杜撰な推理ショー
どーも私です。
負け犬ニーサンを泥棒だと断言するパーカー兄貴に軽ぅ〜いチャチャ入れてみました。
そしたら地獄の業火が吹き出しそうな瞳で見つめられています。
そんな熱い目でみんなよぉ〜、照れるじゃないッスかぁ〜。
「ちょ、待ってくださいエルロイドさん! 俺は、俺は盗んでませんよ!」
負け犬が焦った声でパーカー兄貴に弁明しようとすると、パーカー兄貴は睨みつけていた私から視線を外して鼻で笑った。
あら……タゲ切れちゃった……。
「白々しいぜ……オリバーさんよ。俺は『見た』っつってんだろ。アンタが倉庫から盗むのを……」
まぁ結局私は関係ないからね。
パーカー兄貴の優先順位は腹立つ私への制裁じゃなくて、目障りな負け犬の排除だろうよ。
負け犬vsパーカー兄貴の戦いだ。
戦いならパーカー兄貴の圧勝だけど、言い合いならどうだ? いい戦い見れんじゃね?
これは面白くなってきたぜ!
「俺見たんだぜ? 夜中に倉庫の近くで大荷物運んでるアンタを」
はいパーカー兄貴の先制攻撃!
『夜中に見た』
「当たり前でしょう! メチャクチャだった在庫管理やったの俺ですよ!」
う、うん……。
お前夜中まで掛かって在庫管理やってたのね……。
上司なんていないから自分のペースでやりゃいいのに、夜中まで残業してたのかよ。
呆れた社畜根性だね。
いや、もともとこんな性格なのかも知れん。
「じゃあ俺が見たのは何だったんだよ?」
「在庫管理ですよ!」
「は、盗人猛々しな。俺は売り払うところも見たんだぜ?」
見過ぎだろ。家政婦かよ。
「そ、そんな事実ありませんよ! 証拠……証拠はあるんですか!」
否定する負け犬。……お前なんでそんなに怪しいの?
パーカー兄貴の言葉、よく聞いても『俺が見た』としか言ってないからね。
「見たからな……証拠は上がってんだぜ」
上がってねぇわ。
言いたかっただけだろ! パッションで押し切ろうとすんじゃねぇよ。
あの……もっと真面目にやろうよ。
もっと、もっと面白いロジカルな推理を期待してたのに……何か勢いだけで馬鹿な推理ショーになってる……。
いやまぁ、パーカー兄貴は探偵じゃないからね。しょうがないよね。
素人が探偵の真似事しても、こんなんなるよね。
「はん、ラチがあかねぇな。みんなはどう思う!?」
探偵パーカー兄貴は『仲間を呼んだ』
お、これは結構効果的なんじゃね?
主役ヅラは負け犬とパーカー兄貴の言い合い……というか一方的な糾弾をオロオロしながら見てたんだけど……。いきなり話題を振られてビックリした顔をした後、真剣な顔で考え始めた。
そして……
「エル、そもそも僕たちの代わりに倉庫管理したのはオリバーさんだよ。そんなオリバーさんが盗むかな?」
ふ〜ん、割と冷静な判断……頭から負け犬が犯人とは思ってなさそう。負け犬も希望を見出したような顔をしている。
「盗む為に倉庫管理したんだろ」
「う、う〜ん……」
あ、そこは否定できないのね。
「……私はコッチに着くわ」
と言ってパーティーメンバーの無愛想女がパーカー兄貴の横に立つ。
「エルは昔から私たちと行動を共にしてきたから信用あるけど……オリバーさんは最近入ってきたし……」
そういって無愛想女は負け犬を睨みつける。
なるほどなるほど……無愛想女は付き合いの長さを信用として用いたワケか。
それもアリだね。
それに無愛想女は最初から負け犬を警戒した顔してたしね。
こりゃ新人の負け犬には不利だね。
まあパーカー兄貴もソレが分かってるから周りに判断を求めたんだろうけど。
こういう感情の機微は得意そうだよね。
ふむ……状況的には主役ヅラは『中立』
というかあんまりパーティー内で諍いを起こしたくなくて中立を貫いている感じ?
