クッションは豚貴族
どーも、わたくし本日からこちらの異世界にお世話になります。あ、元の世界では女子大生などをやっておりまして、友人からはよく「アンタ小悪党っぽいよね」と言われていましたが、たぶん男を惑わす小悪魔の親戚だと思われます。
それでですね。
「ぎぃぃぃいいいやあああああぁぁぁ!!」
ものすごい上空から落下してるの、なんとかなりませんかね!?
「ふざけんなよ!! イカれヤンキー!!」
あの神様モドキやりやがった! 上空に転移させやがったな!
パラシュート無しの自由落下。耳から聞こえるのはドドドドという風の音で、自分の口から出てくる悲鳴さえ遠くに聞こえる。
視界に広がるのは自然豊かなどこまでも広がる雄大な大地。まるで太古の大自然を思い起こさせるが、色合いや匂いなどが力強く大迫力の異世界を感じさせる。ほとばしるほどの生命力に押しつぶされそうだ。
「まぁ今は風圧に潰されそうっスけどねえええ!」
落下さえしてなかったら景色に感動できたかもしれないのに。このままじゃ死ぬぅ。いや、死なんらしいけど! 少なくとも地面に叩きつけられたら死ぬほど痛いだろう。
「!?」
いきなり視界が真っ白に染まった。いや、これは布?
ボフゥ〜っと体が布に押し付けられている。そして、反発力を感じたと思ったら、ボヨ〜ンと体が飛び跳ねた。跳ねた視界が捉えたのは、
「これって……飛行船?」
たぶん恐らく飛行船だ。自信がないのは見慣れない形をしていたからだ。それは土星のように輪っかのついた巨大飛行船だった。ドーム型の球場にもみえる。飛んでるけど。
落下を止めたドームの風船部分を私はテーンテーンと何度かバウンドする。
「ヤバっ!」
まぁ、床は丸みを帯びてるわけでして。弾む私の体はじょじょに角度の急な部分に運ばれていく。
「うぉぉおおおお! こんちくしょうがぁ!」
女子にあるまじき声をあげて私は気球部分にしがみつく。しかし、腕からは力が抜けていきズルズルと滑り始めた。あれ? 私ってこんなに握力弱かったけ?
滑り台のようにシュルシュル滑り落ちる先には土星の輪っか部分、遠目にアリのようなものが輪っかを上を歩いているように見える。もしかして人間?
どんどん輪っかに近づくにつれその巨大さがわかる。そして、
「おわぁあ!」
「げぶぅ!!」
私は人間というクッションの上に無事着地できたのでした。
さて、私を全身で受け止めてくれた王子様は……うん、控えめに言って豚ですな。横に醜く肥え太った男は赤い軍服のような服を着ていて胸にはジャラジャラと飾りをつけている。厨二病といった意味でカッコいい服だとは思うが、はち切れんばかりのその体型では滑稽なだけだ。
「ーーーー! ーーーー!! ーーーーー!」
頭を押さえながらフラフラと立ち上がった豚おじさんは、私を指さして訳のわからん言語で鳴き出した。
「す、すみません。これは事故なんですよぉ〜」
なんか怒ってるみたいなんで取り敢えず謝ってみたが、太ったオッサンは顔を真っ赤にしてヒートアップ。というかコレ、言葉通じてないよね。
「ま、まぁまぁ。怒るのはごもっと……も?」
なだめるために両手を出したところで違和感に気づいた。私の手が……小ちゃい。
「ーーー! ー! ーー!!」
「……」
「ー! ーーー! ーー!!」
「…………」
「ーーー! ーーーー!」
「ほわあぁぁあい!!」
「!?」
私の絶叫にオッサンがビクッとした。
なんでなんでなんでーー! なんで私の手が小さい? いやいや現状を逃避するな! 小さいのは手だけじゃなく全身だ! 私子供になってない?
いったいどうして……。
『仕事を探して安定の生活ねぇ。簡単にいくと思うなよ。コレは俺からの細やかな嫌がらせだ』
ヤンキー神の最後の言葉がリフレインする。あれだわ……。まともな仕事に就けないよう子供の姿にしやがったんだ。
ちくしょう! 効果的だよ! この世界がどんな制度か知らんけど、子供というだけで職業の選択が狭まるのは間違いない。しかも私はたぶん成長もしない。
クソが! やられたわ!
腹立たしいがいったんソレは置いておこう。なにやら豚オッサンの周りが不穏だ。オッサンの声に呼ばれてか他の人間が集まってきて、私を囲んでいる。
呼ばれてきた人たちはみんな同じようなキッチリした服を着てる……もしかして警察官の制服や軍服的な物なのでは? となると、この絶対悪いことしてそうな顔のオッサンは立場が上の人間で、貴族とか……。ヤバくね? 貴族にヒップドロップかました私は打首とかの可能性も……。
いやいや! 落ち着け私ぃ! まだこの豚オッサンが貴族と決まったわけじゃない。それにすっごい怒ってそうだけど私の勘違いかもしれないだろ。
「ーーー! ーー。ーー!」
アフレコしてみるか。
「お〜、なんと可愛らしい少女だブヒ!」
そう、こんな感じ。私に向かって叫んでる豚貴族はこんな事を言っているに違いない。
「ーーーー。ーー!」
今度は私を取り囲んでいる兵士?に向かって指示をだす豚貴族。
「皆もそう思うじゃろ?」
うんうん。いい感じ。絶対こんな事言ってるって。私の包囲が狭まってる気もするけど、大体こんなかんじだって。
「ー。ーーー。ーーー!」
胸元から何かを取り出そうとする豚貴族。
「お、お〜。可憐な少女には褒美を取らせよう!」
胸元から取り出したのは、装飾の綺麗な剥き出しのナイフだ。それを指揮棒のように私に向ける。
「ーーー!」
「殺せー!」
ダメだ! いくら私の妄想でも限界あるわ! 絶対言ってるもん。目が血走ってるもん。
はい、大の大人に囲まれた少女は抵抗も虚しくアッサリと取り押さえられました。そして、飛行船の中にある牢屋に入れられたっぽいです。
ヤッター。お家を手に入れたぞー。