領域の能力
どーも、私です。異世界に到着して一日もしないうちに自分の拠点を手に入れた私はかなりのエリートなんじゃないでしょうか? 牢屋じゃなければね!
まぁ牢屋といっても実はそんなに悲惨な部屋ではないんだよね。普通のビジネスホテルの部屋って感じ。
ただ部屋の半分が鉄格子で遮られていて、逃げ出すことは出来なさそう。ふむ、なかなかしっかりした鉄格子じゃないか! 牢屋なんだから当たり前か……。
あのあと、兵士に取り押さえられた私は飛行船の中をよく分からない順路で移動させられてこの牢屋に入れられた。捕まえる時にはわりと乱暴に捕えられた私だが、抵抗の意思がないと分かったのか連行中は手を縛られただけで丁寧に運ばれた。
捕まえる時は乱暴だったけどな! いや、もうね! 片手を捻り上げられて、地面に突っ伏したあと動けないように膝で首の裏を押さえつけやがんのよ! コイツら! 痛いし、すげー力で押さえつけるしで抵抗なんてする気も起きなかったわ!
ところで空飛ぶ東京ドームこと、この飛行船のことだが、どうも豚貴族の個人の持ち物っぽい。連行されてるときに野次馬なのかすれ違う人間にジロジロ見られたんだけど、着てる服がどいつも仕事中っぽいんだよね。豚貴族の雇われなんだろう。
となると豚貴族が本当に貴族の可能性が高くなってくるな。この世界のことがよく分かってないから金持ち商人の可能性もあるけど。権力を持ってるのは間違いない。
そんな豚貴族だが……。
「ーー。ーーー。ーーーー……。」
鉄格子を挟んでなんか私に話しかけてくる。まぁ何を言ってるのか一ミリも分かんないけどね。最初の私を殺しそうな剣幕は鳴りを潜めているが、面白くはなさそうだ。
「どーも豚貴族様。こうして見ると奴隷商人と不憫な美少女奴隷って感じっすね」
「ーー。ーーーー。」
ふむ……、怒る様子は無し……と。やっぱり言葉は通じてないか〜。まぁたぶん「キサマは何者だ?」的な事聞いてるんだろうな。敵意がない事を表すためニッコリ笑ってみる。
あ、だめだ。忌々しげに顔を歪めてる。
「ーーー。ーー。」
「ーー……。……ーーー。」
豚貴族の隣には白髪のダンディなオッサンが立っていて、ときおり豚貴族に相槌をしている。豚貴族は椅子に座ってるのに対して、横で直立不動をしているので豚貴族の執事なのかもしれない。
執事にしては随分ガタイがいいな。胸板が分厚い。姿勢がよくビシッと立っている姿は退役軍人みたいだ。表情豊かな豚貴族と比べてニコリともせず、瞳は細められたまま此方を静かに油断なく見据えている。ますます軍人臭い。豚貴族の護衛みたいなもんかな? 軍人執事と呼ぼう。
しばらくして二人は牢屋から退出していった。会話ができねぇんだもん。尋問のしようもないわな。
しばらくベッドでゴロゴロしてたら飯を出された。意外だっわ。何気に待遇がいいじゃん。小学校の給食みてぇなメニューだけどね。
ふむ……、ファンタジーの世界とか言ってたから身構えてたけど、牢屋に入れられた状態でも最低限の生活は保証してくれそう。マジで意外な事に、この世界は思ったより文明的なのかもしれん。
いやいや、ここで楽観視は良くない。なにぶんこの世界の常識がないからね。いきなり「明日斬首だから」とか言われる可能性もあるのだ。何とかせんといかんな。
よし、今後の方針はこれで。
「いつでも脱出できる状態を作って、時が来るまでこのまま情報収集がいいと思いま〜す」
え? 脱出もなにも牢屋の中だろって? まぁまぁ、任せなさいって。
アレ……試してみようや。
「私の領域!」
私を中心に世界が切り替わる。ワンルームほどの、何もない真っ白な空間だ。ここは概念世界なので現実世界では時間は流れていない。
「う〜ん、殺風景。ま、いいでしょ」
この空間のキモはゲームをプレイする事だ。今はそれだけしか決まっていない。だから細かい設定を決めていこう。
「ふむ、こんなもんかなぁ……」
大雑把に決めた事は次のことだ。
●この領域の中に居られるのは24時間まで、次に入るには現実世界で24時間のインターバルが必要。
いきなり何でそんなマイナスの制限つけてんの? って思うでしょ。別にゲームは一日一時間とかお母さんみたいな事を言ってるわけじゃないよ。実はコレはどうしようもない事なのよ。
領域でプレイしたゲームの能力を、外でも使えるようにするって能力じゃん。感覚で分かるんだけど、はい、どうやら出力が足りません。
私の超越者としての能力が低いせいだね。それを解決するのが制限をつけること。
現実に戻らないで延々と領域内でゲームやってりゃその内無敵だわな。だが残念、出力が低すぎてゴミみたいな能力しか行使できない。
だから領域に入れる時間自体を制限した。そうすることで現実世界で行使できる力を底上げしたのだ。というか今回決めたのは出力を上げるための制限ばかりだ。
●領域内でプレイしたゲームをセットする事でその能力を使用できるが、セットできるゲームは三本まで。
つまり、私が一度に使える能力はゲーム三本分ということだ。そしてゲームのセットは領域内でしか付け替えが出来ない。つまり、現実世界ではセットしたゲームをコロコロ入れ替えられない。ま、当たり前だわな。制限した意味がない。最低でも24時間は同じ能力という訳だ。
●ゲームをやり込めば、やり込むほどそのゲームから引き出せる能力の上限が上がる。そのゲームのどの部分を能力として引き出すかは私の解釈次第。
これは制限というより領域の特性みたいなものだろう。解釈次第というからにはゲームと関係ないと思う能力には変換できない。逆を言えば、私が関係があると解釈すれば問題はない。
●戦闘能力への変換は著しく出力が落ちる。
これが今回決めた詳細の最後だ。たとえゲームをメチャクチャやり込んで、最強キャラを作りその力をセットしたとしても、あまり強くなれないということ。つまり私は戦う能力はクソザコな訳だな。
なんでこんな致命的な制限付けたと思う? もちろん出力を上げるためもあるよ。でもキッカケは兵士に取り押さえられた時だ。
ハッキリ言って勝てる気がせん。
なんかね、無理ってのが一瞬で分かっちゃったんだよね〜。ただでさえ子供になって腕力落ちてんのに、たぶんこの世界の人間……、元の世界の住人より強いわ。
私を取り押さえたヤツ、目の前で消えたんだぞ。
多少強くなったところでねぇ。それならば、いっそのこと戦闘は捨てて制限にした方が賢くない? あと私の特性なのか元々戦闘能力に変換自体、レートが悪いっぽいしね。
まぁこんな所かな。そろそろ何のゲームをやるか決めるか。目標はいつでも脱出できる能力だね。