開かれた扉
私が白髪幼女に変な事を教えたからだろうね……。
ママさんが幼女ちゃんに、近寄らせてくれなくなりました。どーも私です。
「テレサ、そこは前の言葉に意味が含まれているから、その文字は必要ないわ」
そして、教育ママと化した白髪ママは、私の教えを消し去る為か、白髪幼女に普通の勉強を教え始めた。
いや、確かに私の考えは少々過激だったかも知れないけどね。私はただ、泣いてないで楽しく生きようぜって事を言いたかったんだけど……。
まぁ、親としては見逃せんわな。
勉強の邪魔になるということで、水槽フレームは片付けさせられている。気が散る能力には間違いないからね。
そんな訳で私は、何をするでもなくボーっとソファーに寝転がってるんだよ。たまに白髪幼女から、自分だけ勉強をする不満みたいな視線を感じるけど……、すまんね、私は文字読むの諦めてるから。
将来の為にもしっかり勉強しなさい。
……キミにまともな将来が用意されてるならね。
チュイ……キチキチ……カチャ……キュィーン……
あん? なんだこの音……。
機械音、と言うか電子音みたいな……。
普段、この牢屋には外からの音なんて入ってこない。何故なら防音がしっかりしているから……。でも、見える範囲に白髪親子はいる訳で、だとしたらこの音は何。
白髪ママは娘を抱きしめて、真っ青な顔をしていた。
そして、白髪ママの視線を追ってみると、扉のドアノブから不思議な紋章が浮かび上がっている。
なにあれ? 歯車? それが回転したり、形が変わる。奇妙な音は変形する歯車魔法陣の音のようだ。
「ッ!」
異常を察した私は、扉のスキマに飛び込んで廊下を窺う。
「……ヤベェ」
外には青色制服が、七人ほどいる。そして扉に向かって光る何かを向けていた。
これ、たぶん扉を開錠しようとしてるんだ!
すぐさま牢屋の中に戻ると、怯えた表情の白髪親子と目が合う。すぐそこに追ってが迫っている事を察しているようだ。
「チッ!」
焦りから、自然と舌打ちが出てしまう……。
スキマの中に二人を隠すか? いや、ダメだ。
私のスキマは衝撃に弱い。それは変態殺人鬼が証明してくれた。
明らかに生活感のあるこの部屋を、家探ししない訳がない。そうなるとスキマの維持は不可能だろう。
そうなれば、アウトだ。
これは却下。
どうする? 二人を連れて逃げるか?
外に大の大人が複数待ち構えているのに?
無理でしょ……。
目眩しをして隙をつけば逃げれるか?
ダメ……母親はともかく白髪幼女の足で逃げ切るのは絶対に無理。
母親はともかく……。
「……」
二人は不安そうな顔をしている。
……決断するしかないか……。
「幼女ちゃん……ごめんよ」
――――――――――――――――――――――
「しっかし本当に魔術施錠の多い屋敷だな……いったい何回目だよ」
「まぁそう言うな。コレだけ厳重にされている部屋があるんだ。本命はどこかにあるだろ」
「開いたらいつものように部屋を隈なく調べるぞ」
「よし、開いたぞ」
青色制服の者たちが、魔術で施錠された部屋を開く。
「うわ! なんだ!」
「煙? いや霧か!」
「前が見えん! 風で吹き飛ばせ!」
扉が開いた瞬間に、勢いよく風に吹かれた霧が噴出してきた。焦る青色制服達は、その時確かに小さい子供の泣き叫ぶ声を聞いた。
「待って! 待ってお母さん! 嫌だよ! 置いてかないで! うぁああああん!」
噴出する霧の収まった部屋で、ひとり泣きじゃくる白髪の少女だけが残されていた。
「いたぞ! 解の巫女だ! 保護しろ!」
「一人だけか! 母親の方はどうした!」
そんな喧騒を聞きつけてか、ガバスアヤブドールと、それを監視する上級青色制服が到着する。
「どうやら……証拠は見つかったようですな……閣下」
「チッ!」
青色制服の言葉にガバスは舌打ちを隠そうともしなかった。
「母親の方はどうした!」
「いえ、それが……逃げたようです」
神経質そうな上級青制服はその言葉を聞いて、難しそうな顔をする。
「まぁいいでしょう。ソレでは閣下、我々はこの少女を保護させていただきます。異論はありませんね?」
「勝手にしろ! ふん、母親の方は探さなくともいいのか?」
ガバスは忌々し気な顔で吐き捨てると、負け惜しみのように母親の事を論う。
「どちらにせよ逃げたのなら、領主区画からは離れるでしょう。探すなら街のほうでしょうねぇ」
勝ち誇った顔の青色制服はニヤリと笑うと、ガバスに背を向ける。
「それでは此処での滞在を許して頂きありがとうございます。あぁ、もう此処には用はございませんので失礼致します」
「……」
「子供はこのまま連れて帰る! 街に捜索を広げろ、まだ遠くには行っていないはずだ!」
「嫌! 離してよ! うぁあああん! お母さぁああん」
泣き叫ぶ白髪幼女をつれて、青色制服は領主館から引き下げて行った。
「クソッ! ふざおって!」
憤怒の表情で壁を叩くガバスだが、結果は覆らない。
母親の方こそ逃げおせたが、娘の方は捕まってしまった。
――――――――――――――――――――――
「ふん、あの小娘の事だ……何かしらの手がかりを残している可能性がある」
青色制服が引き上げたあと、豚貴族は牢屋の中を調べていた。逃げた母親の手がかりを求めて。
「ふん、不幸中の幸いというか……二人まとめて捕まる事はなかったが……」
もう少し、時間があれば手も打てた。
しかし、扉が破られたのだ。いくらあの小娘でもどうしようもない。
むしろ母親の方だけでも逃したのは僥倖だろう。
「チッ! しかし、半分だけしか守れなかったのだ……当然、報酬も半分の十五万ネルスだな!」
もとより無理な事を依頼した自覚はあるが、それでも豚貴族は苛立ちから鼻息をならす。
そして、無駄だと分かっていても、あの小賢しい小娘が何か手を打っていないかを豚貴族は探すしかなかった。
そして、ふとクローゼットに目が入る。アソコは、白髪幼女が捕まった時、一応は開いて確かめられたはずの場所だ。
だが豚貴族は無性に気になり、クローゼットを開け放ち、目を丸くした。
「……くく、……くかかか! ぐはははは! いいだろう! 三十万ネルス、キッカリ払ってやろうではないか!」
豚貴族は酷く邪悪な笑みを浮かべて、笑い声をあげる。
「小娘ぇ! 今ほどキサマを恐ろしく思った事はないぞ!」
その表情は悪巧みを考える悪人そのものだった。
――――――――――――――――――――――
「うう、グスッ……グスッ……」
ここは捕まった白髪幼女が移送されている飛行船の牢屋。
そこで一人捕えられた白髪の少女は泣いていた。
「……グスッ……グ、グス…………グフフ……」
しかし、泣いていたはずの白髪幼女の口元は、ニィイと歪んでいた。
「……どーも私です」
『TRAITOR 〜トレイター〜』
他者に擬態する能力