んで無愛想女はまごう事なく『パーカー兄貴側』
コッチは付き合いの長さを信用に置き換えて判断している。別にパーカー兄貴と共謀しているとかではないだろうね。
パーカー兄貴は突発的に負け犬を追い出そうとしたんだろうし。
そして最後は……
「私はコッチかな?」
最後の一人……恐らく負け犬と同時期に入ったであろう背の低い小動物系女子の女は……。
「え、本気で言ってんのか?」
「うん、オリバーさんに付くよ」
負け犬側に着いた……。
ほ? 目立たない女かと思えば、ハッキリと自分の言葉を言うね小動物女。
「別にどっちが悪いとか分かんないけどね。付き合いが短い分、平等に判断しただけだよ。オリバーさんがやったって証拠ないじゃん」
おっとここで無愛想女にチクリ。
これは負け犬側というより、無愛想女の判断基準が気に食わなかった感じか?
というよりパーカー兄貴と無愛想女以外は中立寄りなんだろうね。
そして集合住宅の廊下で無言の膠着状態。
うん廊下だぜここ!
真剣な話してんのに誰か通るたびに道を開けるのちょっとシュールだよ。
それにしても証拠ねぇ……結局盗んだ証拠がないから言い合いになってんだろうよ。
ねぇ負け犬……本当にないの? 証拠……。
お前さぁ……
「アーハー! あるよ〜証拠!」
「……うわ出た」
「うわってやめてね白髪ちゃん!」
な に し に 帰って来やがった町長!
お前さっき帰っただろうがよ。
「ち、町長さん」
「んーん、話は聞いてるよ〜」
誰に!
「人の目のある往来で街の英雄であるリード君のパーティーが諍いを起こす……困るよね〜。だ か ら」
ハイテンション町長はビシッとポーズを決めて宣言する。
「この場で『簡易裁判』を行う! ん〜ショーターイム!」
あ、はい。裁判ですか。
「んーん、と言っても殆どやる事ないんだけどね〜。まず、ここをハッキリさせておこう! 容疑者は『エルロイド君』だね〜」
そういって指をビシッとパーカー兄貴に向けて宣言する。
「え、お、俺ぇ? ちょっと待ってくれよ町長さん」
「あ〜はいはい、弁明は後で聞くからね〜。今は僕の話を聞こうね〜」
手をヒラヒラさせてパーカー兄貴をあしらうと、ハイテンション町長は目も合わさずに胸元から資料を取り出して読み上げる。
こらアカン……役者が違うわ。
もう町長の中では犯人はパーカー兄貴で決まってんだね。
「まぁず……オリバー君が君たちパーティーの拾得物を売る時は、登録してある『スタッドレス』というパーティーとして売却しているね」
う〜ん、なるほど。
個人ではなく、パーティーとして売っている……と。
「ちゃんとした場所で売ってるから、記録にも残ってるよ」
「じゃ、じゃあ個人で売ってるんですよコイツは!」
「最後まで聞いてね〜。オリバー君はちゃんとした場所で売れない理由があるよね〜……だってオリバーって名前……偽名だもの!」
その言葉にパーティーメンバーの視線が負け犬に向く。疑惑の視線として……。
そらまぁ偽名使うなんて後ろめたいことあるんじゃねってことだろ。
「ほら、偽名使うなんて――」
「だぁ〜とぉ〜しぃ〜たぁ〜ら? 戸籍を使わずに証拠の残らない市場で売っている?」
それはあり得る……というか私たちと負け犬がダンジョンのお宝を売るのはソコだからだ。
負け犬は分けてるんだろう……パーティーとして得たお宝はちゃんとした場所でパーティーとして……そして私たちと得たお宝は戸籍の要らない市場で……と。
「ふんっふふ〜ん。いや〜、オリバー君。キミの売り方……参考にしたいくらいだよ。ちゃんと計算して高値で売れる所、パーティーとしての信用ポイントを稼ぐところ……よく考えてあるね〜。……ここクビになったらウチ来ない?」
「ッ! それだけ頭が回るなら証拠も残さず売り払うなんて――」
負け犬が町長にスカウトされたのが気に食わなかったのか、パーカー兄貴が食ってかかろうとした瞬間……。
「話は……最後まで聞こう……ね?」
町長はいつの間にか、パーカー兄貴の口を塞ぎながらニィと笑う。
その瞳は笑っているようで笑っていない……。
「そう! ここまで出来る彼が証拠なんて残すはずがないよね〜! オリバー君はそこら辺しっかりしてるんだよ!」
