笑顔の宣戦布告
お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ。どーも私です。
豚貴族にアヤカシ球を持ってかれて、見返りのお菓子を渡さないとかいう事件ね。
「正直腹が立ったよ……」
お前らがそのつもりなら私も自重しないよ。多少大人しくしてたけど、やめだ。
いままで情報のない状態でリスクを避けてきたけど、なんとなく分かってきたこともある。
「アイツらに私をどうこうする気はない」
最初は何故か私を警戒していたようだけど、基本的に私に興味がないんだ。
だからこそかは知らないけど、私に危害を加える気すらない。もしかしたら、元の世界みたいに捕虜に拷問するのが禁止されているのかもしれないけど。多分だけどアイツらも私の扱いに困ってるんじゃないかな?
危険な存在ではないけど、野放しにしていい問題でもない。予想だがこんなところだろう。
捕まった身からすると有難いことなのだろうが、それとこれとは別だ。私は交渉のつもりでアヤカシ球を差し出した。言葉が通じないとはいえ、向こうだってそれは分かっていたはずだ。
それを反故にした。対価のお菓子を渡さずアヤカシ球だけ持って行ったんだ。
許せないよね?
どうせ危害は加える気がないんだ。ならば、本気で怒らせないレベルで煽ってやろうじゃないか。
あ、この本気で怒らせないレベルっての重要ね。調子に乗りすぎて暴力に訴えられる可能性もゼロじゃないから。
それにバレてないとはいえ色々と屋敷の物を拝借している負目もあるからね。
いざとなったらスリットの能力で逃げりゃいいのよ。
てことで、さっそく鉄格子の向かい側へ。確かこの辺だったよね?
お菓子を仕舞った冷蔵庫をゴソゴソ漁る。
「お、みっけみっけ。これは正当な報酬として頂いていくよ」
上品な箱に入ったお菓子をスキマの空間に仕舞う。完全にバレるだろうが関係ない。
次は昨日の探索で見つけた物置だ。少しホコリの被った小さいローテーブルをチョイス。座って使うような1人用テーブルだ。それをスキマに収納する。
「ちょうどいいサイズだね」
子供ボディにはこのくらいがいいのだ。それに大きいと運べないし、スキマにも入らない。
物置からの帰り、遠くの廊下からメイドに見られそうになったが、暗かったから大丈夫だろう。
しばらく立ち止まっていたけど大丈夫だ。
牢屋に帰ってベッドに飛び込む。今日の探索はお終いだ。
ふふふ、明日の尋問が楽しみだね。
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翌朝、カコンという音で目を覚ました。
『ん? んー。お〜、給餌の兄ちゃん。毎朝ご苦労さん』
朝飯の時間だ。アクビをしながらご飯を渡される引き出しに向かう。
「お、嬢ちゃん。今日はちゃんと起きてきたんだな」
『ほ〜、聞き取れる聞き取れる。感度良好だね』
「はは、何言ってるか分かんねえけどご機嫌だな」
『いや悪いっスね。いつもいつもメシを運んでもらって、大変じゃない?』
「……今日はいやに話しかけてくるな」
思ったら通り言葉の聞き取りが出来るようになってるな。話しが通じてなくてもこの兄ちゃんは独り言のように喋るから実験には持ってこいだ。
「しかし、嬢ちゃんは牢屋に入れられても悲壮感がないよな。捕まってる自覚がないんだろうけど」
『いやいや、自覚はちゃんとあるって。慣れたら牢屋生活も悪くないよ。メシは勝手に出てくるし。兄ちゃんも試してみたら?』
食べ物の乗っているオボンを受け取りながら、言葉を返す。会話とは言えないが、意味のある言語を久々に聞いて脳が活性化する気分だ。
「あ、悪い悪い忘れてた。今日はデザート付きだぞ」
給餌の兄ちゃんはそう言って再度引き出しをスライドさせると、こそには半分に切ったフルーツが置いてあった。
『きゃーフルーツだぁ。兄ちゃんありがとう』
「はは、喜んでるな。安さと質素で有名な社食でもそこまで嬉しそうにするなんてどんな生活してたんだ」
『いやいや、フルーツに貴賤はないよ』
私はフルーツをシャクシャク齧る。酸味の効いた甘味が体に嬉しい。
配給が終わると兄ちゃんは部屋から出ていった。食べ終わった食器は引き出しに入れて押し返しておけば、次の配給で回収してくれる。
しばらく牢屋でヒマをしていると尋問の時間だ。いや、正確にはもう私に聞くことがないようで尋問と言うより豚貴族のリラックスタイムだ。ホント何しに来てんのこの豚。
「ふんっ、馬鹿王子が! くだらん正義感に踊らされよって」
豚貴族が何ともらしい台詞で部屋に入ってくる。
「閣下……部屋に入ってからにするべきかと」
続けて入ってきた軍人執事が表情の変わらない顔で諌める。言葉が分かるようになっても渋い声ですな。正直かっこいいと思うよ。
「分かっとるわい」
ドスンと一人掛けのソファーに座る豚貴族は、私の方を一瞥もしない。これ尋問中に牢屋に私が居なくても気づかないんじゃね?
