そら補導されるわ
「……あ、はは……」
「……ふふふ」
どーも私です。現在真夜中の跨線橋の上で、幼女である私はお巡りさんに声を掛けられてます。
控えめに言って……補導一歩手前かと?
「お巡りさんですか〜」
「そうよ。……私、貴女の助けになれることあるかな?」
そう言って腰を屈めて私に話しかけてくる地味姉ちゃん。だから目が笑ってねぇんだって。
ニコニコしてるのに、ぜってぇ逃がさねぇって雰囲気だけは感じる。
「あぁ、いやいや、間に合ってますよぉ。そんなお巡りさんの手を、煩わせる事なんてないッスから」
肩を掴まれた。
うん、私が逃げる雰囲気を出したからかな? 仕事ができるお巡りさんだね。
「そんなこと言わないで、きっとお嬢さんは困ってるわ。お姉さんに話してみない?」
うを、なんだコレ。体が重い……。
肩を持たれてる所からズゥンと重く、体に力が入らないような感覚がする。
……厄介だね。
「あはは、そうですねぇ。さっき言った通り、宝石を換金できるお店ってありますかねぇ……探してるんですよ」
この体の重さって、私が無理に動こうとしなければ感じないんだよね。
これ私に効果的だ。私は拘束されると無力なんだよね。なんせ力が皆無だから。
「宝石を換金できるお店ね……あるわよ。でもお嬢さんだと年齢的には難しいかしら……ところで……」
地味姉ちゃんは薄目を開いて私に視線を合わせた。
「体が重いかしら?」
「んん〜何の事ッスかねぇ……」
「……」
「……」
迫力ある眼力持ってるじゃん。手汗かいてきたわ。
「……不思議でしょう? 体を掴んだ状態で、相手の重心を少しづつズラすの。無理に体を動かそうとすると、齟齬が生じちゃうから体が重く感じちゃうのね」
「へぇ〜、凄いッスね。魔法とかじゃないんすね」
「違うわよ。警察学校で習う技術かしら」
驚きだね……。コレたぶん合気道とかの一種じゃない?
魔法じゃないのが本当なら、凄い技術だね。しかも警察官の一般教養か。相手を傷つけずに拘束するにはいいのかも。
「そろそろ離してもらっていいっすかね?」
「ダメよぉ……逃げるでしょ」
「そりゃ勿論。ていうか一応聞いときますけど、何で私拘束されてるんですかね?」
「逃げようしてるからよ。そもそも逃げる気がなければ、重心がズラされてる事にすら気づかないはずよ」
うん、お互いに被ってた猫が剥がれてきた頃だね。少し腹割って話そうか。
「なんで話しかけて来たか、聞いていいですかね?」
「それは真夜中に、街で小さい女の子が出歩いてたら、声掛けるでしょ。警察ですもの」
「お仕事熱心なんですね」
うん、間違いなく補導されてるわ。
「お嬢さんは……家出かしら? 着ている服は上等な物よね? とてもスラム街の住人って感じではないわね。いい所のお嬢さんかしら」
「あはは、確かにデカい家に間借りはしてるッスねぇ……見逃してもらえません?」
「ダメ……家に送り届けさせて貰うわ。家は何処かしら?」
「あぁアソコですよ」
体は動かないので、目線だけで地味姉ちゃんの後ろ、小さく見える丘の上を指してやる。
「領主区画……働いている職員のお子さんかしら……」
私から視線が離れた……。チャンスだね。
体が動かない? ならば勝手に動く部分を動かせば良いのだよ。
「レディセット、ゴー」
ジェットブーツを、右足と左足で逆方向に回転させるとどうなる?
「なッ! 冗談でしょ!」
私の体は勝手に高速回転をして、地味姉ちゃんが肩に置いていた手が離れた。
「うにょにょにょにょ!」
ぐぉおお、上半身が千切れるかと思った! 下半身だけ回ったらそうなるわな。
ギュルギュルと回転した私は、そのまま跨線橋の柵に着地した。
「あ、信じなくてもいいッスけど、別に家出とかじゃないんで……申し訳ないッス」
「っ待ちなさい!」
「お仕事お疲れ様です」
そう言って私は、柵の上でペコリと頭を下げると、そのままの姿勢でジェットブーツを起動。スライドしながら移動する。
「そっちはダメよ!」
地味姉ちゃんの言葉を無視して、跨線橋から飛び立つ。フワリとした浮遊感を感じながら、街を見下ろし、向かいの建物の壁に着地。壁を走って走行する。
ジェットブーツはスピードさえあれば少しの間、壁を走ることも可能だからね。
仮に壁に届かなかったとしても、エネルギーの大量消費で噴射する事ができるから、跨線橋から飛び降りるくらいなら問題無いんだよね。
壁を走りながら地味姉ちゃんの顔を窺うと、驚いた表情で私を見ていた。
「お、ようやくニコニコ顔を崩せたね」
いやまぁ、別に悪い姉ちゃんじゃないんだろうね。
職務に忠実というか、単純に私を心配して声を掛けただけだろうし。
悪いのは全面的に私よ。
だから驚かせてすんません、としか言いようがない。
大人しく牢屋に帰ろう。
今日はだいぶ遠くまで散策しちゃったからね。




