殺人鬼プレジール ヴィイの噂
「ゲホゲホッ! そうそうそう! そう言えばこの服に合わせるなら靴も合わせましょう! そうしましょう! それではこちらのカタログをご覧くださいね〜!」
服屋の姉ちゃんはUFOを目で追っている様な眼球の動きをさせながらワントーン上がった早口でまくしたてる。
貴族のヤベェ事情を知っちまったって所かな。
「こちらの靴なんですけど! 色合い的に赤が合うと思うんですよね!」
姉ちゃんそれ帽子のカタログだよ? ちょっとした冗談のつもりだったんだけど……思ったより反応が良くて面白いわ。
「へぇ〜子供でもアウト思います?」
「ん”ん“ッ! え、ええ! 子供の方にもお似合いになられると思われますがぁ?」
へへへ、他人の焦ってる姿って、生きる気力が湧いてくるよね!
しかし、そうか。この世界の常識でも子供に手を出すのは異常ってことね。オッケー私また一つ常識を覚えました。
否定はせんでいいでしょ。豚貴族の世間体とかクソほど興味ないし。どうせ元々良くねぇんだろ? 今更いわれのない悪行が一つ増えた所で痛くも痒くもないよね!
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しかし、アレだね。一日でオーダーメイドの服を十着以上作れるって早いよね? 前の世界でも一日でオーダーメイドの服が出来るなんてなかったよ。
しかもこれフルオーダーでしょ。
なんとなく一日で出来るって既製服のイメージが強くて「安物なんじゃない?」って思っちゃうんだけど、それはやっぱり元の世界の常識が邪魔してるんだろうね。
服屋の姉ちゃんの話は八割分からなかったけど、残り二割でとんでもない値段の服を作ってる事だけは分かった。
服を作るという技術において、こっちの世界にしかない技術で作ってるんだろうね。それがこの世界の常識なんだ。
むしろ金をかけている分、早く作れる技術を使用出来るという可能性もあるね。
出来上がった服を何着か着てみたんだけど、意外にも『お姫様が着るドレス!』みたいなのは少なかった。
ワンピースの他にもカジュアルな服装が多くて、ズボンなんかもある。帽子を被って上着を羽織り、ズボンを履いたら海外のオシャレなファッション雑誌みたいな服装になった。
「へぇ〜、こんなのが流行ってんだ……」
元の世界のセンスでもオシャレと感じるんだから、感性は近いのかもしれない。まぁ、私にオシャレの感性があるかは別としてね。
「流行には旬がありますけど、お嬢様の作られた服はどれも、見る人が見ればいつ何時でも羨望の眼差しを向けられる逸品ですね」
そう言われると悪い気がしないね。
流石服屋の姉ちゃんやってるだけあって客を気持ち良くさせるのが上手だ。
そこからしばらくはファッション雑誌を見ながら過ごした。正直、あんまりファッション雑誌を見る趣味はないんだけど、牢屋にある読めない文字だけの本よりマシかなって。
「……帰るぞ」
そんな感じで過ごしていたらいつの間にか夕方になっていたようで豚貴族がやって来た。用事は済んだ様だね。
豚貴族は私を上から下まで見ると鼻で笑った。
てめぇ鏡見た事あるか?
「ご利用いただき誠にありがとう御座いました。本日作成いただいたお召し物はお届けしますか?」
「いや、トランクに積んでおけ」
「かしこまりました。マニュアルも用意させていただきましたのでご覧になってください」
「うむ」
洋服にマニュアルとかいるの? 変形でもすんのか?
エレベーターに乗り込むと服屋の姉ちゃんが頭を下げてきた。
「それでは再度になりますが、本日はお嬢様……いえ、奥様のお召し物の作成に当店を選んで頂き誠にありがとうごさいました」
「………………は?」
「……」
エレベーターの扉は閉まるが服屋の姉ちゃんは私達の視線が無くなるまで頭を下げていた。
「…………」
「…………」
無言のエレベーターは下がり続ける。
「…………キサマ……何をした」
「セットしてもらった髪型が崩れるんで握り潰そうとするの止めて貰えません?」
あだだだだ、頭が割れる。豚貴族の評判をぶっ殺す、ちょっとしたお茶目だろ。
「と、所で服のマニュアルって何すか?」
「チッ……これだから平民は……。今日買った服は適切な保存をしなければならん類の服という事だ。メイドが適当にやっとくから問題ないわい」
慌てて誤魔化したのには気づいているはずだが、突っ込んでこなかったな。
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帰りの車内では豚貴族は目頭を揉みながら考え事をしているようだった。
「どしたん? マズイ情報でもあったんすか?」
「…………暗殺に失敗したことで上の奴が依頼を引き継いだらしい。『プレジール ヴィイ』というイカれた男だ」
「ほ〜、それは大変ッスね。上の奴ってことは暗殺が前の奴らより上手なんでしょうし」
「いや……暗殺が上手という訳ではないらしいぞ」
「あん? 同じ所から雇われてるんすよね。上の人なら暗殺が上手じゃないとおかしくないっすか?」
「違う、やるのは暗殺ではなく殺人だそうだ。ヴィイは殺人鬼と呼ばれている」
暗殺も殺人も一緒だろ。何言ってんだコイツ。
「それってどう違うんすか?」
「暗殺者は仕事として暗殺をしている。しかし、プレジールヴィイは快楽で殺人を行っているのだ。性格は残忍、そして奔放。気に食わなければ依頼主どころか同僚すら殺すイカれた経歴をもつらしい」
まさかの暗殺エンジョイ勢。
「そんなのが暗殺業者に雇用されてんの? ……クビにしろよ」
「それを差し引いても化け物のような強さを持つそうだ。暗殺者と呼ばれないのはコソコソと搦手を使わずとも真正面から殺しを行える実力からだろう」
おいおい、化け物みたいに強いくせに快楽殺人鬼って手に負えねぇぞ……。
「年貢の納め時ッスね。ドンマイ!」
「いま襲われるならキサマを囮に出来るのだが……」
だから私を巻き込むのを止めろ!
今日はジェットブーツの能力が使えねえーんだよ。妖球作ってたから能力のセットしてないんだよね。頼むから今は襲われるなよ!
とかフラグを立ててみた物の襲われずに牢屋に戻ることが出来た。
しばらくはジェットブーツの能力外すの止めとこ……。