「先方はなんと言っておる?」
「簡単に言うと罪は罪なのだから……と」
「はっ、たかが平民の商家に嫌がらせをしたくらいで大袈裟なことだな」
「……」
吐き捨てるように出された言葉はまごうことなくゲスのソレだった。おぅ、絵に描いたような悪い貴族だな。
コイツよく私に危害を加えないな。思ったより嫌な奴だっんだけど……。
「それで、見つかったのか?」
「いえ、ある程度絞れてはいるのですが動きがないことにはどうしようもありませんな」
軍人執事は豚貴族の対面に腰を掛けるとテーブルに書類を並べた。
「ちっ! そうそう尻尾は出さんか」
「ええ、ですが間違いなく上の人間でしょう。不正の証拠を揃えられるのは限られていますから」
「やっかいな事だ」
ん〜、コイツら私に興味がないじゃなくて、構ってるヒマがないんだ。何か問題を抱えてやがるな。
なんとな〜くだが分かるぞ。内部告発を受けたんだ。
「しかし、あのバカ息子が……送り込んでくると思うか?」
「備えだけはしておきましょう」
豚貴族、息子がいるのか。しかも仲が悪そう。
話がひと段落したのか軍人執事がお茶の用意をし始めた。
「……?」
「どうした?」
「いえ……茶請けを切らしていたようです」
「はは、流石のキサマもメイドの真似事は専門外らしいな」
「恐縮です。取ってきますので、しばしお待ちください」
そういって軍人執事は部屋を出て行った。
それを見届けた豚貴族は目頭を揉む動作をしている。
私? 私はズリズリとローテーブルを運んでるよ。
「あ?」
豚貴族が疑問顔のまま私を凝視しているけど、無視だ。お前らが無視してるんだから、私が無視してもいいだろ?
「おい、小娘……キサマ何を……」
私は引きずってきたテーブルを鉄格子の前まで持ってくる。丁度、豚貴族が座っている場所から鉄格子を挟んだ場所だ。
ちょこんと座ると、私は取り出してやった。
昨日の夜に冷蔵庫から取り出したお菓子を……。
「はっ……ぁ? なん……え?」
むっしゃ……むっしゃ……むっしゃ……
見せつけるように、そしてゆっくりと食べる。
豚貴族の目の前でお茶会の開催です。
ほほぉ、なんとも。気泡が口の中で潰れる感覚が楽しい。言うならば弾力のあるチーズケーキ。
「キサマっ! 一体どこからそれを!」
ですよねぇ……囚人にそんなお菓子が配給されてる訳ないですもんねぇ。
どう見たって鉄格子の向こう側から持ってきた物ですもんねぇ!
ゴックン……。
驚く豚貴族に目を合わせてやると、
ニャァアア……
と素敵な笑顔をプレゼントしてやった。




