お前にだけは言われたくねぇ!!
はい! 今回も始まりました! 路地裏運動会のお時間です!
参加者はお馴染み……どーも私です!
そして気になる対抗馬を紹介して行きましょう!
「……もっとはやく走れ……負け犬」
「いでッ!! いででででッ!! なんか足がブチブチ言ってんだけど!!」
負け犬オン幼女選手ぅ〜!
幼女ちゃんにランドセルのように取り憑かれた負け犬が、体にダメージを負いながらの参加です! どうやら幼女ドーピングのせいで身体に負担が掛かっている様子!
若干足が変な角度になっているのはご愛嬌!
そして3人目の参加者は〜……。
「ごろす!! 貴様らは絶対に殺す!! 何も持ってねぇ負け犬野郎がぁああ!!」
槍を構えて一直線に追ってくるパーカー兄貴です!
いや〜キレてるキレてる。キレ過ぎててウケるわ。
糸による拘束を解いたパーカー兄貴は、気狂いのように叫びながら後方から凄まじい勢いでかっ飛んでくる。
んふふふ、いいねぇ……実にいい……。
私と幼女ちゃんでは、パーカー兄貴をココまで怒らせるのは不可能だった。
やっぱり負け犬だ。
負け犬だけがパーカー兄貴をここまで激情に駆り立てることができる。
「お前のっ!! お前のような負け犬野郎が!! 俺に歯向かってんじゃねぇぞカスがぁああっ!!」
もうさぁ……本心では気づいているんだろ?
お前は負け犬に舐められたことで思い至ったんだ。
自分は、負け犬如きが歯向かえる存在なのかもしれないと……。
この世界には、歯向かうという考えすら烏滸がましい『絶対的強者』がいる……。
この世界は前の世界と違うんだ。
凶器さえもてば弱者でも強者を殺せる世界ではない。
豚貴族……
変態殺人鬼……
ハイテンション町長……
キモノお嬢に祈りの巫女……
生物として明確な線引きのある化け物クラス。
一般人からすれば拳銃をもっていようが覆せない領域……それがある。
そしてそれは……一般人からすれば――
「……主役ヅラもそうなのかもね……」
負け犬やパーカー兄貴のパーティーリーダー……。
無害そうな顔で風見鶏をキメてたあの兄ちゃんも、一般人からしたらそんな領域なのかもしれない。
流石に化け物クラスに比べたら一線ある実力なんだろうけどね。
間違いなく一般人からしたら、『英雄』と持て囃されるだけの存在なんだろう……。
そして……パーカー兄貴は自分もそんな『英雄』クラスの存在なんだと信じて疑わなかった。
いや……そう信じて……いた。
だが、それは揺らいだ……。
たかが一般人にすら劣るような『負け犬』
なにも持っていない『負け犬』
情けなく弱く脆弱な『負け犬』
そんな負け犬野郎が歯向かってきた。
言われたんだ『お前はソッチ側の存在じゃない』『俺と同じコッチ側の存在だ』とね。
そりゃあ怒る……恐らくそれがパーカー兄貴を構成する一番の譲れない部分だったのだから。
実際のところパーカー兄貴は一般人よりかは強いんだろう。
あくまで一般人からすれば……それは分かる。
だからこそ、負け犬が自分に逆らうなんて思ってもみなかった……そう、私や幼女ちゃんですらね。
けど負け犬は逆らった。
勝算もないのにパーカー兄貴に喧嘩を売った。
その理由を聞いてみれば『悔しいから』だとさ。
私は逃げなかったことを『負け犬らしくない』と評したけど、負け犬は『悔しい』と思うことも自分らしさだとよ……笑えるよね?
だからこそ……『負け犬はなった』
パーカー兄貴にとって絶対に許してはいけない、存在を残してはおけない……絶対的な存在に。
あぁ……やっぱり……アンタと負け犬は違うよ……自分に嘘をついたお前と、弱い自分を認めたうえで『悔しいと思うことも自分』と言い切った負け犬。
自分を騙すようなヤツが、自分を特別な存在だと願うなど……烏滸がましい……。
「……負け犬……よこにとべ!」
「う、うぁあ!!」
うおっと!
