異世界に行ってまでゲームか
「どのくらい掛かりますかね?」
「知るか! お前の感覚で数十万年ほどで扱えるようになればいいな!」
途方もねぇじゃん……。
「あの〜どんな世界なんですか?」
「あーそうだなぁ……。なるべく元の世界と感覚が近いほうが力の扱いも早くなるか。それでいて強度が高くて……よし、ここだな。喜べ。ある程度ファンタジーの世界だ」
「ファンタジーって概念あるんすね……」
「力を抑え込んだ時、お前の知識を読み取ったんだよ。じゃなきゃ会話すらできねぇだろうが」
超越者なのに農家とかの概念があるのはそういうことか。
「モンスターとか魔獣とか危険な」
「喜べ、モリモリいるぞ!」
いい笑顔だよ……。なるべく痛い目合わせてやるって気だな。仕方ないから協力してくれるみたいだけど害獣の私の事はしっかり嫌いらしい。
「怖いんですけど! あっでも超越者になったんなら私は神のような力を扱えるのでは!」
「お前の力は俺が封印してること忘れてないか? 快適に異世界を過ごしたいなら、早く力を扱えるようになるんだな。まぁ消滅する事はねぇけど」
ヤベェよ。化け物のうじゃうじゃいる世界で生身とか楽勝で死ねる。いや、消滅はせんらしいけど。それは死なないってことでいいの?
「な、なんか便利な能力とか貰えたりはしないっすかね?」
ヤンキーに向かって揉み手で擦り寄る。女なのに小物臭いと評判の私の必殺技だ。きっと異世界でも役に立つ事だろう。
「散々迷惑かけられたテメェの為になんでそんな事しなくちゃいけねぇんだよ……。盗人猛々しいとはこの事だな」
ダメみたいですね。まるで臭い物を嗅いだ時のような顔をしておられる。
「能力はな。自分で作りやがれ!」
「自分で?」
「何度も言ってんだろうが。力を扱えるようになれって」
その力は封印されてるのでは?
「扱えない力は俺が封印しているが、残りカスのテメェが使える部分の力はある。実質それがお前の扱える現在の力だ。お前はその力を上手く使いこなせるようにしろ。そして徐々にその扱える力が増えていけば封印も必要なくなるだろ」
「作るって言われましても……」
「最初の力の誘導だけは手伝ってやる。まずは自分の領域をつくれ。念じろ! お前は仮にも超越者だからできる」
よく分からないまま、自分の領域を作れと念じると、自分を中心にワンルーム程の空間が広がる感覚がした。
「よし、出来たな。それがお前の領域だ。次元内の空間とは違うお前だけの領域。この中でならお前はわりと万能だと思え」
「ば、万能っすか?」
「とはいえ概念世界のようなものだ。お前に分かりやすく言うとお前の夢の中だ。現実とは違う」
「あ〜それは万能でしょうね」
夢の中なら念じた事はなんでも出来るだろう。
「あとはこの中から外に干渉できる機構を考えろ。それが超越者として力を扱えるようになる第一歩だな」
「その機構っていうのはどうすればいいんですか?」
「自分で考えろ。つってもそんなに難しい事じゃねぇ。この中で自分が何をしたら外に力を持ち出せるか、理由を考えるんだな。今のお前が使える力はカスみたいなもんだからな。タダでは持ち出せねぇんだよ。難しく考えるな。なんでもいい。この中で腕立てを十回やったから現実にこれだけの力を持ち込めるみたいな」
「う、腕立て……。キツそうっすね」
私の細腕ではキツいのでは。
「バカ! 例を出しただけだ。取り敢えず納得しろ。さっきも言った通り最初の誘導だけはやってやるから、どんな能力がいいか自分で考えろ。大元は俺が誘導してやるが自分で大元を変えるのは今のお前には難しい。だから拡張性があり親和性の高そうな能力を考えろ」
「このヤンキー難しいこと言うっすね……」
「あぁ!?」
うーん。能力ねぇ……。ヤンキーに決めてもらった方が気も楽なんだけど。ヤンキーの表情を見るにそれもしてくれなさそう。
「化け物がいる世界なんすよね? 人間ってそもそもいるんですか?」
「いるな。敵対的で意思疎通の無いような生物しかいない世界だと、お前の力の扱いが遅くなりそうだ」
「じゃあ、他人を操る能力とかどうすか?」
結局身の安全をとるなら、こういった能力の方が強い気がする。
「お前ゴミクズみてぇな精神してんな……」
なんかヤンキーがドン引きしてるけどこっちも痛い目見たくないもんで……。
「現状お前の力はカスだからよぉ。他人に直接作用するような能力は無駄だな。そういった力は格下にしか効果が発揮しない。仮にも超越者と化したテメェを消滅させるのが面倒な理由でもある」
藪蛇だったわ。となると即死系はダメか。いや、そもそも戦うのが前提ってのが良くない。それに拡張性って考えるとイマイチ……となると。
「ゲーム……」
「あ?」
「ゲームの能力とかどうっすかね?」
私の言葉にヤンキーは顎に手を当て考え始めた。
「それは……例えばゲームのキャラクターの能力を宿すとかか?」
「そうそう」
「……悪くねぇかもな。ゲームのキャラクターといえばテメェの分身でもある。テメェの思い入れのあるキャラクターなら能力に変換しやすい。エネルギーの増大とともに扱えるキャラクターを増やせば拡張性もある」
「でしょ! でしょ! でも問題があるっす!」
「なんだ?」
「ゲームあんまりやったことないっす。なんならキャラクターの思い入れとかよくわかんないっす」
「喧嘩売ってんのかブスが!」
いや、違うのよ。最近大学の友達に借りたゲームやっててね。意外に面白かったから思いついたんだけど。
「だから自分の領域でゲームをするんすよ。そしてやったゲームにあった能力を現実に持ち出すと」
「引きこもりの鑑みてぇな能力だな。まぁ拡張性もありそうだしいいけどよ。よし! 思ったより力の誘導も簡単だったな。細かい能力の設定は随時自分で考えろ。あんまり顔も見たくねぇからさっさと送り込むぞ」
嫌われてらっしゃる……。
「今回は迷惑かけました。ありがとうございます。多分、なんだかんだ助けてもらったのは分かりますから」
そう言って私は苦笑いを浮かべた。多分そうなのだ。次元の壁を破る。そんな力を持ってしまった私は、私ではなくなっていた。意識が朦朧として次元の壁破っちゃったけど、それは私にとって良い事ではないのだ。もちろん元の私の世界にとっても。それをこの人は助けてくれた。それは事実。
「あー……まぁなんだ。上手くやれ」
「了解っす! とりあえず向こうで、仕事でも探して安定した生活を目指すっす!」
いいじゃない安定した生活! 何も無理に危険に突っ込むこともない。
「ところで、今回のことで俺は結構な迷惑を被った訳だが……」
「え、え? な、なんすか?」
おや、ヤンキーの様子が。満面の笑みを浮かべてこっちに歩いてくるヤンキーの目は笑ってなかった。ガンつけられるより怖いわ。
「仕事を探して安定の生活ねぇ。簡単にいくと思うなよ。コレは俺からの細やかな嫌がらせだ。気に食わなければ力を付けて自分でなんとかするんだなぁ!」
「ちょっ、何するつもりだ! 止めろヤンキー!」
「あばよぉ! 行ってこいやー!」
「うぎゃぁぁあああ!」
そうして私は多分、下に落ちていった。