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時計お借りしますね?



カンカンッ

 カンカンッ

  カンカンカンカンカンカンッ!


「う、う〜ん。うるさい……」


 誰だよ、寝てるのにやかましい騒音を立てるのは。大家に連絡しちゃうぞ。


「あ〜、なんだ。軍人執事じゃないっすか」


 大家さんでしたか……。豚貴族はいないようだね。軍人執事は手に持ったスプーンで鉄格子を叩いていたらしい。

 私を呼ぶためだろうけど……使い方あってる?


「ーー。」

「おはようございます。渋い声してますね」

「ーー。ーーー。」

「今、何時ですか?」

「ーーー。」

「なんかスポーツやってる?」


 うん、伝わんねぇわ。表情の変わらない冷静そうな目でみてくる。腕を後ろで組んでビシッと直立しているけど疲れない?


「今日は一人っすか?」

「ーー。」


 尋問なんだろうけど、無駄なの分かってやってるんだろうな。マジメ腐った顔しているが、ときおり呆れるような軽いため息を吐いている気がする。

 まぁ向こうも形だけの尋問だね。


「ーー……。」

「あ〜はいはい。どうもっす。あ、もうお帰りで? お勤めご苦労様です」


 どうやら今日の尋問は終わりのようで部屋から出て行こうとする軍人執事。

 おや、後ろを振り向きながら視線を向けてきた。

「ーーー。ーーー…………。」

 数言呟くと軽く目を瞑り、そのまま扉から出ていった。


「いや、カッコいいこと言ってそうだけど伝わんないって!」


 できる軍人上司みたいな顔のオッサンよ。頭良さそうなのに不毛な尋問されられて可哀想。


 しかし、暇だわ。部屋の本棚に入っている本は何書いてるかさっぱり分からんし、挿絵もない。もっと気を利かせて囚人のために漫画でも置いときなよ!


「あ〜領域から携帯ゲームとか持ち出せないかなぁ」


 こうしてても仕方がない。ちょっと通路の様子でも……おや? これは、もしかして……今は夜か?

 扉に能力で作ったスキマの中から廊下を伺うと、灯りが消えていた。人が通らなくなる夜は灯りを消してるんだろうな。節電は大事だよね。電気で光ってるのかは知らんけど。

 廊下は足元ランプで淡く照らされているだけだ。夜の病院みたいで少し怖い。


「ほほう、チャンスですな」


 ベッドまで戻り、布団を丸めてからもう一枚の布団を被せ、ベッドに丸みをつける。私はココで寝てますよ〜っと。

 擬装を施してから体感で二時間ほど時間を潰す。ちょっと前に軍人執事が部屋に来たからね。夜の見回りだったのかもしれない。


 スキマから廊下を覗いて別の隙間を探す。


「お、あったあった。しかも等間隔に設置してあるね。コレは使えるわ」


 見つけたのは排気口。分かってるとは思うけど、スパイ映画みたいにダクトを通って進むわけじゃないよ。

 私の標的は排気口のフタだよ。空気を通すという構造上あるよね……隙間が。


 耳をすまして足音が聞こえないか念入りにチェック! はいゴー!

 ニュルっと廊下に飛び出し、十メートルほど離れた排気口にダッシュ! ペタペタペタペタッ!

 金髪ロン毛の神様よ。私の履いてるスニーカーがうるさいです。コレを用意したの貴方ですか? あ、違うね……縮んでるけど、これ元の世界で私が履いてたスニーカーだわ。たぶん用意したのは私でしょうよ。


 排気口のフタに手をかざして能力発動! コチコチコチコチ……。

 ひぇ〜、針の進む速度が遅く感じる。周りをキョロキョロからのチーンッ! ヌルッとな!


 なんとかスキマの作成に成功。スキマの中落ち着くわ〜。焦ったー。

 ははっ、だがコツは掴んだ。

 私の進行方向には幾つもの排気口のフタがみえる。順番にスキマに入り込めるようにすれば、かなり自由に動けるようになるね。

 こんなに入り込みスポットが用意されてるとは、ゲームで言えばベリーイージーよ。


 どーも私です。スキマを作り続けるのは順調です。でも少々困ってます。というのも……


「ここ飛行船の中だったわ……」


 だいぶ牢屋から遠いところまで来たんだけどさ。ある通路で窓があったのよ。思わずスキマの外にいるのに立ち止まっちゃたよね。それで見えたのが暗い夜空に遥か下に見える森。

 脱出不可能じゃんかよ。隙間に入り込む能力でどうやってこのスカイプリズンから脱獄しろと。


 あ〜やめやめ。現状何もいい案が浮かばん。牢屋からいつでも脱出できるようになっただけマシだと思わにゃ。どこに向かってるのかも知らないけど、この飛行船だっていつかは着陸するでしょ。

 こうなりゃ飛行船の内部だけでも自由に移動ができるようにしてやる。


「とりあえず今日の探索はお終い! 部屋(牢屋)に戻ろう……おやぁ?」


 なんか豪華な扉があるぞ。……入ってみる? こういう部屋には重要なアイテムとか落ちてんのよ。slitースリットーではそうだった!

 カギが掛かってても問題ない。扉の下の隙間はスキマにできるのだ。……ヤッベ時間が掛かるんだったわ。


「お邪魔しますよ〜」


 これは執務室かな? 高そうなソファーにテーブル。本棚に大きな机。ふ〜ん、金持ちって感じやね。

 壁際にはよく分からん絵画や置物が置いてある。まぁ今んとこ興味はないね。

 お、これって、もしかして時計じゃね?

 ショーケースの中に懐中時計が五つほと飾られている。……欲しいな。ハッキリ言ってスゲー欲しい。

 牢屋の中は正確な時間が分からないんだよ。

 背伸びしてショーケースを覗きこむ。

 

「一個ぐらい……バレないっスかねぇ?」

 

 しかし、これだけ綺麗にディスプレイされているんだ。一個減ってたらバレるよな〜。

 なんとなくショーケースの下の収納を開けてみる。

 おぉ! あるじゃん。箱の中に雑に懐中時計が十個ほど入っている。ディスプレイされているやつより装飾も少なかったり古めかしかったりしている。


「へへ、ちょっくらお借りしますよ〜っと」


 その中でも装飾が少なく、気持ち錆びついている懐中時計を手に取る。蓋が付いているが真ん中のガラス部分から文字盤が覗けるタイプだ。

 竜頭を押し込むと蓋が開く。うん、動力が何なのかは分からないが、ちゃんと動いている。部屋の壁掛け時計と比べても時間のズレもなさそう。

 気に入ったわ。

 私はその懐中時計をポケットに仕舞い込む。コレで正確な時間を確認できる。


 泥棒? 嫌だな〜ちょっと借りるだけですって〜。


 というか倫理観とか言ってる場合じゃねえのよ……。異世界にきてる時点で厄介なのに、今は囚人の身なんだよ。常識もない助けてくれる知り合いもいない。自分の身は自分で守るしかない。

 確かに常識はずれのことが起きすぎて、現実感がなくなってきてるのは認めるよ。

 でも倫理観を説くのは身の安全を確保し、最低限の常識を身につけてからだ。それまでは生きる為に必要なことはさせてもらうよ。


 とまぁ、言い訳はこんくらいでいいでしょ。

 牢屋に帰ろっと。帰り道は大丈夫。作成したスキマを辿ればいいからね。


 

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