幼女ちゃんの掛け声に、私と負け犬は左右に跳ぶ。
その間を、槍を突き出すパーカー兄貴が光を纏いながら通り過ぎだ。
「ッ……と、なにそれ必殺技?」
私は横に跳んだ先の壁に着地しながら通り過ぎだパーカー兄貴を観察する。
外したことに舌打ちをしながら振り返ったパーカー兄貴は、血走った目で私と負け犬オン幼女を睨みつけてくる。
幼女ちゃんに目配せすると、彼女はゆっくりと頷いた。
「んじゃ……さいなら!」
私は着地していた壁を駆け上がり屋根から見下ろす。
負け犬は幼女ちゃんに背中をゲシゲシ蹴られながら、反対側に走った。
「……チッ」
パーカー兄貴は、屋根伝いに逃げる私に苛立たしげな表情を向けた後……負け犬を追った。
んーふーふー、そうだろうねぇ……。
二手に別れたなら、お前が追うのは負け犬のほうだろうねぇ……だってお前はソイツが絶対に許せないのだから……。
私は負け犬を追って姿をけしたパーカー兄貴の背中を見ながら、ニィイイっと笑う。
おっと、雪が積もってるとジェットブーツが使いづらいから解除しておこう。
「さぁて……走るか……」
えっほ! えっほ!
――――――――――――――――――――――
「負け犬野郎がぁあ!!」
「ひぃいいいいいい!!」
後ろから迫ってくるパーカー兄貴の怒号に、負け犬は悲鳴をあげる。
凄まじい勢いで追ってくるパーカー兄貴に、負け犬は恐怖に泣きながらも走る。
獣のようなバネで地面を蹴るように走るパーカー兄貴に、すぐに追いつかれる未来が予想できた。
パーカー兄貴の走るスピードは凄まじいく、子供を背負った負け犬より速い。
しかし――
「待ちやがれぇえええ!!」
それでも、不思議と追いつかれずにいた。
それはひとえに……
「いぎぎぎ!! 足が!! 足が折れたーー!!」
「……うるさい走れ。とっくに足は折れてた」
「体が砕けるー!!」
「……くだけない」
背中に取り憑いた白髪幼女が、ズブズブと黒い靄を体に流し込んでいるからだ。
明らかに体に良くないものを流し込まれている負け犬は、体の激痛に苛まれながらも超人のようなスピードで走ることができた。
「ねぇお前オレになにしてんのっ!! スゲェ痛いんだけど!!」
悲痛な叫び声を上げながら、背中に居座る白髪幼女に問いかければ、彼女は感情の篭らない声で淡々と答える。
「……さっきも言った。オマエを手動でムリやり制御してる……はしれ」
「人のこと古くなった工業機械かなんかだと勘違いしてねぇかな!? ねぇこれ大丈夫なの!? 絶対によくないエネルギーだろっ!!」
飛ぶように景色を置き去りにする自分の走りに、負け犬は恐怖を覚える。
自分の足でこんなスピードを出せるハズがない……。
そもそも、自分に送り込まれている黒い靄は、見間違いでなければ過去に自分を乗っ取った悪霊の物だ。
しかし、白髪幼女の答えは意外なものだった。
「……もんだいない。まえにも言った……お前ら風にいうとこの『悪霊』とやらは……そんな力はない……」
「現に人間離れした動きしてんだろうが俺ぇ!」
「……だから……これ負け犬の本来の力……それをムリやり制御してるだけ……」
「俺にそんな力あるワケねぇだろ!!」
「……おまえじゃなくても、だいたいの人間は本来これくらいできる……んじゃない?」
「なんで自信ないの!? よく分かんない物、俺に使わないでくんないかな!?」
「……使わないでいいの? おまえ死ぬぞ」
「ひぃいいい!!」
真後ろに迫っていたパーカー兄貴が、白髪幼女ごと貫く勢いで槍を突く。
右手で建物の配管を掴んで、それを支点に角を曲がり槍を回避する。
