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崩壊するバベルの塔


 両腕を上げてポーズをとった幼女達の背後から、突如カッと光が閃光のように照らす。

 まるで爆発でもするような光がビルの屋上を明るくした。


「ッ!」


 突然の灯りに町長はビクリと身を固くし、背後から照らされたことにより黒く染まる幼女達のシルエットにゴクリと唾を飲み込む……。


 耳にうるさい程のザザッ……というノイズが光から放たれる。


「あ……」


 混乱する町長は、朧げに光の正体を察する。


 これは……この光は……隣のビルに備え付けてある巨大な『モニター』。

 街ゆく人々に情報を伝える大型ビジョン……。


 やがてそのモニターはノイズの後に、映像を映し出す。


 それは……当たり前に、いつもこのモニターが映し出す人物。


「アーハー……冗談キツいって……」


 このクロックシティーの町長『ゼンシュリーク バベル』


 モニターに映し出される(自分)は、余裕の表情をしていた。


 いつも通りの町長(自分)

 モニターに映るのが当たり前の町長(自分)


 だからこそ、少しだけ気づくのが遅れた。

 モニターに映し出される町長(自分)の瞳は、泥のような狂気を帯びていた。


 やがてモニターの町長は口を開く。



 

 


【『僕がッ、僕こそが『亡霊デュラハン』だッ!! アーハーッハッハ!!』】


 町長による自白シーンが大々的に宣言された瞬間だ。


「やめて僕ぅーー!!!!」

「「アヒャヒャヒャヒャヒャ!!」」


「ちょ、謝るから今すぐ止めて!! 僕が悪かったから!!」

【『僕こそが『亡霊デュラハン』だッ!!』】


「ちょっと黙れ僕ッ!!」


 腹を抱えてケタケタ笑う二人の幼女達にそう懇願するがモニターは止まらない。

 そして町長は引き攣った笑みを浮かべて、媚びるように幼女達に問いかける。


「ね、ねぇキミたち……この映像ってどこまで放送してるのかなぁ?」

「んんんん〜〜? 安心して下さいよ町長様ぁ……『ココだけ』ですよぉ?」


 人差し指を口に当てる長髪の少女の言葉に、少しだけホッとする。


「そ、そぉか〜……ちょっと落ち着いてお話――」


 少女のシルエットが、三日月の口を作り上げる。


「そう、『ココだけ』……『後回し』にしといたッス」

「………………は?」


 気の抜けたような声が口から漏れた瞬間、周りのありとあらゆるモニターが起動を始める。


「あぁ……あぁあぁアァアァーー!!」

 

 隣のビル……その隣のビル。

 背後のビル。


 その異常事態に町長はオロオロと辺りを見渡すが、その情報の濁流はもう誰にも止められない。


「なんて事してくれたのぉおおーー!!」


 ありとあらゆるモニターから流れる映像は、自分の自白シーンだけではない。

 首を切った殺人鬼が振り返るシーンも延々とループして何度も流される。


「キャハハハッ!! 何処までぇ!? 決まってるでしょお!! アンタがペチャクチャお喋りしてくれてる間にクロックシティー全域に放映していたんだよねぇ〜!!」


 この日、このクロックシティー全域において……未曾有の大規模ハッキングが発生した……。


 市民は至る所に映し出される、この街のトップによる大演説、凶行、そして……凋落の瞬間を動きを止めて呆然と見ていた。


「なんて事してくれたのさッ!!」


 掴み取るような震える手を幼女(悪魔)達に向ける自分の姿を、彼女達はケタケタ笑いながら悍ましいシルエットを作り上げる。

 地面に映される自分に向かって伸びる二つの影が、追い詰めるような錯覚を起こす。


「――あ……」


 その背後には、片膝をついて口から血を流す顎髭の男……自分の姿を映し出すモニター。


「ちなみにコレ、現在進行形で放映されてますからねぇ〜……好きでしょ? ……生放送」


 小さな彼女達の前には、さらに小さな人影がコチラを見つめている。

 自身の凶行をずっと見ていた人形(目撃者)は、今なおこの光景を全市民に届けていた。

 


 彼女達が行ったのは、ただの嫌がらせではない……それは自分自身がよく分かっている。

 何故なら――

 


「町長様ァァアア? 随分と顔色が悪いようで……」


 

 街のありとあらゆるモニターが――

 


「アンタの力って本当に自前なのかなぁあ?」

 


 空に浮かぶ宣伝用の飛行船のモニターが――

 


「アンタが教えてくれたんだよ? 町長様の力のヒ ミ ツ……」

 

 

 果てはモニターなど無いはずの、ビルの窓ガラスが――


「……教会の秘術と一緒でしょ? んふふ、秘術ってんだから秘密だったんだよ。じゃあなんでアンタ……詳しく知ってんのかな? ……同じ事してるからだよ」

 


 全てを曝け出す――

 


「それは……『信仰心』」

 


 全市民に言い逃れの出来ない証拠を叩きつける――



「……つまりぃ」



 積み上げた物を信用を失墜させる――


 


   「『人気』だよねぇえ!!」


 


