石橋を叩いて砕く
「…………」
「…………」
「…………えへへ、どーも」
私です! う〜ん……どうしようかね。
うわ……豚貴族刺されてんじゃ〜ん。大丈夫なんソレ?
「ふん、間の悪い時に出てきおって……」
「いや〜出てくるつもりはなかったんスけどね。簡単に言うと事故っスわ」
よいしょっと……あぁ服が汚れてんじゃん。
軽く叩いてから立ち上がる。
「どうしてこんな所に子供がいるのですかね?」
あちゃ〜……さり気なく部屋から出ていこうと思ってたのに話しかけんじゃないよ馬鹿息子。
「いえいえ、ただの通りすがりの子供ですよお。いやだなあ、そんな怖い顔してえ」
「怖い顔ですか……。子供には言われた事はなかったのですが……」
「ははは、ご冗談がお好きなようで」
「…………」
あ、笑顔のまま固まっちゃった。どしたの馬鹿息子?
なんか悲しい事でもあった?
「顔の怖いお兄さん、私は関係ないので失礼しますね?」
「………………………………………………どうぞ」
溜めたなぁ。邪魔なんてしないからさっさと逃げさせておくれ。
ペタペタと出口……というか変態殺人鬼が開けた穴に歩みを進めると、目の前に長い足が現れる。
「長い髪の子供、ククッ……お前ガバス アヤブドールの護衛だな?」
違うけど!?
何言ってんの? お前!
検討違いの事ドヤ顔で言わないで欲しいんですけど!
「え……と……、何を仰ってるのか分からないスね……」
顔を近づけて舐め回すように見るな変態!
「報告は受けてるぜ。長い髪の少女が護衛についてるってよお。妙な術を使うらしいじゃねぇか?」
ヒィぃいい! 前回の暗殺者に狙われてた時、そんな勘違いされてたのか。
ネットリとした視線を向けられ、思わず視線を逸らす。
「俺にも見せてくれよ……なぁ」
「闇滅球!!」
「水滅球!!」
パリンッ! パリンッ! パリンッ! パリンッ!
パリンッ! パリンッ! パリンッ! パリンッ!
コイツ……怖! ダメだ。コイツに関わっちゃいけない!
フルスロットルで逃げなきゃ!
「氷滅球!!」
パリンッ! パリンッ! パリンッ! パリンッ!
ゴト……ゴトゴトゴト……。
最初の闇滅球で部屋を暗くする。その後に水滅球で濃い霧を発生、闇と霧のハイブリッド煙幕だ。次に氷滅球で部屋に複数の不安定なデコイの氷像を生成。効果時間は短くて構わないから数をこなす!
氷像を幾つか倒れるようにしていたので、足音の囮にする。
全力だ! アイツから全力で逃げなきゃ!
壁の穴から飛び込むように外に飛び出る。
「レディセット! ゴー!」
ジェットブーツで廊下を走る。いざという時の為に練習していた逃げ方だ。
あばよ豚貴族! お前を囮に私は逃げさせてもらうよ!
「……ってなんで豚が前を走ってるんですかね?」
私がジェットブーツで滑走する前方で豚貴族がドシドシと走っていた。
「ちょちょちょ! なんでいるんすか!」
「ぐはは! 小賢しいキサマならこうすると思っておったわ!」
くそ、囮作成は失敗か。しかし、腹刺された癖に元気かよ。脂肪か!? 脂肪のお陰なのか!?
「他の兵士さんはいないんすか! というかおかしくないッスか! なんで誰もいないんだよ!」
「は、領主館の人間は話し合いの前に全て避難済みだ! どうせこうなる事は分かっておったからな! いても邪魔になるだけだ!」
「他の兵士さんも?」
「…………」
「バカーーーーーーー!! なんで二人残して避難させとんのよ!」
「う、うるさいうるさい! だまれ! 本当ならキサマも移動させるつもりだったのだぞ! なぜ牢屋におらんのだ!」
くそ、この期に及んでコイツは!
「これからどうするんですか!」
「兵舎に助けを求める! この先にある橋の向こう側だ!」
橋の向こう側……一回だけ見た事があるな。私が炎滅球で幽霊騒ぎを起こした橋か。向こう側が兵舎だったのか。
「ここだ! 一気に渡るぞ!」
「先に行くッスよ!」
昼間に見るのは初めてだが、石造の橋だ。距離は五十メートルほど、下は百メートルはありそうなほどの絶壁だ。
しかし、私達は橋を渡ることはできなかった……。
「残念だなあ。行き止まりだ!」
どこからやって来たのか……。多分、領主館の屋根から跳躍したのだろう。
橋の中央に着地した変態殺人鬼は、拳で、橋を、破壊した。
地響きと共に崩れ落ちる石造の橋は、領主館と兵舎を別ち十メートルほどの奈落を作り上げた。
うっそだろお前。石橋って素手で破壊できるもんなのかよ。
私は慌てて引き返す。そして、豚貴族の後ろに人影を見た。
「早いですよヴィイ君」
「ウグっ!」
げ、挟まれた。橋の方からは変態殺人鬼。そして後ろから豚貴族の背中を切り裂くバカ息子。
豚貴族はヨロヨロと欄干を掴み、無造作に剣を振るが避けられ血の池を作り出す。
豚貴族の剣を避けたバカ息子は跳躍して、私の上を飛び越え変態殺人鬼の横に降り立った。
いまだ!
豚貴族の悪あがきで、後ろから来たはずのバカ息子が橋の中央の方へ移動してくれた。
ジェットブーツを起動して来た道を戻る。
橋の入り口付近には豚貴族が倒れているが、囮になってくれるだろう。
「面白い小細工だったぜ……発動の速さはなかなかのモンだった」
ゾクリと、背中に氷水を流し込まれたような気がした。
本当にいつの間にか、私の真後ろに来ていた変態殺人鬼が私の耳元で呟く。
「あ…………」
まるで最初からそこにあったかのように、振り返ろうとしていた私の横腹に変態殺人鬼の足がめり込んでいた。
首と足が千切れそうな衝撃を感じた。次に頭に衝撃が走り視界が飛ぶような光線を残す。
次に見えたのは凄まじいスピードで通り抜ける石橋。写りの悪いブラウン管テレビのようにチカチカと視界に映る映像が切り替わる。
ここで私は……自分の体が弾丸のように吹き飛んでいるのに気づいた。
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前方で少女の体が吹き飛んだ。
その光景を豚貴族は虚な目で眺めていた。
少女の体は目の前の壁にぶつかり、鮮血が舞う。少女のぶつかった衝撃で壁は崩れ、少女の無惨な死体を覆い隠したのは、幸か不幸か。
少女の死を別段悲しむ感情など豚貴族にはなかった。
ただ、自分ももうすぐ同じ所に行く事になるだろうという確信だけがあった。