「ちぃいいい!! 外したかぁあ!!」
転びそうになるのを雪の積もった地面に手をついて細い路地を走る。後ろからは通り過ぎたパーカー兄貴が引き返して追ってきた。
「ジャンジャン使えぇえ!! 逃げるぞーー!!」
「……あ、そこ右」
「ぎゃあああ!! ギリギリなのにコイツ指示までしてくるぅう!!」
荷物が積み重なってゴチャゴチャしている細道を、白髪幼女背負った負け犬は、右に避け……木箱を飛び越え……封鎖するように貼り付けられた木板をスライディングで潜り抜ける。
「……いて……背中ちょっと擦った……次の曲がり角をひだり……」
白髪幼女の指示に従い曲がり角を曲がると……そこは行き止まり。しかし幼女は壁を指差して非情な指示をしてきた。
「……とべ」
「無茶言うなーー!!」
そんな無茶苦茶な指示でも、負け犬は従わないといけない……なぜなら後ろからは目の血走った獣が追ってきているから。
そして――
「うぁああああ!!」
涙を流しながら負け犬は壁に向かってジャンプした。
「……負け犬」
背中に取り憑いた白髪幼女は、耳元で静かに呟く。
「……これはお前の力だ」
頬に夜の冷たい風が叩きつけられる。
眼下に広がる建物……普段では見ることのない、空から見下ろす屋根の並び……。
負け犬の心が震える。
彼は壁を飛び越え……
建物を飛び越え……
空に舞い上がった……。
――――――――――――――――――――
「…………許せねえ」
壁を飛び越え、建物の上まで飛び上がった負け犬の背中を見て、パーカー兄貴は奥歯をギリリと噛み締めた。
「あんな負け犬野郎が!! ッ!!」
彼は負け犬を追うために、負け犬と同じように壁に走り地面を蹴る。
壁を飛び越え……屋根に着地する。
「……クソが……クソが負け犬野郎ぉおおお!! 逃がさねえぞコラァ!」
屋根を転げながら走る、負け犬の背中に怒りの声を飛ばす。
そして……そっと今の事実に目を逸らした……。
負け犬は……自分より高く跳んだことを。
――――――――――――――――――――――
「はぁはぁ……捕まえたぞ負け犬野郎……手間かけさせやがって……」
「うぐ、ぅぁああ……」
薄汚れた路地。
そこで負け犬は、パーカー兄貴に首を掴まれて壁に押し付けられていた。
その足元には白髪の幼女が、雪の上にうつ伏せで倒れている。
「はっ……随分と遠くまで逃げてくれたじゃねぇか……でも追いかけっこは終わりだ」
負け犬を吊り上げている反対の手を持ち上げ、トドメを刺すためゴキリと鳴らす。
ゴリゴリ……ゴリゴリ……
ゴリゴリ……ゴリゴリ……
「………………ごーる」
雪に半分埋もれた白髪幼女が小さく呟いた。
「くたばれや、ゴミが……」
「た、助けッ!!」
ゴリゴリ……ゴリゴリ……
負け犬の顔面を潰そうと、怯え切った顔に手を向けた時、路地裏の角から聞こえる重々しい音に首を横に向ける。
ゴリゴリ……ゴリゴリ……
やがてソレは薄暗い路地裏いっぱいに現れた……。
負け犬とパーカー兄貴が目を見開く。
「ご…………ゴミが!!」
「は? は?」
それは大きな大きな……丸いゴミの球。
様々なゴミ袋やらなんやらを巻き込んだゴミボール。
「どーも……私でぇす」
「な、な、」
そのゴミ玉の上にサーカスの玉乗りのように立っているのは長髪の少女……。
「チャージ……ラン」
『ハムスターボール』
【吸着ボールを生み出す能力】
「シューート!!!!」
「「なんだそりゃーー!!!!」」
ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!!