 (人気)が無くなった。



「アンタの異常なまでの力は人気をエネルギーにした物だ!!」



 あり得ない……こんな街全体を対象にした大規模ハッキング。しかし震えて力の入らない足が、事実だと突きつけてくる。


 生放送と簡単に言っているが、そんな事はないのだ。

 町長である自分ですら、事前の根回しと後始末が発生する。

 たかが子供の思いつき程度で実行できるはずがない。


 ましてや、この映像は窓ガラスや湖などモニター以外にも映し出されている完全な超常現象。


 縋るように少女たちに目を向けて、ある事に気づいた。


 赤く光る目を真っ直ぐに向けてくる白髪幼女……その体から漏れ出す黒い霧が、地面に向かって飲み込まれていく事に……。

 そして今なお浮かび上がる天然コア。


「天然コア? ……は、白髪ちゃん? もしかして――」


 白髪幼女が首を曲げて口を開く。


「……パーカー野郎はわたしに感謝すべき。残滓をつかい潰して導線にしてやった」


 ゴクリと唾を飲み込む。


「キミ……クロックシティー自体に繋い(ハッキング)でる?」

「……お前を利用した町長に復讐させてやった」


「ア、アハっ……」


 口から乾いた笑いが漏れでる。


「アハハハハッ!!」


 グイッと胸ぐらを掴まれて、顔を引き寄せられる。


「俺はよぉ……殺すのは好きだが……やってもねぇ殺しを被せられんのは嫌いなんだよ……」


 目の前には不機嫌に眉を顰めた、プレジールヴィイの顔があった。

 (人気)を全部剥がされた自分の実力は如何に。そんな物は死にかけの彼の一撃で動かなくなった足が教えてくれる。


 あ〜、全部終わったらしい……


「んーん、ゴメン……ね?」


 最後に見たのは、自分に向けて拳を振りかぶるプレジールヴィイの姿……。

 そして――


 その背後で笑う二人の幼女(悪魔)……


 分からない……

 どう見てもただの子供じゃないか……

 なんでただの子供に……ここまでの力をつけた自分が負けるのだろう……


 どれだけ力をつけても、しょせん……僕は……こんな子供に負ける存在なのか?


 ゾッと恐怖が湧き上がる。


 一人は目を赤く光らせ、白目を黒く染め。

 一人は瞳全体が黒い宝石のようになった長髪幼女。


「アーハー……」


 彼女達は……嗤っていた……



「………………こっわ」



 ビルの屋上で派手に吹っ飛んだハイテンション町長は、そのまま白目を剥いてピクリとも動かない。

 そんな姿を作り出したプレジールヴィイは、肩で息をしながら鼻で笑うと、ソッポを向きながら呟いた。



「…………だよな? 俺もそう思うぜ」



 ――――――――――――――――――――――



 変態殺人鬼にぶっ飛ばされたハイテンション町長は、地面に大の字で転がって動かなくなった。


 おぉ〜しオシオシ!

 良かったー! 予想当たってて!


 いや〜、町長の強さの源が、市民による信仰心エネルギーで良かったよ。

 幼女ちゃんが映像抜き出して、クロックシティー中にばら撒いた感じやね。まぁ人気バフ剥がしたと思って貰えれば。


 いや、人気をエネルギーにするって面白い体してんね! 主人公かよ!


 まぁ確証なかったから完全に賭けだったワケなんだけどね。そりゃあ人気に拘るわけだよ。


 んでさぁ……これからなんだけど……アレどうしようね。と言うのも思ったより変態殺人鬼が元気なんだもん。


 私達の計画では町長と変態殺人鬼の『共倒れ』を狙ってた感じなんだけどさ。


 辛そうにしてるけどまだ立ってんだよね、あのゴミ。


「……なんだよ」

「な、なんでしょ?」


 心なしか傷……治ってきてね?

 やべ、もうちょっとボコボコにされてから出てくるべきだったか?

 こう……首が三分の一くらい斬られたくらいでとか……。

 

 

 私の視線を受けて変態殺人鬼が、不満そうな顔してるけど襲ってこない。

 とか思ったら、私を見てビクッとする。

 う〜ん、お前まだ幼女恐怖症患ってたのね。


「チッ、何もしねぇよ……」

「おやまぁどして?」


「……嬢ちゃんが怖えからだよ。準備してからじゃねぇと火傷じゃすまなさそうだしな」

「ただの子供に準備とか大袈裟ッスねぇ」


「……ただの子供だから怖えんだよ」


 う〜ん、今すぐ襲ってはこないってことでオーケー?

 正直逃げるしか対策なかったからよかったよ。

 


 んでさぁ、もう一つ懸念事項あんだけど……聞く?


「……え〜っと、実はラスボスとかだったりする?」


 私の視線の先には、薄い笑顔を浮かべた金髪の少女……『町長の娘』。


 何となく思ってたけど、やっぱ普通じゃねぇよな〜このガキ……。


 目の前で自分の親父ボコボコにされて、余裕な顔してるってどう見てもおかしいわな。

『おやおや、思ったより役立たずね』とか言って本性現す化け物ムーブじゃん。


 町長の娘は私の言葉を聞いても、薄く笑ったままだ。

 う……大物感あってなんかヤベぇな。


 そんなビビってる私の横を、スタスタと幼女ちゃんが歩く。


「ちょ、幼女ちゃん。迂闊に近づかない方がいいって。その金髪ちゃんどっかおかしいから」

「……オバケ姉ちゃん。だいじょうぶだよ」


 けど幼女ちゃんは、そんな私の忠告なんて知らないとばかりに金髪ちゃんの前に立つ。


「……だってコレ」


 そう言って幼女ちゃんは、町長の娘の体をトンっと軽く押す。

 町長の娘は……そのままゆっくりと後ろに倒れる。

 

 その顔は、薄く笑ったままだった。




「…………人形だもん」


 

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― 新着の感想 ―
世界観的には、人気バフは場の感情エネルギー利用の一形態かな。 だとすると、祈りの巫女が主人公を敵対視するのも納得できる。
まさか、前に予想したロボが正解か!?
ヒュー、教会の秘術の仕組みを生放送で公開だ!
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