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デリケートってツラかよ



 どーも、私です。

 最近はジェットブーツの扱いに慣れて来ました。部屋の中でトリックを決める練習をした甲斐があったね。

 まぁタダのヒマ潰しなんだけど……。

 相変わらず牢屋の中はヒマ過ぎていけないわ。


「お、こっちは今日は無理か?」


 扉の前で椅子に座っている兵士二人がいる。ここは豚貴族の寝室だね。

 暗殺者騒ぎで豚貴族には護衛がつく様になったから、部屋に忍び込むどころか前を素通りする事も出来なくなったんだよね。


 流石に部屋の中で護衛する訳じゃないようだね。夜勤ご苦労様です。まぁこれなら暗殺者が忍び込んでもそうそう暗殺はされないだろう。


「仕方ない、別の道を探そう」


 通れなくても回り道をすれば問題ないし、今日は別の場所に行こう。


 

「あ、お疲れ様です。お館様」

「うむ……」


 とか言ってたら部屋から豚貴族が出てきた。お、どうした? 風呂やトイレは部屋にあるだろ?


「如何なされましたか?」

「うむ、少し出てくる」

「それでは、お供させて頂きます」


 豚貴族はうんざりした様な顔をしている。


「別に要らんわ。ちょっと夜風に当たってくるだけだ」

「いえ、そういう訳にも……」

 

「要らんと言うておるだろ!」

「襲撃者の事も有りますし、護衛は付けて頂かないと」

 

「くどいぞ! 毎日毎日、四六時中張り付きおって。何も心配いらん! これは命令だ!」

「…………」


 おーおー、相変わらずお馬鹿さんですなぁ。殺されかけた癖に一人で出歩くなんて学習能力がないのか? このデブは。


「はぁ……少し散歩してくるだけだ。警報装置も持ち歩いておる。十分して戻って来なかったら探しにこい」

「……………………畏まりました」


「暗殺者も一度しくじったのだ。すぐ様攻めてくることもなかろうよ」


 ほーん、しぶしぶながらも了承すんのね。まぁアレよね、この世界的には上司に命令されたんだから仕方ないって所なのかな? はは、かわいそ。



「馬鹿な雇い主で災難だ」

「……」


「と思うんだけどお貴族様的にはどう思う?」

「……くそったれが」


 のっしのっしと歩く豚貴族の後ろからジェットブーツで近づいて声を掛けてやると、豚貴族は目頭を押さえながら首を振っていた。


「小娘が……いよいよ遠慮がなくなってきおったな……」

「ははは、気のせいでございますよぉ」


 情報収集ついでに会話をしようと思ってね。


「キサマ、本当に何者だ? 自由に牢屋を抜け出すとか普通じゃないぞ」


 豚貴族が不気味そうな顔をして聞いてくる。

 何者? う〜ん、何者かぁ。答えようがないなぁ。


 自分が何者かを判断するのは、この世界の常識を知らないと出来ない事だと思う。常識を知り、普通の人とはどんな存在なのかを考え、他者と比べる事で初めて自分が何者なのかを判断できるんだよ。それまでは自分が何者なのかは判断できない。


 生まれたての赤ん坊が、自分を赤ん坊だと判断できないようにね。


「う〜ん……」


 考えながら豚貴族の後を追っていると、いつの間にか庭に出ていた。豚貴族の持ち物としては似合わないメルヘンチックな庭園だ。


 垣根の通路を歩き、噴水の前を横切ってついたのは四阿あずまやだ。


 豚貴族が椅子に腰掛けたので向かいに座る。ちょっと会話相手になれや。


「今の所、密航者兼、囚人なんすかね?」

「おい、勝手にそこに座るな」


 硬い事いうなよ。しかし、本当に散歩に来ただけか。盗み食いならお供しようと思ってたのに。


「おい小娘。ワシはキサマに構ってる暇はない。さっさと牢屋に戻れ」

「まあまあ、いいじゃないっすか。そっちだって私を利用してるんでしょ? 私の会話に付き合ってくださいよぉ」


 頭痛を堪える様に頭を抱えている。


「いや、実はですねぇ。私の事なんすけど……」


 お、頭を抱えた指の隙間から視線を向けてきた。気になるのかな?


「ちょいとばかし常識が足りなくてですね。簡単な質問に答えて貰えませんかねぇ? そうしたら今日は退散するっスよ」

「…………」


 豚貴族は答えないが、視線だけで先を促してきた。よほど目の前から消えて欲しいらしい。


「え〜と……そうっすね」


 いざ聞くとなると思い浮かばないもんだね。いや、知らない事が多過ぎて何から聞けばいいのか分からないのか。


「あー私が牢屋から抜け出してるのは異様な事なんですかね?」

「閉じ込めておるからな!」


 血管切れそうだけど大丈夫?

 いや、牢屋から人知れず抜け出すのが常識の世界だってあるかもしれないだろ? 私の世界に対する理解度はそのレベルよ。


「じゃあ次の質問です」

「もう戻る……」


「あぁ待って待って、最後にするッスから」


 これ以上は無理かな?







 


「子供が親を殺そうとするのは当たり前?」



「ッ!!」



 私の言葉に豚貴族は目を白黒させ、驚愕の表情をみせた。


 あぁそうか……お前やっぱり……。


「どうやら……キサマが殺されたいらしいな!」


 どうやら私は豚貴族の地雷を踏み抜いたらしい。

 私の事が気に食わないか? そうだね、私もお前のことが気に食わないよ。

 

 目の前に巨大な手のひらが迫った。私はジェットブーツを逆回転させ椅子ごと後ろにさがる。

 私の頭を一握りに出来そうな手のひらは空を切った。


「あははは! デリケートな質問しちゃったかな?」

「キサマァ!」


 ジェットブーツで逃げる私の後を豚貴族が怒りを露わに追ってくる。

 屋敷に逃げ込み角を曲がる。


「逃すかぁ!」


 豚貴族は私の後を追って曲がり角を曲がったが、私はジェットブーツで階段の手摺りを駆け上がる。

 トリックをキメて空中で体を半回転させながら豚貴族の方をチラ見すると、


「おぐぅあ!!」


 予想外の動きをした私に気を取られ、豚貴族は階段にしこたま足をぶつけていた。

 それを見て私は思いっきり吹き出してしまう。


「きゃははははははははは! いぃひひひひひひひひ!」

「クソガキがあ!」


 やばい、ツボに入った! アレは痛いぞお……。


「アヒャヒャヒャ! あひひひひひひひひひ!」


 追いかけられてるにも関わらず一度ツボに入った笑いは止められない。

 ぶつけた足が痛いだろうに、豚貴族が懸命に追ってくるのが余計に笑いを誘う。

 ヤバい笑い過ぎで苦しくなってきた。


「キャハハはハハは!」


 そして、豚貴族が私を追って曲がり角を曲がった時、そこには私の姿はなかった。スキマに逃げ込んだからね。


「クソッ!」



 その日、領主館で勤務していた職員は、狂ったような子供の笑い声を聞いたらしい。


 

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