仕立て上げられた英雄
本日二話投稿 こっちは二話目
ふむ……有体に言えば『嫉妬』かな?
浅黒パーカー兄貴は負け犬を無表情で見ている。
巫女さんが現れた時の反応からしてパーカー兄貴は巫女さんのファンっぽいんだよね。
そしてその巫女さんはパーカー兄貴を無視して負け犬に話しかけた。
あーはいはい、そういうタイプね。
分かりやすくて好感持てるよキミ。
ま、私には関係ないけどね。
負け犬はこれからパワハラとか気をつけた方がいいんじゃない?
ズズン……
ダンジョン内の闘技場が揺れる。
「おわっ……地震か?」
ダンジョン内が大きく揺れるたび、パラパラと天井から砂が落ちてくる。
スキマの外の主役ヅラパーティーや巫女さんも、突然の状況に辺りをキョロキョロ見渡した。
そして闘技場の真ん中に建っていた大きな柱が、スゥ……と砂のように無くなる。
おい、これってもしかして……ボスが倒されたことによる……『よくある展開』じゃね?
グラグラと揺れる闘技場ないに天井から落ちて来たガレキが突き刺さる。
『な、何が起きているんだ』
『ま、まさか崩壊する!?』
そうだよね〜!
ボスが倒されたらダンジョン崩壊ってお決まりだもんね。
「ヤバいヤバい! 外に出たら巫女さんに見つかるし、出なくてもダンジョンの崩落でスキマが解除される!」
「……祈りの巫女が見てない隙に逃げる?」
それがいいか?
『ま、マズイ!』
主役ヅラが消え去った柱に手をつけると、そこには半透明の柱が現れる。
『一か八か結界で柱の代わりを作る!』
『リード! そんなの無茶だ!』
『でもこのままじゃ……』
しかし結界の柱は徐々にヒビが入る。
明らかにパワー不足だ。
『……チッ……面倒ね』
その祈りの巫女と言えば、苛立たしげに舌打ちをすると地面に杖をついて縄を出す。
そして結界をグルグル巻きにすると崩壊は緩やかになった。
――――――――――――――――――――――
「あ、ありがとう。えっと……」
リード ヴァーミリオンは少年のようなあどけない顔で安堵にため息を吐く。
自身の作った結界で柱を補強したが、それでも崩壊は治らなかった。それを縄で補強してくれたのが、突如現れて自分たちの苦戦した魔物を一瞬で全滅させた巫女だ。
「僕はリード ヴァーミリオン。助けてくれてありがとう」
巫女はリードの顔をチラリと見ると、フン……と興味もなさげに口を開く。
「それで? これからどうするのよ。この標縄は私から離れると維持出来ないわよ。アンタの結界とやらは?」
「僕の結界は一度作ってしまえば残るけど耐久性が……ね」
「どちらにせよ長くは持たないわよ。その間にアンタたちも抜け出すのね」
「うん、そうするよ。ありがとうね」
ニッコリと笑う主役ヅラに、巫女はやはり興味なさげに鼻を鳴らす。
「ショーターイム! そうも言ってられないんだよね〜これが!」
そして崩壊の治ったダンジョン闘技場に、ハイテンションな声がコダマする。
「町長……アンタなんでこんな所に……」
「アーハー! 二柱の神様に言われてね〜! ちょっとシャレにならない事態になってるんだよね〜。僕も忙しいのに!」
「亀とイタチが? 滅多に干渉しないのに……」
現れたハイテンション町長は、いつもと違って余裕がない。そのことに巫女は疑問の顔を浮かべた。
「す、すげぇ! 祈りの巫女だけじゃなくて町長まで……あの! 俺エルロイド パペルって言います! いつも映像を見ていて……」
「アーハー! ありがとう! でもゴメンね! ちょっと時間がない!」
鼻息荒く町長に話しかけたパーカー兄貴だが、町長はそれどころじゃないようでスタスタと横を通り過ぎ、祈りの巫女に話しかける。
「何が起きてるのよ。アンタまで出張って」
「んーん、この地震なんたけどね。このダンジョンだけじゃなくてクロックシティー全体が揺れてるんだよ!」
「は? なんでよ!」
「簡単に言っちゃうと『クロックシティー崩壊の危機』……かな? あの柱、なんとか維持出来ない?」
「無茶言わないでよ! 私にずっとここにいろっての!? それに長く持たないわよ」
