ゲームクラッシュ!
馬鹿息子が駆ける。
能面のような顔で目だけは血張らせながら。
「……語らおうではないか。ザックよ」
どこか遠くを見つめるような豚貴族は、片手に剣を無造作に持って相対した。
つか豚貴族って剣とか扱えんのか?
体がデカいせいで剣が小さく見える。デカいハンマーとかの方が良くない? 似合うと思うよ。
「いい加減、終わりにしましょう!」
「ふん……」
金属音が響く。豚貴族は、バカ息子の剣を受け止めていた。その光景にバカ息子は、目を見開いて驚愕の顔を見せる。
そして幾つもの金属音を奏でながら、親子の語らいは始まる。私の目には互角にみえた。
ウッソだろ豚貴族。お前強いのかよ!
バカ息子の剣は、隙のないお手本のような剣に見える。
対して豚貴族は剣を片手で扱い、状況に応じて右手と左手に移し替える、擬似二刀流みたいな動きだ。私には動きと剣線が一致しないようなトリッキーな剣に見えた。まぁ私に剣なんて分からんから、何となくだけど。
「どうしたザック……何を驚いている。お前もしかして自分の剣に自信でもあったのか?」
「……ッ!」
「学校でチヤホヤされて気分が良かったか? 自分は優れていると……秀でていると思ったか?」
「……傷が! 一体何故!」
豚貴族は、馬鹿息子の剣に逆らわず、後ろに飛び退く。身軽な豚だ。
距離ができた事で、豚貴族の全身に目が行った馬鹿息子は、驚きの声を漏らした。
豚貴族の受けていた傷が、塞がり始めていた。
「ああ……これか? 大したことではないわい。ただ……死ぬのを止めただけだ」
悲報……豚貴族も人間ではなかった件。
お前も化物側じゃねぇか!
死ぬのを止めただけで怪我が治る、プラシーボも真っ青な暴論だな。
豚貴族の剣は一見、荒々しい動きに見えて流麗という言葉が相応しかった。虚の突き方、死角からの剣線、それは習う剣ではなく実践の剣なのかもしれない。
その光景を見ていたのは、私だけじゃない。
変態殺人鬼も、これ以上ないほどの狂気の笑みを浮かべながら見惚れている。
「ククッ! おいおいなんだよ。ガバス アヤブドール。メチャクチャ美味しそうな相手じゃねえか……。ああ、本当なら個人的にお相手して貰いたいんだかなあ……。仕事じゃしょうがねえよな」
そう言って、残念そうにバカ息子に加勢する為、足を動かした。
しかし問屋が下さないよ。
「チョイ待ち……そこのファッションサイコパス」
「……あぁ?」
私は呼び止める。
「お父さんの家族サービス中なんだから、部外者は邪魔しちゃダメッスよ」
「ククッ! そう言うなよ嬢ちゃん。あのオッサンかなりヤルぜ。俺としては、どうしても相手して貰いたいんだよなあ」
「ふ〜ん、やっぱり強いんだ。それで戦闘狂のアンタはオッサンと戦いたいんだね。……私で手を打たない?」
「あぁ? 時間稼ぎのつもりか? 悪いがお前に興味はねえ。多少目眩しは得意みたいだか……それだけだろ」
変態殺人鬼は、私の事なんて眼中にないように豚貴族に向き直る。
「そういうなよ……」
「楽しませてあげるからさぁ」
私は手を差し出した。
差し出した手の平から、空間が歪んでいるかのような靄が蠢いている。そして、徐々に歪みを大きくした手のひらは、やがて眩い光を放つ球体と化す。
大気を揺るがすその光の球は、私の髪を靡かせた。
その光に振り返った変態殺人鬼は、眩しさに目を細めながらも、口の端を引き裂かんばかりに跳ね上げる。
「私に打てる手は余り多くない」
それでもやれるだけの事はやったつもりだ。
瓦礫に埋もれていた私は領域を展開した。
領域の中で何をやるかは決まっている。ゲームだ。
私は今プレイしているコメットシティを時間一杯までプレイしてきた。少しでもゲームエネルギーを蓄える為に。
私の中で避けてきた攻略サイトを見ながらのプレイだ。ただひたすらに、ゲームを進めてメインストーリーのクリアまで持って行った。
エンディングは飛ばした。少しでも時間が欲しかった。
サブクエストも時間の許す限り進めた。
そして、膨大なゲームエネルギーを蓄えてきた。
「でも……それでも届かないと分かっていた」
コメットシティを何の能力に変えても、届かないと感じていた。
だから私は……能力を使い捨てにする事にした。
輝く球体に触れる。
そして、力一杯握りつぶした。
「ゲーム……クラッシュ!!」
コメットシティは、ワープさえ可能にする膨大なエネルギーを秘めている。
セットさえすれば、永久にワープという人智を超えた能力を使用できたはずなのだ。
だが私はそれを捨てた。この一瞬の為に……。
開いた手から現れたのは虹色に光るニンジン。
コメットシリーズでお馴染みの無敵アイテムだ。
永久に使える超エネルギーを、一回コッキリの使い捨てにする。これ以上ない制限だ。
これをやってしまえば、コメットシティの全エネルギーは消失してしまい。今までのプレイも水の泡。
「でも……」
腹が立ったんだから仕方ないよね!
蹴られたのすげぇ痛かったよ!
だから私は癇癪を起こしてゲームをぶっ壊したんだ。
責任は取ってもらうからね……。
虹色ニンジンは手のひらから私に吸収され、そして私の体は虹色の閃光を四方八方へと放射した。
「なんだぁ……」
冗談のような私の姿に、変態殺人鬼は呆然と呟く。
この場に似つかわしくない、ダンスホールの様なイカれた光を放つ私は、息を大きく吸い込んだ。
そして、ギッと睨みつけてやると、変態殺人鬼は私の視線を受け、少しだけ身じろぎをした気がした。
私は、前に倒れ込むように……
「でんでんでんででんでんででんでん!!」
無敵BGMを叫びながら爆走した。




