そして少女達は歩き出す
どーも私です。
みなさん遊園地で一番怖い絶叫マシンは何だと思いますか?
「それはシャボン玉に包まれて吹っ飛ばされる事です……」
「……地面ある……地面ある」
幼女ちゃんも堪能したようで、うつ伏せで大地を抱きしめてる……。
流石に高速空の旅はビビったわ。何が怖いって安全の保証がない所だよ! あのドレス女が何考えてるのか分からないからね、地面に着地した瞬間、シャボン玉と一緒にパチンと弾けちゃう可能性もあった訳だ。
まぁ現実はシャボン玉が弾けただけで私達に被害はなかったんだけどね。怖いもんは怖い。
「……予定とは違ったけど……まぁ脱出成功ッスかね?」
飛ばされてきた方向を見てみれば、遠くに観覧車の上半分がかすかに見える。結構遠くまで飛ばされてきたっぽい。
でもまぁ好都合かな? ハリウッドメガネも私達の事探してるだろうし、距離を稼げたのは嬉しい。
一応は素直に遊園地から逃がしてくれたようだけど――。
「ホント……何考えてんのかね? あのドレス女……」
辺りを見渡してみると森の中だ。ふむ、別の方角はビルが見えるね……。
「……母なる大地よ……」
「幼女ちゃ〜ん、戻ってきて〜」
それお母さんじゃないよ。地面だよ。
お、正気に戻った。
「そんじゃまぁ……そろそろ行くッスよ」
私は白髪幼女に手を伸ばす。掴んできたので引き起こして立たせると、幼女ちゃんは首を掲げた。
「……どこに?」
「んなもん決まってるでしょ、帰るんだよ」
「……どうやって?」
「さぁ〜あ、ま何とかなるでしょ!」
私は遊園地に背を向けて歩き始める……。幼女ちゃんはその後を付いて来た。
――――――――――――――――――――――――
「あぁ〜、豚貴族の街ってどこかな〜、幼女ちゃん分かる?」
「……ん〜ん、分かんない」
幼女二人は、その短い足でテクテク歩く。
「そかー分かんないかー。豚貴族の名前とか分かれば辿り着けるかな? たしか領主やってんだよね、幼女ちゃん、豚の名前分かるー?」
「……ん〜ん、分かんない」
「そかー分かんないか〜。大丈夫大丈夫、何とかなるよ〜」
「……うぃ。お腹減った……」
「お、食欲があるのは元気な証拠ッスね。食料なら少しだけ持ってるから食べようね〜。無くなったら調達しなきゃね」
「……盗む?」
「たくましくなったね〜。でも最終手段かな〜。余計な危険は避けようね〜」
「……むぃ」
空は青く、
とても自由な幼女たちが
野に放たれた……。
――――――――――――――――――――――
「居ないじゃないですかーーー!!!」
「お、お、落ち着かんか!」
ここは豚貴族の領主館。そこでメイルンが豚貴族の胸ぐらを掴んで絶叫した。あまりの剣幕に流石の豚貴族もタジタジである。
「なんで居ないんですか!? ちゃんと探したんですかねぇええええ!?」
「探した! 探したからいい加減に落ち着け!」
「これが落ち着いていられますか! テレサを誘拐させたのはガバス様でしょうが! 何かあったら許さないって私言いましたよねぇ!!」
「分かった! 一回聞け! 見つからないのは想定済みだ!」
「想定済み!? ……こ、殺っ……」
「ヤメロ! 首に手を掛けるな! 無事だ! テレサは無事のはずだ!」
「…………」
そろそろ身の危険を感じた豚貴族は、脂汗をかきながらもメイルンの説得を試みる。正直このままだと本当に殺されてしまう。
策略によりクリフォードを降した豚貴族だったが、遊園地をいくら探してもテレサが見つからなかったのだ。メイルンがブチ切れるのもおかしくはない。
だが、それは豚貴族に予想出来たことだった。
「ふぅ……テレサが見つからないということは、あの小娘と合流したという事だろう。つまり遊園地から逃げ出したのだ」
「……」
「前にも言っておっただろ? あの小娘は放っておいても勝手に帰って来るとな。ならば奴と一緒に行動しておるテレサも勝手に戻って来るのだ。後は待てば解決だ……納得……したか?」
「……」
豚貴族は気まずそうにメイルンの顔色を窺う。後悔はしてないし、時間が巻き戻ったとしても同じ手を使うだろうが……流石にほんのちょっとだけやり過ぎたかなとは思う。
「……わかり……ました。その言葉を信じます。でも、せめて捜索願いは出させて貰います」
「う、うむ。分かったいいだろう。ワシの方からも手を回しておこう」
とはいえ、見つからないだろうなぁと豚貴族は一人思う。あの小娘が隠れると決めたのなら、いくら探そうが徒労に終わる気がするのだ。
「……お願いしますね……お父様」
豚貴族は頬を指で掻いて、頷くしか無かった。
そういえば息子はいたが、娘はいなかったなと……。
メイルンは捜索願いの書類を書き始める。
白い髪の少女……名前はテレサアヤブドール……白い髪は探すのに良い目印になる。そして恐らく二人組の子供として行動している。
「……あの……お父様?」
「な、なんだ?」
「……あの少女の名前は……何ですか?」
「え? 知らん」
「え?」
あの小娘の名前? そんな事は考えたこともなかった。そもそも知りたくもないし興味もない。
これからも知るつもりもない。縁を切りたい。
そこまで考えて……豚貴族は動きをピタリと止めてしまった。
「どうかなさいましたか?」
「……おい」
振り返った豚貴族の顔は蒼白になっていた。
ただ事ではないその顔にメイルンは喉を鳴らす。
「……あの小娘の顔を……覚えておるか?」
「何を当たり前のことを……」
そこまで言って……メイルンは鳥肌を立てた……。
覚えていない……。
顔を覚えていない……。
顔だけじゃない。髪色も瞳の色も……。
辛うじて長い髪だったのは覚えている。
でも、それ以外の要素を一つも覚えていない。
メイルンは自身の腕を抱く。
怖い……。
口に出すまで、覚えていない事を気づけなかった事が怖い。
「……」
「……」
青い顔で見合わせる親子の頬に汗が垂れる。
記憶の中の少女は、何も映し出さない顔で三日月の口だけを歪ませた。
――――――――――――――――――――――
夜の街、車が行き交い、灯りがマンホールに反射する。
ビルから出てきた女は足早に帰路に着く。
自分の取っているホテルに向かう女は、軽くため息を吐いた。
ついていない……。
そう女は一人呟く。
そして、ついていない事は続くものだ。
「よぉよぉ、そこの姉ちゃん。一緒に食事でもど〜お?」
「よぉ〜よぉ〜」
背後から掛けられる頭の悪そうなセリフ。
自慢ではないが、身綺麗にしている自分はモテる。夜の街を歩けば、こんな輩に絡まれるのもよくある事だ。
この類の声掛けは無視するに限る。
「……」
スタスタと、すまし顔で通り過ぎようとする。
しかしふと、何かが引っ掛かり振り返った。
誰もいない。女は首を傾けながら視線を下に向ける……。
「姉ちゃんの奢りで……」
「……よぉよぉ」
女は癖になったため息を吐いて、空を仰ぐ……。
「なんか二人組の幼女にナンパされたんだけど……なにこれ?」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
これで遊園地編は終わりです。
次のお話を作るために、少し間を空けてストックを貯めたいと思います。
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