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領主館の幽霊


「うぃ〜す……生きてますかぁ?」


 地面に胡座をかいて座り込んでいる豚貴族に話しかける。


「ふん、見ての通りだ……」


 肩を竦めながら、ぶっきらぼうに答える豚貴族は疲れているようだ。


「いや、そっちじゃねぇッスよ……隣で白目向いてる坊ちゃんだよ」


 悪いけど、私の中で豚貴族は人間カテゴリーから外れました。

 なんだよ、死ぬのやめたら傷が治るとかさぁ、コイツどうやったら死ぬんだ?

 お前クマムシかよ。そういやちょっと似てんな……。


「ただのゲンコツで死ぬ訳なかろう。気絶しとるだけだ」

「地面が割れるほどの衝撃を、ゲンコツというならそうかもしれないっすね」


 それ一般的には大事故って言うんすよ。


 腹を刺されても死なない化け物の言うことは、真面目に聞かないようにしよう。この世界の常識を知る上で、豚貴族を基準に考えたら恥をかく予感がする。

 この豚、色んな意味で私の教育によくねぇわ。


「しかし、容赦ないっすね」

「ふん、小娘の方はどうした? プレジールヴィイの姿が見えんようだが」


「あぁ、崖から突き落としましたよ」

「お前、よくワシの事言えたな……」


 

 あれ、ふらふらする。あ〜死なないって言っても、しっかりダメージはあるなぁ。


 私は豚貴族に倣って座り込んだが、思ったより疲れていたのか、そのまま後ろにゴロンと倒れてしまう。


 あ〜……空が青い。眠くなりそう。


「疲れたッスわ〜……」

「ワシもだ……ここまで体が鈍っとるとは。セドリックの言う通り、少し絞るか」


「そんな! 痩せちゃったら今度から、心の中で何て呼べばいいんですか?」

「何と呼んでおったのだキサマは……」


 豚貴族以外ねぇだろ。

 


 ――――――――――――――――――――

 


「橋が壊れているぞ! 回り込め!」

「しかし、お館様に近づくなと言われて……」

「セドリック様に命令されていた護衛と連絡が付かん! その場合は踏み込めと言われている!」

「お館様に何かあったら抉られるぞ!」

「い、急いで回り込め!」


 私は瞑っていた目を開ける。ふむ、歩ける位には回復したかな。やっぱ私も人間じゃないね。


「よいしょっと……」

「…………行くのか」


「騒がしくなりそうなんで……」

「…………そうか」


 立ち上がって歩き出したら、豚貴族に声を掛けられた。目を瞑ってたから寝てんだと思ってたんだけどね。


「…………感謝する……妻が……」

「…………?」


「……久しぶりに笑ってくれた気がした」


 私は後ろに向かってヒラヒラと手を振ってやった。家族間の事に関して、これ以上、他人の私が言える事はなさそうだ。

 

