よく考えると怖いメルヘン
「……」
今まさに私を飲み込もうとする大顎は、三秒ほど静止すると異形の顔であるにも関わらず難しそうな表情を見せた。
「嘘……とな? 嘘とはなんじゃ?」
「水に沈めるとか出来ないこと言うもんじゃないッスよ」
縦長の瞳孔を持つ瞳が細められる。
「くかか! 残念だがそれは間違いじゃ……沈めるくらい容易いわ」
「あー、可能かどうかを言ってる訳じゃないッスね」
分かってるくせに……。
「あんた自分の気に入ってるモンを水浸しにする趣味でもあんの?」
「……」
この遊園地のことだよ。
あ、目を逸らした。この反応をみるにビンゴだったみたいだね。
つまりこのドレス女……遊園地を破壊する気なんて更々ない。
「……ふん」
ドレス女はユラユラと人間離れした動きで遠ざかると、玉座に腰掛けた。
お、顔も元に戻ったね。化け物顔は怖いから、そっちのままでお願いしますわ。
「脅かしがいのない童じゃの……なぜ分かった?」
「自慢げに城を見せびらかしといて何言ってんすか」
前に遊園地を徘徊してたらジェットコースターに乗せられて、強制披露してきたからね。鼻息荒くアイドルの写真を見せてくる友人を思い出しましたよ。
「……あれか。お主しか居らんかったしテンション上がって自慢してしまったのう」
「『どや、妾の居城カッコよくない?』って言ってました?」
「……いっとらんわ」
まぁアレだけだったら確証はなかったんだけどね。このドレス女、『妾の居城』とか『妾の遊園地』とか言い始めたからね。気に入ってないと出てこないでしょ、そんな言葉。
そもそもさ、遊園地が普通に営業してる事がおかしいんだよ。
「もしかして楽しいの好き?」
「勿論じゃ……」
だってコイツ、勝手にアトラクションを起動できるんだよ。事故とか起こし放題じゃん。でも遊園地は普通に営業してるからそんな事してないんだ。
遊園地というお気に入りの場所がなくなると困るからだろうね。
たぶん、夜の間だけひっそりとアトラクションを起動して喜んでたんじゃない?
「どれ……少しだけ昔話をしてやろう」
「あ、いや……結構ッスわ」
「聞け! そんなに長くないから! ……なぜ妾が遊園地に封印されていたか分かるか?」
ホントに長くならない? クイズ形式にしてくる所が怪しいんだけど。
「あー、遊園地のアトラクションが封印を強めるプロセスになってた……とか?」
「あからさまに面倒そうな顔されると傷つくから止めぬか……面白い説だがハズレじゃ。逆なのだ、遊園地に封印されたのではなく、封印されて遊園地が出来た」
結構長い間封印されてたのね。
「まぁ昔ちとヤンチャし過ぎてな。封印されてしもうたんじゃ」
ヤンチャし過ぎてって可愛くいってるけど、それ何人くらい死んでます?
「それで腹がたった妾は精神だけ抜け出して、些細な悪戯をする事にした。大元は封印されとるから大層な事はできんがったがな。そうしたら神の怒りだの災いだの言われての」
些細なイタズラでも死んでそう……。あと間違いなく災いではあるよね?
「それを目撃したもの達は、災いを静める為に社を建てたのじゃ。それがこの城の元となったのじゃな。そしたらまぁ……悪い気はせんかったよな。妾は楽しい物が好きでな、妾の機嫌を取るために色んな物を作って機嫌を取るようになったのじゃ。その間はイタズラなどしなかったのでな。それからどれだけの時間がたったかのぅ、気がついたら」
ドレス女は両手を広げて自慢げにする。
「こうなった! ……まぁ遊園地になるとは思わんかったがな。今や妾の存在を知る物はわずかではあるし、成り立ちを知る物もいないだろう。だが、ずっといると妾もここに愛着が湧いてしもうたのじゃ。ここにやってくる客の、楽しむ姿を見るのも優越感が湧くというものよ」
「……ん、あ終わった? えと……敵意はないってことでいいんだよね?」
「安心しろ……今、湧いた」
聞いてた聞いてた。爪の掃除してただけだから怒んなって。冗談じゃん……顔戻してよ。
「まぁ、お主の言う通りよ……すでに妾に何かを害する気持ちはないわ。見透かされたのは癪じゃがな……」
ドレス女は、拗ねたように玉座に肘をつくと、手をヒラヒラと振る。さっきは冗談で敵意がないって言ったけど、私達を本当に害さないかどうかは判断つかないね。本気になられたら一捻りなんだし。
「ちなみに何で復活しようと思ったんです?」
「おかしな事を聞く童じゃの……封印されていたのなら復活はしたいじゃろ。それに精神体ではなく本体で妾の遊園地を楽しみたいしのぅ」
なんかワクワクしてそうなところ悪いけど……そろそろ逃げる算段を立てないとね。ハッキリ言って、ドレス女の害さないって言葉が信用ならない。たわむれで殺されてたらたまらないからね。
それに、うかうかしてるとハリウッドメガネもやってくる。
「おや……うむ、なにやら楽しそうなことになっておるのぅ」
なんだ? このドレス女どこみてる?
壁……な訳ないか。たぶん方角的にハリウッドメガネの方角かな。なんかあったか? もしかして、もう近くまで来てるとか。
変な方向を向いている間に逃げ出せないかな? 幼女ちゃんは……うん、同じ考えだよね。そろ〜っと後ろ歩きで……て、あれ?
「さて童ども、何処へ行くのじゃ?」
「へへ、そろそろお暇させて頂こうと思いやしてね」
うっわぁ……なんか足に水の球体が纏わりついてんだけど。はい、一歩も動けません。
「くかかっ! そうかそうか……それならば遊園地の外まで妾が送ってやろうかのぅ」
「親切アレルギーなんでお断りするッス!」
だから信用出来ないんだって! というか絶対なんか企んでる顔じゃん! やっぱり邪悪な存在だよコイツ!
足を拘束していた球体が急に膨張して、私と幼女ちゃんはシャボン玉の球体に閉じ込められる。
うわ何これ……浮いてんじゃん。絵面だけ見たらメルヘンだ。急に圧縮して幼女ジュースとか作らないよね?
「おっと巫女よ、抵抗するでないわ」
「……ぬぅ」
どうやら幼女ちゃんはシャボン玉を巫女の力で解除しようとしたみたいだけど、力負けしてしまったらしい。
「お主らクリフォードから逃げたいのじゃろう。安心しろ、本当に遊園地の外まで飛ばすだけじゃ。くかか、理由のない親切は不安か? ……正解じゃよ」
クスクス笑いながらドレス女はニッコリと笑みを向けてくる。
そして城の扉が一人でに開くと、私達を包んだシャボン玉は空に向けてすっ飛んだ。
「ではの、今度は客として遊びに来い。歓迎してやるぞ」
最後にそんな声が聞こえた。




