サイコパス鬼畜執事
「おい! 出てこい!」
スキマの空間内で妖球を生成してたら、外から声を掛けられた。何だこんな時間に、まだ尋問の時間じゃないよね?
「よっと……」
スキマの空間から飛び出すと、そこは牢屋に備え付けられている洋服箪笥の中だ。私は洋服箪笥を内側から押してでてくる。
まぁ、スキマの能力を隠す為だけの行動だ。
これなら私は箪笥で隠れんぼをしてただけだと思ってもらえるでしょ。
箪笥から顔を出してキョロキョロと辺りを窺うと、豚貴族が鉄格子の向こう側で腕を組んでいた。
「クローゼットの中に隠れておったか……相変わらず意味のわからん小娘だ」
おっと、反射的に声を出そうとしたけど豚貴族の横に軍人執事がいるのを確認して、慌てて口をつぐむ。
危ない危ない。豚貴族にはバレているが、他の人間に会話が出来ることを知られたくないからね。
私は「?」と首を掲げて反応してやる。
なんだよ? 何か用でもあるのか?
「ふん、喜ぶがいい」
そう言って豚貴族は嫌らしそうな笑みを浮かべる。
お、なんだよ? 私にエロい事でもしようってか?
まぁ、違うだろうね。この豚貴族はたぶん子供嫌いだ。それに、わざわざ子供にエロいことしなくても金持ちならいい女に困る事はないだろう。
だからコレは企みの笑みだ。
「キサマに服を作ってやろうじゃないか。光栄に思うんだな」
はあ? 何言ってんだこの豚。湧いてんのか?
そんなことして豚貴族になんの得があるっていうんだよ。
いや、あるんだろうね。こう言ってるからにはさ。
百パーセント善意じゃないのは確かなんだし。
「出てこい」
そう言われて牢屋の鉄格子を開けられる。ついてこいって事だよね。
「縛りますか?」
「いらん、どうせ無駄だ」
軍人執事が手錠を用意しようとするが、豚貴族が止める。あぁそうか。牢屋から抜け出す奴に手錠なんて無意味だと思ってるんだね。
実際効果抜群なんだけど、勝手に勘違いしてくれるならいいや。歩き辛いし。
「……念の為、拘束した方がよいかと思われますが」
「別にいいと言っておるだろ」
「……せめて手足の一本か二本でも折っておいた方が良いかと」
良い訳ねぇだろ馬鹿野郎! 何言ってんだこのサイコパス執事! 普通にこえーよ!
「べ、別にそこまでしなくていいんじゃないか? ほ、ほれ、保護した子供の手足が歪に曲がっていたら外聞が悪いだろ」
豚貴族もドン引きじゃねぇか!
前々から思ってたけど、本当にヤバいのは軍人執事なのでは……。
「上手く隠して、あとで直せば問題ないでしょう」
オモチャかな!? 問題大有りだわ。
「大丈夫だから! 今までも逃げ出す素振りなんてなかっただろ! お主はワシを拷問好きと勘違いしとらんか?」
「違うのですか?」
「……ショッキングなシーンを好んで見る趣味はないわ」
「…………仕方ありませんな」
残念そうにするんじゃねぇよ。
クソッ! この軍人執事め。私が豚貴族に危害を加える心配をしてやがるな……。
……変な性癖拗らせてるとかじゃないよね?
しかし、服か……いったい何を考えているのやら。
ちなみに私の着ている服はこの世界に転移してきた時に着ていたTシャツとズボンだ。
これは前の世界で私が着ていた物を子供サイズにしたものだね。自覚はないけど私が超越者の力で作った物だと思う。
別にずっと同じのを着ている訳じゃないよ。一日に一回、洗濯物を籠に入れて引き出しに入れておくと、洗って返してくれるんだ。食事を提供される引き出しと一緒だね。
あとは用意された子供服とか着てるよ。
牢屋を出て豚貴族と軍人執事の後を追っていくと、なんか執務室みたいな所に連れて行かれた。
まぁ特に何かをする訳でもなく。カルガモのようについて行くだけなのだが。
なんか事務員がたくさんいて、チラチラと見られる。なんだよ? そんなに子供が珍しいか?
その後は玄関ホールに向かう。玄関の前まで来ると、高級そうな車がまわされた。
ほーん、やっぱり車が存在していたか。飛行船があるくらいだから車があってもおかしくないか。逆になかったら違和感があるよ。
軍人執事がドアを開けると、豚貴族は当たり前の様に乗り込む。中は広く、テーブルが用意されている。ほとんど部屋だね。
「この少女はトランクにでも詰め込みますか?」
今度からお前のことサイコパス鬼畜執事って呼ぼうか?
「……いいから座席に乗らせろ」
豚貴族は目頭を揉みながら、鬱陶しそうに言う。
「なるほど分かりました」
「ちょっと待てセドリック! そのナイフを仕舞え! お前はなにが分かったと言うのだ!」
よし、私は何があってもサイコパス鬼畜執事に近寄ることはないと誓います。
「…………」
軍人執事が冷静そうな落ち着いた目で私を見てくるが、私は「?」という顔をして返す。冷や汗がとまんねぇよ……。
一見まともそうな奴が一番イカれてるじゃねぇか。
こいつ何の感情もなく人を殺しそう。
「……出発します」
そう言って軍人執事は運転席に向かった。
私は慌てて車に乗り込み、豚貴族の向かい側の席に飛び乗る。どうやら運転席とは隔離されていて軍人執事の姿は見えない。
「何なんスか! あの軍人執事! 危険人物過ぎません?」
「はぁ……アイツはなぁ、お前の言う通り軍人の出なんだが、見ての通り戦場と日常の区別が付いてないような奴だ。小娘が少しでも危険な存在だと判断したら、ワシが止めても殺すだろうよ」
「私は絶対に軍人執事の前で喋らないっスからね」
「ふん、それがいいだろうな。キサマが捕まったばかりの頃、牢屋でさんざん脅し文句を聞かされてもキサマが無反応だったからセドリックも暗殺者の線から外したようだしな」
「あの穏やかな瞳でそんな鬼畜な事考えてたのかよ。言葉分かんなくて正解だったわ」
「実際、小娘が捕まった時は散々殺しましょうと提案されてウンザリしたわ」
豚貴族は頭が痛そうにしている。
あ、これ軍人執事が過去にやらかした事思い出してるな。
言葉が分かって初めて分かるヤバさってあるよね。
「私の服を作るって言ってましたけど、そろそろ何を考えてるか教えてもらえません? この車で何処に向かってるんスか?」
「ふん、いいだろう。まずこの車が向かっている所だが、服を作るなら決まっているだろう」
豚貴族はそう言ってマジックミラー越しに外を指差す。
「街だ」