 あとは当人同士で何とかしてくれ。



 ――――――――――――――――――――――



 去り行く少女の後ろ姿を見て、ガバス アヤブドールは予感した。

 おそらく少女が自分の前に現れる事は、二度とないのだろうと。

 不思議な……というか不気味な小娘だったなとガバスは薄く笑う。


 正確には分からないが、長男の娘より下なのではないだろうか。しかし、ただの人間ではない事は確かだ。

 毎日牢屋を自由に抜け出す存在が普通の人間の訳ない。妖怪や幽霊の類かとも思ったが、それにしては性格に人間味がありすぎた。

 皮肉屋で口が悪い。


 妻が眠る庭園。妻がよく座っていた椅子に、我が物顔で座る少女に対して、怒りが湧かなかったことが不思議だった。


 ああ、そうか。とガバスは納得した。根本の部分で自分と少女は似ているのだと。


 庭園で明るく過ごす小娘に自分を重ねてしまったのだ。あの頃の妻と一緒に過ごした時間を思い出してしまって。


「ふ、まさか重ねるのが妻ではなく、ワシの方だとはな……ロクな小娘ではないわい」


 そう、呟いたガバスの口元には笑みが浮かんでいた。



 ――――――――――――――――――――



「石橋の改修作業が始まりました」

「うむ」


「子息様は学園の方で鍛え直すと言う事で良かったですかな」

「あぁ、キサマの采配なら間違いは無かろう」


「お任せ下さい。二度と謀反など企てないよう処置させて貰います。初めから私に任せて下されば早かったものを……」

「ほ、ほどほどにな……」


 息子の襲撃事件から数日がたった。

 執務室にてガバスは、セドリックの報告を聞いて頷く。

 ガバスの仕事は、事件の後始末が終わったら無いも同然だ。報告を聞くのですらヒマ潰しだったりする。


「そろそろ、お茶の時間にしますか。出張先で見つけた茶葉をお土産に持ってまいりました」


 その言葉にガバスは苦そうな顔をする。別に茶葉の味を想像した訳ではない。


「悪かったわ……そうイヤミを言うでない」

「おや、私は別に、何も知らされず出張に行かされたことを恨んではいませんとも」


「ふん、予め襲撃を考えて、護衛にいい含めていた癖に言いよる」

「……ふ」


「なんだ……珍しくご機嫌ではないか」

「いえ……ただ、拗ねるのはおやめになったようだ、と思いましてな」


「ふん」


 ガバスは不貞腐れたような声を上げる。

 いままで投げやりになっていたのは確かだった。

 セドリックもソレが分かっていて、付き合っていただけなのだ。


「他に何か報告はあるか?」

「いえ、……そういえば最近屋敷で幽霊を見かけるという馬鹿げた噂が流れていますね」


 あぁ……とガバスは薄く笑う。


「ふ、その幽霊ならもう二度と現れる事はないだろうよ。事の終わりと共に成仏したと思っとればいいわい」


 自分だけは幽霊の正体を知っている。それが無性に笑えてくる。


「ふ、はは……」

 




「…………いえ、目撃情報は昨晩なのですが?」



 


「……………………は?」




 豚貴族は廊下を走る。


 目指すは鉄格子のある牢屋だ。


 勢いよく扉を開いた。



「ハァ……ハァ……なんじゃ。もぬけの空ではないか」


 豚貴族は一つ思い違いをしていた。


 ガチャ……とクローゼットが独りでに開く。


「あ〜、やっと傷が治ったわ。あ、ウィっすお貴族様。なんか朝メシ来ないんスけど?」

 

「こ、小娘! キサマ何故いる!? 出て行ったのではなかったのか!」


「はぁ? 別にそんな事言ってないっすよ?」


 そう言ってない。

 豚貴族が勝手にそう願望しただけで言ってない。

 

 願望だ。もう用済みになったから、不気味な小娘も居なくなってくれないかなぁ……というただの願望である。


「暗殺者騒ぎも終わったし、出て行く理由ってなくね?」

「なっ! き、キサマァ!」




 「だからさぁ……お貴族さま」

 


 少女はニタァアと悪そうな笑みを浮かべる。


 

 

「もぅ暫く私の事養って下さいねぇ……」



「ふ、ふざけるなああああ!!」



 幽霊の噂は終わらないようです。


  

 

 

 ここまで読んで頂き、ありがとうございます。

 第一章終わりです。最終回みたいな雰囲気になりましたが、別に終わりません。

 次のお話を書き始めていますが、今までの様に毎日更新は難しいかも知れません。それでもお付き合いしてくださる方がいらっしゃるなら嬉しいです。

 急に見てくれる方が増えて、ビビり散らしましたが、沢山のマイリスや評価、感想や誤字報告、イイネに助けられました。

 ありがとうございます。

 次のお話も、お付き合いしてくれると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあこの世界の人間達を見るに出て行かない方が安全だよなぁ…
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