増える逃亡者と追跡者
「にゅおおおおおおお!」
ペタペタペタペタペタペタッ!!
やばいヤバいヤバイ!
どーも私です!
ただいま廊下を爆速中。コートの男から全力で逃げております。
なんで逃げるかって、そりゃ逃げるだろ!
ナイフ持ってんだからさぁ!
何なのアイツ、明らかにここの人間じゃないよね?
しかも私を見てナイフを出した。初めてじゃないか? 私をただ害する為に行動する人間は。
追ってきてるか? くそぅ……こっちの方はスキマを作っていない方だ。逃げ込めない。
振り向きたいけど、走ってる途中って振り返れないんだよ! その分遅れちゃう。
私の事なんて放っておけよ! お前の目的が何なのかは知らないけど私は害のない存在よ。
「ぬゅぅうううう!」
ペタペタペタペタペタペタッ!
いや、本当に追ってきてる? そもそも私を追う理由なんてないはず、ちょっと驚かしただけで追ってきていないんじゃないか?
振り返ってみる? チラッとだけ……
ペタペタペタペタペタペタッ!
……カツッ……
…………カツッ……
………………カツッ……
「ふぎゃああああああ!」
追ってきてるううう!!
振り返ってないけど足音が聞こえるううう!
なんで足音がゆっくりなのに近づいて来てるんですかねえ! 私の足が短いのか?
それともアイツの足が異様に長いの? 足長オジサンなの?
「少女にナイフをプレゼントってかあ!」
ふざけんなし! 私がテメーに何をした!
廊下をただひたすら走る。前に曲がり角が見えた。
どうする曲がる? それとも直進する?
「えーい直進だ!」
「うをっ!」
「ふぁ!」
曲がり角から豚貴族が飛び出してきた。
そして直進する私と、角を曲がった豚貴族。
豚貴族と私は並走する事になった。
「な、な、なんじゃあああ!」
ドッスン……ドッスン……ドッスン
「うぎゃあ! なんかエンカウントしたぁ!」
ペタペタペタペタペタペタッ!
この豚、忙しい時に! 廊下走ってんじゃねぇよ!
「き、キサマァ! 一体何でこんな所に! どうやって牢屋から逃げ出した! さてはキサマ、奴らの仲間だな!」
「何のことか知らないけど、さっきからずっと追ってきてるコートのオッサンを止めて貰えないっスかねー! アンタんとこの人でしょ! 」
「はぁ!? 何を言うておる! 追われているのはワシだろうが!」
「いや、さっきからずっと私が追いかけられてますけどぉ!?」
「……」
「……」
ちょっとだけね……。ちょっとだけ振り返ってみようね。オッサンもそのつもりらしいし……。
「「増えてるうううう!」」
はい、二人になってます。同じ格好したコートの男が二人並んで歩いてます。
双子コーデのオッサン達は、片手で帽子を押さえ片手をポケットに入れたスタイリッシュポーズも一緒だった。知ってるぞ! ポケットの方の手にはナイフ持ってるんだろ!
「増殖させてんじゃねーぞ! ブタァ!」
「う、うるさいぞクソガキが! キサマこそ追っ手を増やすんじゃないわ!」
「追っ手!? オッサンの部下じゃないの!?」
「どう見たって暗殺者だろうがぁ!」
「暗殺者の見た目なんて知るかああ!」
豚貴族の部下じゃないのには薄々気づいていた。けどやっぱり暗殺者かぁ……認めたくなかったなぁ。ナイフ持ってんだもんね。普通の職種な訳ないか。
「どうせ目的はアンタでしょ! 早く投降しなよ! 私まで巻き込むのは止めてくれ!」
「はん! 奴らが目撃者を見逃す訳なかろう! キサマが囮になれ! 平民の義務だろうが!」
「転ばねえかなああ!? この豚ぁ!」
「ッ……! ぬぅ!!」
豚貴族が急に飛び込み前転をかます。
よっしゃ転んだか?
回転する豚貴族の真上をヒュッと何かが通り過ぎて、前方の壁にナイフが刺さった。
すげぇな豚貴族。後ろから飛んでくるナイフを避けたのか。
そのまま豚貴族は体勢を立て直すと、近くにあった扉を開いた。
「ちょわ!」
私は豚貴族が閉める前に扉へ飛び込む。
ゴロゴロと転がり込んだ私と豚貴族は、まだ開いている扉を背中で閉める。
バタンッ! ガチャ……
すかさず豚貴族がカギを閉めた。
「「ハァ……ハァ……ハァ……ハァ……」」
息を整えていると
ドンッ!
という扉を叩く音と振動が背中に伝わる。
「「…………」」
顔を見合わせる豚貴族と私。
ドンッ!
ドンッ!
ドガッ!
振動で背中がビリビリと痺れる。そして……
バキィッ!
刃物が扉から生えた。場所は私の頭の真上、そして豚貴族の腹の横だ。
「「ヒィイイイイイ!!」」
上を見上げるとギラリと光る肉厚の刃物にゾッとする。
「チィッ!」
豚貴族は不細工な舌打ちをすると、部屋に置いてある大きなキャビネットを両手で掴む。
「ふんっ!」
豚貴族はガッシリした作りのキャビネットを持ち上げて頭上に掲げると、扉に向き直った。コイツすげぇパワーだな。
「うわ! 危な!」
乱暴に大きなキャビネットを扉の前に投げ下ろす。扉に背を預けていた私は横に跳んで回避した。
コイツ私が避けなかったら潰すつもりだったな。
「危ないでしょうが!」
「うるさい! 黙れ!」
豚貴族は次々と部屋に置いてある家具で塞いでいく。
最後にチェストで扉を補強すると、ドスンと胡座をかいて床に座り込んだ。
「ハァハァ……取り敢えずのバリケードだ。これでしばらくは持つだろ」
その言葉に私は大の字で寝転がった。
しんど……。




