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ニコニコ地味な姉ちゃん


 シュゴーっと坂を駆け降りて行く私は街を見下ろす。

 ふむ、もう直ぐ下に着くか。

 まぁここは、巨大な丘の上だから、あまり遠くに行かなければ帰り道は問題ないだろう。


「しかし、問題はどこに向かうか、だよねぇ」


 眼前に広がるのは、地平線の向こう側まで続く街並み。


「広すぎんのよ……コレだけ広いと何処に行けばいいのか分かんないよ」


 もっと小さい街なら、あの建物の方へ向かうとか、明るい方に向かうとか考えられるんだけど。その行動の指針となる物が多すぎるんだ。


 ココから見えるあの長い橋を目指すのか。それとも、あの何のためにあるのか分からないタワーを目指すのか、それが見える範囲で視界いっぱいに提示されたら、ソレはソレで困る。

 

 例えば、街に居酒屋が少ないなら迷わないよね。でも街中でそこらじゅうに店があるなら、選択肢が多すぎて困るみたいな。そんな感じ。


「これがオープンワールドゲームだったらクエストが発生してマップに目的地のピンが刺さる所なんだけどなぁ」


 あいにくだけど現実にそんなものはない。


 考えても見てよ。超広大マップのオープンワールドをマップなしで散策するって思うと、何したらいいか分かんないでしょ。


「まぁ考えてもしかたないよね!」


 私は道に落ちてる枝を、ジェットブーツで走りながらキャッチする。

 ようやく下まで辿り着いた私は、枝を上に放り投げた。

 こう言うのは考えすぎるからいけないんだよ。

 タマには運に任せるのも一興!


「何処に、い、こ、う、か、なっ!」


 地面に落ちた枝は何度かバウンドして、


「……」


 用水路みたいな所に落ちていった。……沈めってか?


「……真っ直ぐ! この道を真っ直ぐ行こう!」


 行く道を運に任せるなんてナンセンスだよ。

 こういうのは自分で決めなきゃね。


 静かな高級住宅街を抜け、数百メートルはありそうな橋を渡って行く。


「だんだん車も増えてきたね……」


 後ろに見える領主館のある丘が、だいぶ小さくなって来た頃。

 辺りは真夜中にも関わらず、明るく派手な雰囲気の街中に到着していた。


「背の高い建物が多いから、方向感覚を見失わないようにしなくちゃね」


 下手をすると元いた丘に戻れなくなりそう。まぁ最悪、領主のいる場所ってのを誰かに聞けば戻れるんだけどさ。


「ふ〜む、何処に行こうかね?」


 私はライトアップされた看板を見上げながら呟く。

 看板はドレスを着た姉ちゃんが、ワインみたいな物を掲げた写真だった。

 たぶんここは飲み屋とかお店が多い場所なんじゃないかな?

 イメージ的にはカジノとかマフィアとかいそう。


 列車の上を通る跨線橋の柵の上に座り、辺りをキョロキョロ窺う。


「う〜ん、お金があれば買い物とかしてみたかったけど……」


 ないんじゃしょうがないねぇ。異世界に来たんなら買い物は鉄板だから経験したかったんだけど。

 

 そんな海外旅行に来た、観光客みたいな事を考える。


 見どころって何処だろうね。何処に行ったら面白い物が見れる?


 切実にチュートリアルのお助けガイドが欲しい。私に行く道を指し示しておくれよ。


「もし、そこのお嬢さん……何かお困りですか?」


 そんな事を考えてたら話しかけられた。

 振り向くと、なんか地味な服を着た女が、ニッコリと笑いながら立っていた。年は若そうだな。


「……お助けキャラっすか?」

「……え?」


 いかんいかん……。絶妙なタイミングだったからお助けキャラかと思っちゃったよ。

 親切に話しかけてくれた地味姉ちゃんに悪いこと言ったね。


「何か困ってそうだったから話しかけたんだけど、お姉さんに協力できることはあるかな?」

「お、なんか悪いッスね。気ぃ使って貰っちゃったみたいで」


 私は柵から飛び降りると、後頭部に片手を当ててヘコヘコ頭を下げる。


「いや、別に何か困ってる訳じゃないんスけどね。これから何処行こうか迷ってるんスよ」

「…………」


 地味姉ちゃんは、ニコニコしながら私の話を聞いてくれる。


「なんか買い物しようにも金もないッスからねぇ。あ、そうだお姉さん。宝石とか換金できる場所ってないですかね?」


 確率は低いだろうが、もしかしたら子供でも宝石の換金ができる場所が有るやもしれん。

 

「…………………………どうかしら?」


 おや? 今、間があったね?

 もしかして地味姉ちゃん……物取りだったりする?

 私がうかつにも、宝石を持ってるなんて情報出しちゃったから犯行を企ててたりするかな?


 いや、たぶん違うね。だったら子供なんかに話しかけたりしないで金持ってそうな奴を狙うか。


「……ちなみに。お姉さんは、どんな人なんすかね?」


 泥棒です。とかはバカ正直に答えないだろうけど。


「そうね……。急に話しかけたから驚かせちゃったわね」


 そう言って地味姉ちゃんは、地味なズボンからゴツいチェーン付きのネックレスみたいな物を取り出して、見せつけて来た。


「見ての通り……私は警察よ」


 ニコニコ顔のまま、薄く目を開いた地味姉ちゃんの目は笑ってなかった。


「……」


 あれ、もしかして私……。


 補導されかけてません?

 

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