通路いっぱいに肥大化したゴミ玉が転がってくる……。
そんな異様な光景にパーカー兄貴は、なりふり構わず反対の通路に逃げ出した。
そして負け犬も逃げ出した!
「「う、うおおお!!」」
「キヒヒヒヒ!! お兄さん方ぁ、ために貯めたゴミボールはいかがかな〜!?」
悪魔のピエロが笑いながら追ってくる。
そのゴミボールに最初に犠牲になったのは……。
「……むぎゅ」
地面で寝っ転がっていた白髪幼女だ。
幼女はゴミ玉に取り込まれた。
その光景をみた兄さんズは口を引き攣らせる。
「「う、うぉおおお!!」」
なんだアレは!? としか言いようがない。
巨大なゴミ玉が高速で転がってくる。しかもなんか子供が巻き込まれた!
「あ、た、助けっ!」
次に巻き込まれたのは負け犬だ。
ボロボロの体で足の縺れた負け犬は躓き、前を走るパーカー兄貴に手を伸ばしたところで……
「ヒィイィィィ…………」
ゴミ玉に巻き込まれた……。
その光景にパーカー兄貴はゴクリと唾を飲み込む。
前方は曲がり角……パーカー兄貴は角を横に跳んで迫り来るゴミ玉を回避する。
「はぁ! はぁ!」
ゴミ玉は壁にぶつかって停止する。
その上に乗っている長髪の少女は……パーカー兄貴を見下ろすと、ニィイイと笑って再度走り出した。
ゴリゴリ……ゴリゴリ……
ゆっくりとゴミ玉はパーカー兄貴へと動き出す。
しかし一度停止したことで立ち上がりは遅いようだ。
この隙とばかりに体制を立て直したパーカー兄貴は、口を片方だけ引き攣らせる。
ゴミ玉の上で走る幼女が……
「……増えた」
ゴミ玉の中からニュンと上に飛び出してきた白髪幼女が、長髪幼女と共にダッシュする。
ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ!!
そして二人になったことによりスピードアップするゴミ玉……。
彼は路地裏でゴミ玉に追い立てられる……。
そして、わずかに波音の聞こえる通路まで来た時、彼はゴミ玉に向き返った。
「チィイイ!! クソが!! だから何だってんだよ!」
そして迫ってきたゴミ玉を殴りつけた。
そう、勢いに驚かされてしまったが、たかがゴミの球だ。ゴミを殴りつけるという嫌悪感はあるものの攻撃力などあるはずもない。
「「わーー……」」
予想通りゴミ玉は砕け散り、上に乗った幼女たちも明後日の方へと飛んでいった。
「うぷっ!! ぺっ!」
対して勢いの乗ったゴミ玉を全身に浴びたパーカー兄貴は、拳を突き出したまま嫌悪感に顔を顰める。
「クソが!! ふざけやがッ……あ」
そして……破壊したゴミ玉の中から……。
「負け犬野郎!!」
拳を振りかぶった負け犬が産まれた……。
パーカー兄貴の振り抜いた拳と負け犬の拳が交差する。クロスカウンターのようになった負け犬の拳は、吸い込まれるようにパーカー兄貴の頬に向かう。
「だからよお……負け犬野郎が俺に逆らうんじゃねえよ……」
「……あ、あぁ!!」
しかし、その拳がパーカー兄貴に当たることはなかった。
突き出した拳とは逆の手に握られた槍が、負け犬の胴体を貫く。
背中から生えた槍にはベットリと負け犬の血液が付いていた。
負け犬の拳が力なく下される。
「無駄なんだよ!! 俺とお前じゃモノが違うんだ! 勘違いしてんじゃねぇぞザコが!!」
グリグリと槍に捻りを入れて、負け犬に苦痛を与える。その度に負け犬はビクビクと痙攣していた。
「………………」
「………………あ?」
そして、ガクリと力無く俯く負け犬の後頭部をみて、パーカー兄貴は首を捻る。
槍から腕に伝わる『チキチキ』という感触……。
負け犬の体内で何かが起きている?
