロ仮面はしばらくすると、立ち去って行った。私はスキマから出てくると腕を組む。
「う〜ん、完全にこの店ターゲットにされてる感じ? まぁOL女に報告する義理はないか……」
なんで知ってるんだって言われたら、『散歩してました』って答えるのもどうよ?
まぁいいや、今日の所は部屋に戻りましょ。
私はテクテクと帰路につく。
私が思うにね。
あの副店長なんだけど……ピエロ泥棒の一味なんじゃないかって思ってる。いくら従業員とはいえ、真夜中に宝石店をうろついてるなんておかしいでしょ?
いや、私のはただの散歩だから。
そんで副店長は泥棒が活動しやすい様に、機械を弄って招き入れてるんだよ。
「…………………………やっぱ今のナシ……」
なんか目の前で副店長が、うつ伏せでぶっ倒れてたわ……。
お前もしかして、泥棒と鉢合わせしちゃったか?




