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牢屋から脱出せよ! そして戻れ!


「ただいま〜」


 といっても現実じゃ一秒も経ってないけどね。まずはセットした能力でも試してみるかな。

 slitースリットーというゲームをセットした状態で、私が使えるようにした能力はもちろん『隙間に入り込む』という能力だ。


「まぁ、ゲームと同じ性能にはできなかったんだけどね〜」


 ゲームの様に能力を使用するには、出力が足りなかったわ。もっとslitというゲームをやり込めば分からんけどね。

 まぁでも安心してほしい。出力が足りないのなら、私お得意の制限を付ければいいじゃない。そうする事で私は『隙間に入り込む』という能力を最低限の形にすることができた。


「さてさて、本邦初公開! どれ、良いところはないっスかね〜」

 部屋の中をキョロキョロ。隙間に入るという能力上、ゲームのように入り込みスポットが用意されている訳じゃない。私が隙間だと判断しなければいけないんだ。


「お、ココなんて良さげな隙間じゃない?」


 部屋を区切る鉄格子の壁際、本棚と壁の隙間だ。

 私はそこに手を当てて能力を発動。すると魔法陣の様に時計のエフェクトが構築された。オシャレでしょ!

 

 コチコチコチコチ……時計の針が進む。この針が一周する事で私はこの隙間に入り込めるようになるのだよ。

 これが制限だ。ゲームなら一瞬で入り込める隙間だが、時間を犠牲にすることで制限とした。

 もちろん一回やってしまえば次からはこの隙間に限り、ゲームのように一瞬で出入りできるんだけどね。じゃないと咄嗟の時に隠れられないでしょ。コレなら慎重に行動すれば問題ない。

 この制限でも割と出力がギリギリだったけど。


 コチコチコチコチ……チーンッ!


「はいヌルっとな」


 私の体はニュルっと隙間に入り込む。現在、私の視点は隙間から外を覗いている感じだ。

 そして今度はスポンっと隙間から飛び出す。

 ニュル……スポン! ニュル……スポン!


「いいじゃん!」


 何度か出入りを確かめて、私は確かな手応えを感じる。ゲームで見た能力そのままだよ!

 さて、お次は〜っと。このままだと私はただ牢屋の中で隠れんぼをしているだけだからね、本来の目的はいつでも脱出ができるようにする事だ。

 私は鉄格子を掴んでみる。

 

「う〜ん……、鉄格子の間は狭いなぁ」


 私は鉄棒の間に頭を挟み込んでみる。うん、頭すら抜ける事出来ないね。流石に十センチ程の隙間じゃ、いくら子供の体でも通り抜け不可能か。頭さえ抜ければ体も通れそうなんだけど。

 まぁ、それで通り抜けできるようなら牢屋がバカすぎるわな。


 そして、残念なお知らせ。私は鉄格子の隙間を隙間と認識できない。つまり、能力によって鉄格子の間に入り込めない。

 私の『隙間に入り込む』という能力の特性上。鉄格子のように向こう側が見えていると、隙間に入り込むという感覚が持てないのだ。


「でも、いくらでもやりようはあるのだよ。人権を尊重してか分かんないけど、牢屋を何もない部屋にしなかったのが敗因だよ」


 クチャリと口の端を持ちあげる。

 そう、この牢屋は普通の部屋を鉄格子で逃げられないようにしただけで、ベッドや本棚とかの家具が備え付けられているのだ。そして、それは鉄格子の向こう側にも。


 壁際に歩み寄り、鉄格子の隙間から手を伸ばす。その先には壁に備え付けられている足元ランプだ。花のツボミを下向きにしたようなランプは現在灯が消えていて、萎れたユリのようにも見える。

 私は萎れた百合の花弁に指を掛けて能力を発動する。

 コチコチコチコチ……。ふふん、灯りの消えたこの形を私は隙間だと判断するよ。

 チーンッ! からのヌルっとな。私の体は、小さな灯りに入り込む。手さえ届いていれば鉄格子も無視して、発動する。そしてスポンっと飛び出せば鉄格子の向こう側ってことよ。

 

「おーし、脱獄せいこー。でも、この能力の欠点見つけちゃったわ……」


 ゲームと現実じゃ違うってことだねぇ。

 この能力の欠点、それは『隙間というものは不変なものではない』ということだ。例えばこの足元ランプ。灯りが消えてるときは私は花弁の内側を隙間と判断できるが、灯りが付いたら隙間と判断出来ない。

 もし、ランプの隙間に入り込んでる時、灯りをつけられたらトコロテンのように強制的に押し出されるだろう。

 他の隙間についても同様。本棚と壁の隙間だって少しずらされただけで使用不可能。要は私が隙間と判断出来なくなったらお終い。それでもランプよりマシか。よほどのことがない限り、本棚を動かそうとか思わないだろうし。


「なるべく隙間が動かないようなモノを優先するべきだね。この能力の詳細は絶対にバレちゃいけないわ」


 対策が容易すぎる。


 そして、ここからが問題。私は部屋の扉に手を掛ける。ちょ、ドアノブが高いよ! 何とか飛びついたが、やはりと言うか鍵が閉まってる。

 内側から開かない扉とか作るんじゃないよ! 腐っても牢屋ということか。

 う〜ん……どうしよ。扉の下は……3ミリ程の隙間かぁ……ギリギリかなぁ。


「いけるかなぁ〜?」


 能力の発動。コチコチコチコチ……行けるか?

 コチコチコチコチ……

 コチコチコチコチ…………

 コチコチコチコチ………………

 すっげぇ時間掛かってる……。一応隙間とは認識してるけど、ちょっと怪しいなぁと思ってるのが時間に表れてる。隙間がピッタリ閉じてるタイプの扉だったら能力の発動もできないからね。時間を掛ければ行けるか。


 コチコチコチコチ……チーンッ!

 十分ほど掛かってようやく受理されたようです。さっそく隙間に入り込んで……。ほほうコレは新感覚。飛び出す方向が、部屋の外か部屋の内側か選べる。

 

 部屋の外側は通路か。隙間から飛び出さないで辺りを窺う。見つかっちゃいけないからね。

 基本は隙間の中から情報収集よ。人が見ていないのを見計らって次の隙間に直行、これが鉄則。私ゲームで学んだ。


「う〜ん。たまに人が通るなぁ」


 通路の前を人が通るたびにドキドキだ。なんせ扉を開けられたら隙間がなくなって、ズルリと押し出されるからね。

 人が来るのを感じた瞬間、内側に飛び出して鉄格子に手を突っ込み、本棚の隙間に飛び込んで牢屋の内側へ飛び出す。

 結局、ほとんどは通りかかっただけで、部屋の扉を開けることは無かったのだが、一回だけ飯を運んできた事もあったので油断ができない。


 たぶん、まだ明るい時間なんだろう。だから人が通るんだ。行動するなら夜だね。

 窓がないから正確な時間が分かんないんだよ。


 しょうがない。少し時間を潰すか。



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