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不器用な親と不出来な子


「…………なんと……いいましたか?」


 ゾワリゾワリと、バカ息子が地の底から這い出すような声を出す。


「おぬしは当主の器ではない。なんならそこの惚けた小娘の方が向いている位だ」

「私がその少女より! ……劣っていると言うのですか」


 ギロリと睨みつけられる。巻き込むなよ……。

 いや、もう巻き込まれてるんだったな。

 じゃあいいわ!

 

「ザックよ! 貴族にとって必要な事とは、何か分かるか?」


 演説でもするように、豚貴族は両手を広げて問いかける。


「……クズのアナタより分かっているつもりですが?」

「具体性がありませんねぇ。誠に残念ながら採用を見合わせて頂きます!」

 

「クッ! このガキ!」


 茶々入れてやったら貴公子の仮面が剥がれ落ちた。おいおい、どうした? 安物の仮面つかまされたんじゃあないの?


「教えてやる……貴族にとって必要な事。それは『悪』を知る事だ」

「…………何を曰うかと思えば……悪党のアナタがソレをいいますか」


「ふ、意味が分からず分かったフリか? お前らしい」

「……」


 ギリギリと奥歯を噛み締めながらバカ息子は憤怒の顔で睨みつける。


「そうだ! ワシは悪党だ! 悪いことは何でもするぞ!」

「知っていますが……」


「じゃあコレは知っているか? 『お前も悪党だ』」

「……いったい何を言っているのですか? 私は……」


「清廉潔白で真っ直ぐな人間か? そこだ。そこがお前の問題外な所なのだ。違うわ! お前は自分が善人と勘違いしておる……ただの小悪党だ」

「知った事をいうな! 私が何をしたと言うのです!」


「簡単だ……何をしたか分かっていないから悪党なのだ。人は多かれ少なかれ悪事を働いて生きておる。そんな中、自分は清廉潔白だと思い込んでおるお前は立派な悪党だよ」

「無茶苦茶な詭弁を言うな!」


 バカ息子は息を切らして叫ぶ。


「いや、暗殺者雇ってる善人っておかしくね?」

「ぶ、ぶはははは! そう、そうよな! 他にも色々やっている事を知っておるぞ! キサマはあの女に言いよる男を排除したな!」


「それはあの男が!」

「確認したのか! 無理矢理言い寄ったと! 本当に思って暴力を振るったのか!」


「それは」

「真相はどうでもいい……キサマは、ただあの女に好かれたかっただけだ。利用したのだキサマは」

 

「違う私は」

「安心するがいい、お前はワシの息子だ。立派な悪党の血を引いとるよ。その代わり貴族の器ではない」


 はは、豚貴族のやつ本当に口喧嘩上手いな。馬鹿息子の話始めを潰して、言いたい事を言わせないようにしてやがる。


 だがまぁ豚貴族の言ってる事はメチャクチャなように聞こえるが、私は何となく言いたい事が分かる。


 結局、私がバカ息子に対してイラついている事と一緒だ。


『悪党の癖に、自分を善人だと思ってんじゃねぇよ』


 これだろ。

 

 悪党でもいい、善人ぶっててもいい。でも、馬鹿息子は、自分を善人だと本気で思ってるからダメなんだ。思考してないんだ。ただ盲目的に自分の都合のいいことしか考えられない。


 だから豚貴族は器じゃないって言ってるんだ。


 そんな奴は利用されて、いいように使われたあと切り捨てられる。


「ふざけた戯言はこれまでです! アナタが彼女の実家に嫌がらせをした事は許せない!」

「あーソレ……気になってたんスよねぇ」


「ほぅ……小娘答えてみよ」


 豚貴族が酷く楽しそうに私に振る。お主もワルよのぉ。


「お貴族様さぁ……あの坊ちゃんに期待してないでしょ?」

「そうだな」

「クッ!」


「そんな坊ちゃんが平民の女に惚れたと……別に気にしなくね? 家を継がせる気もないんでしょ? 勝手にしろってお貴族様なら思うんじゃないかな。……ちゃんと伝えたの?」

「くは! くはははははは! どうだザック! やはりこの小娘の方が、キサマよりよほど貴族に向いておるだろ!」


「あぁなるほどね……」

「はは! 答えは『伝えた』だ」


「そりゃ貴族に向いてねぇわ……自分の信じたいもんしか信じてねぇもん」


 馬鹿息子は爆発寸前だ。

 ふむ、そろそろ頃合いだな。だいぶ息も整ってきた。


 豚貴族も手を握って握力が戻ってきたのを確認しているな。


「坊ちゃんさぁ……アンタの彼女……ロクでもない女だったんじゃない?」

「殺してやる!!」


 ようやく分かったわ。気になってたんだよ。豚貴族は確かに馬鹿息子に対する愛情はあるんだろう。だがそれとは別に才覚には期待してなかった。

 まぁ当たり前だわな。都合のいい事しか信じない奴なんて欠陥もいい所だ。


 豚貴族は調べたんだ。そんな欠陥息子が騙されていないかどうかを。

 結果は黒。ロクでもない女に引っかかっていた事が判明。豚貴族は馬鹿息子にそれを伝えるが、時は既に遅し。盲目になっていた馬鹿息子は、信じようとはしなかった。


 そこで、豚貴族は女の実家に圧力を掛けて、女の方から別れさせようとした。……ってのが真相だろう。


 結果は不正の証拠を公にされ、あまつさえ暗殺者を雇われ、王都を追われる。

 豚貴族さぁ、本当はこの時点でなんとでも出来たでしょ? でもこの時には、既に傷心豚野郎と化してたから何もする気がおきなかったんだ。


 難儀なもんだ。



 さて、ネタ明かしも十分だ。



 決着をつけようか。



 

「腑抜けは治りましたかね? お貴族様」

「ふん、お陰様でな」


 私が汚れた服を叩いて歩き出すと、豚貴族は首をゴキゴキと鳴らしながら並ぶ。


「実際の所どうよ……やれる?」

「運動不足の体でプレジールヴィイまで相手するのは厳しいな」


 ゆっくりと歩きながら喋る。視線は敵から離さない。


「ふ〜ん……じゃあ私は、親子喧嘩の邪魔を排除しましょうかね?」

「……正気か?」


 向こうの二人も、やる気満々でこちらへ向かってくる。特に馬鹿息子は、危ない薬でもやってそうな目をしている。


「蹴られた借りがあるんで……」

「……そうか。それなら、ワシは親子水入らずでやらせて貰う」


 奥の手は仕込んである。


「承知ッス……」

「……すまんな」


「何がっすか?」

「ワシは結局……息子を見限れんようだ」


「…………」




 

「……だから、キサマの言った通り」




 「叱ってくる」


  


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― 新着の感想 ―
[一言]  もうこれ豚貴族がヒロインでいいよ
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