そして、塞いでいた手をパッと離すと大袈裟なポーズで宣言する。
「そして〜、んーん、しっかりしてない坊やは誰かな〜?」
へたり込んだパーカー兄貴に腰を曲げて目線を合わせると、別の資料を取り出した。
「駄目じゃなぁ〜い……公的な場所で盗んだ物売るなんて。エルロイド パペルの名前使ってキミ……売ったでしょ? ちゃんとした場所で売るとね。残るんだよ記録ぅ……オリバー君がね。それを知らないワケないんだよ」
その紙にはきっとパーカー兄貴が剣を売った証拠でも載ってるんだろうね。
顔を青くして俯くパーカー兄貴に町長は囁きかける。
「さぁ簡易裁判の大詰めだ……『汝……盗人なりや?』」
「ッ!」
パーカー兄貴は町長に証拠を突きつけられ、走ってその場を立ち去ってしまった。
もはや言い逃れ出来ないね。
ハイテンション町長に全部持って行かれた感あるけど……負け犬ニーサンとしては良かったんじゃね。
「ごめん、オリバーさん。僕たち……」
「……大丈夫です。気にしないで下さい」
その後、負け犬パーティーの主役ヅラと無愛想女は負け犬に謝っていた。
主役ヅラはともかく、無愛想女はしっかり謝ろうね?
「あ、あの町長さん。今回は俺の為に……ありがとうございます」
「アーハー! 気にしないでいいよ。あの子たちの保護者に恩を売っただけだし〜」
そして負け犬は自分の窮地を救ってくれた町長にお礼を言うが、私たちの保護者という言葉に引っ掛かりを覚えているようだ。
「ところでキミさ……本当は証拠……もってたんじゃない?」
「……」
「本当は気づいていたはずだ。エルロイド パペルがパーティー内の共有財産を売り払っていたのを。あんな杜撰なやり方でキミが気づかないはずがない」
「……」
ハイテンション町長は負け犬に向かって不思議そうに問いかける。
ふ〜ん、お前気づいてたんだ。それは確かに私も気になるね。なんでお前、自分が糾弾されながらも指摘しなかったの?
やがて負け犬は……静かに口を開いた。
「……他人の不正を暴いても……いい事ないですよ」
「そうか。そんな考えもあるかもね。やっぱりキミ……ウチに来ない?」
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「町長が来なかったら、とんでもない推理ショーになるところだったね!」
「……そうだね」
あの後結局、ダンジョンには行かないことになった。
まぁしょうがないよね。
負け犬は疑われて、冤罪を掛けられた。
そして犯人のパーカー兄貴は逃亡。パーティー内はガタガタだろう。
負け犬に対する謝罪もそうだけど、話し合いが必要だもんね。
そんなんで私達は大人しく帰ることとなった。
そして狭い路地裏を通りながら帰路に着く私達は先ほどの推理ショーを娯楽のように話し合っている。
まぁ私達には関係ないからね。
「……」
「ん〜どうした幼女ちゃん? なにか言いたいことでもあるッスか?」
雪の積もった路地裏をテクテク歩いてたら、後ろから幼女ちゃんの視線が飛んでくる。
こう言う時は聞きたいことがあるんだよね?
「……オバケ姉ちゃん……珍しいね」
「? なにが?」
「……ラインを見誤った」
「あ〜……そうね。ごめんごめん」
あちゃ〜、指摘されちゃったか〜。
「……オバケ姉ちゃんいつもいってるよね。煽るのはいいけど加減を間違えるなって」
「超えちゃってたかね〜」
そうね。超えてたよね。
私がパーカー兄貴にチャチャ入れたことだよ。
私は他人を煽って反応を見るのは好きだけど……結局は弱い子供だからね。
暴力に訴えられると無力なんだ。
だから相手が暴力に訴えられないギリギリを攻めたり、時と場合を選んでいるつもり。
でもあの場面で私が入れた『煽り』はラインを遥かに超えていた……。
つまり……
「ガッ!!」
「ぬべっ!!」
ドサリと雪の上に倒れ込む私と幼女ちゃん……。
頭からはドクドクと血液が流れ……白い雪を。赤く染める。
私達は……
路地裏の曲がり角で……
「よぉ、あの負け犬野郎が面倒見ているガキども……」
パーカー兄貴に槍で頭をぶん殴られた。