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火の玉ロード


「くっ、キサマァ……一体どこでそれを手に入れた!」


 まるで証拠を突きつけられた犯人のようなセリフだが、ただのお菓子である。

 

 まぁ言いたいことは分かるよ。牢屋から一歩も出ていないはずの私が牢屋の外の物を持っているのだ。

 たかがお菓子とはいえ異様な光景だろう。


 豚貴族はチラリと冷蔵庫に視線をやる。そうそう、そこから貰ったんだよ。驚いたかい?


 その顔が見たかったんだよ。


 食べ終わった私は、再びズリズリとローテーブルを押していく。お片付けをしなくちゃね。


 豚貴族から見えない浴室まで運んでスキマの空間に収納する。戻ってくると豚貴族が冷蔵庫を調べていた。


 ふふふ、焦ってる焦ってる。

 

「遅くなりまし……待てなかったのですかな?」

「ち、違う!」


 軍人執事が帰ってきたが、冷蔵庫に顔を突っ込んでいる豚貴族を見て呆れた声を出した。


「あいつ、あのクソガキだ! 冷蔵庫のお菓子を食べていたのだ」


 軍人執事は私の顔を見る。少し目を細めてるが表情は相変わらずしかめっ面だ。

 そんな私は「?」と首を掲げてやる。なるべく無垢そうな顔をしてやったぜゲヘヘ。


「き、キサマァ!」


 豚貴族激おこである。

 おーおー顔を真っ赤にしちゃってぇ。ダルマみたいだぜえ?


「はぁ……私は少し節制をするべきだと進言したはずですが? 私の言葉は一考にも値しないと……そういう事ですかな?」

「セドリック! 聞け! 本当なんだ!」


 ひひひ、豚貴族の奴お菓子を隠れて食べたと思われてやがる。


「ほぉ……では何ですか? この少女が牢屋を出て冷蔵庫を漁ったと……はは、傑作ですな」


 全然面白く無さそうにいうじゃん。

 あと合ってるよ、その考察。傑作だろ?


 豚貴族は目頭を押さえて上を向いていた。


「まぁいいでしょう。午後に訓練を入れておきます。食べた分は消費してもらいますよ。……久々に閣下と訓練が出来て兵たちも光栄でしょう」


 軍人執事がストイック過ぎてカワイソ。


「分かった……訓練には参加しよう。だが! 仮にだ。何者かが冷蔵庫を開け、小娘にお菓子をやったとしたら。誰がやったとセドリックは考える?」

「閣下ですな」

「ふぁっ! 何故だ!」

「やったとしたら候補は閣下と私のどちらかです。そして私は違います」

「ワシだって違うわ! そ、そうだ! 給餌はどうだ。給餌が冷蔵庫から小娘に渡したんだ。牢屋に置いてあった冷蔵庫だ。給餌が小娘にやる食事と勘違いしたのかもしれん」


 必死だなぁ。そりゃそうか。豚貴族本当に食べてるとこ見たんだし、納得できんわなぁ。信じて貰えないけど。

 あと、給餌の兄ちゃんね。無理じゃない?


「無理ですな」


 そう言って軍人執事は指を差す。牢屋の中の壁を。


「配給の為の引き出しは、この尋問室と別窓です」


 その通り、尋問する部屋と配給する為の引き出しって別部屋なんだよね。なんでわざわざこんな構造にしたか分からんけど。


「あ……」

「そしてここに入る為のカギは私たちしか持っておりませんので。お忘れですか? ここの扉は私達以外開ける訳にはいかないのです」

「くっ……」


 なんだ? 部屋に秘密があるのか? なんでそんな所を私の牢屋にしとんねん。

 よく分からんけど私を巻き込むなよ。


「さて、行きましょう」


 地獄にか? と豚貴族が呟いたのが聞こえたが軍人執事は聞こえなかったフリをしている。

 扉が閉まるとき忌々しげに豚貴族貴族が睨みつけていたが、不思議そうな顔をしてやったら強めに閉められた。


「あはははは! 食べ物の恨みは恐ろしいんだよ!」


 いや、軍人執事に怒られたのは私のせいじゃないけどね。あえて言うなら自分のせいだよ。

 私がやったことって少し煽っただけだし。


 勝手に墓穴掘って勝手に転げ落ちただけだよ。ちょっと引いたよ。


 まぁいいや。溜飲は下がったけど、もう豚貴族には普通じゃない所見せちゃったからね。


 開き直って、もう少し大胆に動いてもいいかな?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 こんばんは、どーも私です。

 夜の散策中なんですけど変な所に出ました。


 うーん? 何だここ? 橋かな……なんで廊下の先に橋があんのよ?