「ッ!!」
「…………どいつもこいつも」
ガシリと負け犬の腕が上がり、自身の胸に刺さった槍をシッカリと握る……。
「え……あ“? あ?」
「……俺の腹に穴を開けてくれやがってよぉ」
負け犬の頭がゆっくりと持ち上がり――
パーカー兄貴を睨みつける。
クマの深い瞳が……
いつも弱々しく視線を逸らす……その瞳が。
真っ直ぐにパーカー兄貴に向けられていた。
「クッ!! ……ひっ!」
「……その……とおりだよ……俺は負け犬だ」
体から槍が抜けないように……シッカリと握りしめる。
シッカリと……目の前の敵を逃さないように……。
「……どうしようもない……事実なんだ」
そして負け犬は、ゆっくりと槍を握った逆の手を持ち上げて拳を作る。
「…………でも」
その拳に……パキパキと氷のような『結晶』が生み出される。
「……ま、まて」
「…………おまえに」
その時確かに……初めてパーカー兄貴は、負け犬に恐怖を感じた……。
「お前だけには!! 言われたくねぇんだよぉ!!」
結晶拳はパーカー兄貴の顔面にめり込み、弾けるように炸裂する。
顔面から地面に叩きつけられたパーカー兄貴は、勢いでバウンドして空中で二回ほど回転すると……顔から地面に落ちて無様に倒れた。
「ご、あ、ああ!!」
負け犬野郎から繰り出された、ありえない威力の拳にパーカー兄貴の視界が回る。
何が起きたのか分からない。
ありえない……自分が負け犬野郎にやられるなど。
しかし、現実は力の入らない体が教えてくる。
「げ、おぇ!!」
負け犬は雪に血を吐いた後、血の吹き出す胸を押さえながらフラフラと移動する。
そして、地面に落ちた槍を拾うとそれを支えにするように一歩一歩……パーカー兄貴に歩み寄る。
「ぐ……あ“ぁ“……てめぇ負け犬野郎……俺の槍返しやがれ……」
自分の相棒と呼べる槍を負け犬野郎に触れられ、体も動かないのに睨みつける。
そして……負け犬の表情を見て――
「……ひっ!!」
恐怖を覚えた。
「はぁはぁはぁはぁ……」
負け犬の情けない顔……弱々しく泣きそうな顔……。
怒りではない負け犬の顔……。
パーカー兄貴は負け犬の心情を悟り……恐怖した。
「はぁはぁはぁはぁ……」
槍を持ち上げ……倒れるパーカー兄貴の顔に向ける。
コイツ……俺を……殺そうとしている?
「ま、待てぇ!! 分かった!! 謝る!! 許してくれ!!」
「はぁはぁはぁはぁ……」
「悪かった!! もう、お前には手を出さない!! だから!!」
「はぁはぁはぁはぁ……」
情けなく命乞いをする。
普段だったら絶対に屈辱で死にたくなる行為だろう。
だが、覚悟に迷っているような負け犬の顔を見て恐怖が湧き上がる。
「許してくれぇ!! 頼むこの通りだ」
この通りと言っても、彼の体は動かない。
言葉だけでも慈悲を乞うしかないのだ。
そして――
槍は投げ捨てられ、負け犬はヨロヨロと立ち去っていった……。
「…………あ? 助かった?」
パーカー兄貴は、動かぬ体で安堵のため息を吐く……そして……。
「ゆるさねぇ……許さねえぞ負け犬野郎!! 絶対に!! 卑怯なマネしやがって!! 絶対に貴様を殺してやるからなぁ!!」
湧き上がる怒り。
負け犬なんぞに……。
結局トドメを指す根性すらねぇクセに俺をこんな目に合わせやがった!!
ゆるさねぇゆるさねぇゆるさねぇ!!
「絶対にテメーを!! 殺してやるからなぁ!!」
負け犬が去った後に行われる遠吠え……。
パーカー兄貴は、負け犬野郎に絶対の復讐を空に向けて放った……。
そして……
彼は忘れていた。
ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる
二人の……
悪魔の声が彼の耳に響いた……。