 風の流れがあるから外だよな。

 あーそうか。ここ学校の渡り廊下みたいなもんだな。橋の向こうに別の洋館がうっすらと見える。


 この豚貴族の屋敷は非常に広い。私の牢屋がある屋敷だって相当な大きさなのに、別の洋館とも合体しまくってて、ほとんど遊園地だ。


 それで多分、この橋の下は崖になってるんじゃないかな。それで向こうに見える洋館とこの渡り廊下で繋がってると……そんか感じだろ。


 行ってみる? いや、私のいる屋敷すらまともに探索しきれてないのに離れた屋敷に向かってもなぁ……。帰るのも大変だし……。


 それにこの橋、暗いんだよな。あんまり使われない通路なんだろうね。灯りが消されてる。


 いや、少しだけ見に行ってみるか。暗いなら私が灯りをつければいい。

 アヤカシ球を試してみるいい機会だ。


 と言うことで取り出しましたのは、炎滅球が四個。


 手のひらにのせてから発動。


「炎滅球」


 パリンッ! パリンッ! パリンッ! パリンッ!


 弾けた四つの炎滅球はユラユラと手のひらの上で回転する。

 そしてその四つの炎は合体して一つの炎となった。



 ここでアヤカシ球による力の詳細といこう。

 例えば炎滅球を使用した場合、どうなるかと言うと。

 一定の力をもった炎弾が敵に向かって飛んでいく……という物ではない。


 生み出された炎には一定のエネルギーが備わっている。このエネルギーを消費して炎を操作するのだ。

 エネルギーは、炎を大きくしたり早く動かしたり複雑な動きをさせたり、形を変えたりなどほぼ全ての操作で消費してしまう。


 要は限りあるエネルギーを上手く調節しなさいということだ。

 例えば大きな炎の龍を作って敵を追いかけるみたいなことはエネルギーのバカ喰い。一瞬でエネルギーが枯渇して消えてしまうだろう。

 逆に形を作っていない唯の炎がその場合で燃え続けるなんてエネルギー消費は少ないから長持ちするよね。

 アヤカシ球の持っているエネルギーの総量は同じだからね。


「おしおし、それを踏まえてこの渡り廊下を明るくするならこんな感じかな?」


 炎の光量を押さえて暗めの炎に。エネルギーの節約だ。

 ボゥ……と暗い炎が燃える。

 その炎を渡り廊下に向かってゆっくり進める。早い動きはエネルギーの消費が大きいからね。


 少し進むと炎が左右に分かれた。左右の欄干に止まるように。ちょっと操作が複雑な分、消費が多め。


 そして、そこから炎がゆっくりと分かれていき。橋の等間隔に炎が灯るようにした。


 よしよし、いい感じ。


 難しい事言ったけど、結果としては単純だ。


 私の立っている前方の橋の、両方の手すりに手前から順に炎を灯しただけだ。


 ボゥ……ボゥ……ボゥ……ボゥ……と私の進む方向を順番に照らしてくれる炎は幻想的だ。


 ふむ、感覚的に十分くらいはエネルギーが持つか。その間は橋を照らし続けるだろう。


 そして最後に橋の向こう側の左右の欄干にボゥ……と炎が灯ると息を飲んだ。


 本当すまんかったわ……兵士っぽいのが頭を抱えて蹲っとる……。


 うん、そら怖いわ。演出多めの幽霊だもん。


 私は逃げ出した。


  

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― 新着の感想 ―
[良い点] 怪談少女だなー 凄く面白かった
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