「んーん、柱の補強には神様たちでも数年ほど掛かるって話なんだけど……」
「30分も持たないわよ」
「アーハー、でもキミならなんと出来るんじゃない? ……教会の秘術とかさ?」
「アンタ……何処まで知ってんのよ……チッ」
祈りの巫女はジロリと主役ヅラ……リードに視線をやると、少しの間思考をめぐらせ口を開いた。
「聞いたわね? よく聞きなさい。アンタは今からウチ……『教会』に所属することになるわ」
「え、どういう……」
「時間がないのよ! いいから早く了承しなさい」
そう言って祈りの巫女の掌から紋章が現れる。
「……入ればクロックシティーは助かるの?」
「アンタ次第よ」
「アーハー! オーちゃん準備はいい?」
「オーケーよお父様」
「アーハー! ショーターイム! クロックシティーのみんな! 生放送ごめんねー! 突然の地震で慌ててるかな?」
――――――――――――――――――――――
「ウィッス町長様。お疲れですねぇ」
「あぁ……やっぱりキミたちもいたんだ」
光の消えた闘技場。
そこに佇む町長に後ろから話しかける。
あぁ負け犬パーティーと巫女さんはもう地上に戻ったよ。
「あら、バレてました?」
「んっふっふ。まぁね。キミたちはあの、パーティーについて来てたのかな?」
町長が見上げる場所は、柱の代わりに半透明の柱が挿げ替えられており崩壊は完全に治っていた。
クロックシティーの崩壊という一大事。
その危機は脱したということだろう。
私達の関係ないところで……。
「んで? あの茶番ってなんだったんですか?」
「アーハー……キミって鋭いね」
そりゃそうでしょ。
たまたま主役ヅラが入ったダンジョンで崩壊が始まり、主役ヅラの活躍で救われる。
これが私の見た物語だ。……出来すぎてるよね?
あの後イキナリ生放送を始めた町長は、主役ヅラを指して『この街を救えるのは彼だけだ』と街の住人たちに投げかけた。
そして物語のクライマックスのように、全身から光り輝く主役ヅラが柱の代わりに結界を張り、街の崩壊は収まる。
見てないけど、街は大歓声で主役ヅラを讃えてるんだろうよ。
「いや〜、英雄英雄、カッコいいですねぇ……あの主役ヅラを主人公にした物語……このストーリーを描いたのは町長様でしょ?」
「ん〜……んっふっふ。確かに脚本は僕だね。でも街が崩壊仕掛けていたのは本当。そして彼を主役に仕立て上げた理由は『責任くらい自分で取れ』ってところかな?」
そう言った町長の顔は笑ってなかった……。
「何があったんです?」
「あ、興味ある? 僕も誰かに話したかったんだよ〜。祈りの巫女さんは利用しちゃって申し訳ないけどね。そもそも街が崩壊しかけたのって……彼のせいなんだよね〜」
「そりゃまた大悪党ですね」
町長の言うことが本当なら盛大なマッチポンプだ。
自分で崩壊させて自分で救う。
それで街の住民からは英雄のように見られると。はは、ウケる。
「彼……リード ヴァーミリオンに自覚はないよ。彼はこのクロックシティーにとって『特別』なんだ。この街を作った者の末裔……だから竜頭を破壊出来た」
竜頭? 時計の部品ってこと?
「それはね。モンスターの形をしていたんだ。彼はそれを破壊してしまった。彼だからできたんだ。本来なら辿り着くことすらできなかったはずなのにね」
よく分からんけど、主役ヅラが悪いってことね。
「そして崩壊を押さえる柱の維持を出来るほど、彼は強くなかった。だから巫女さんを利用したんだ。教会が持つ秘術……『信仰心』を使ってね」
ふぅ〜ん、信仰心……つまり町長が生放送で主役ヅラを街の英雄にしたてあげたのって、街の住民からの信仰心エネルギーの確保のためか。
教会に所属したことで信仰心エネルギーを主役ヅラに集めることができた……と。
「つまりこの柱って……」
「そうだよ。彼の人気が落ちると崩壊するね」
はっはっは、何その状況。
さぁ幼女ちゃん! この街を脱出するぞ!
「まあ、数年ほど時間を稼いでくれればいいんだよ。その間にこの街の『守り神たち』が柱を補強してくれるから」
「ふぅ〜ん……」
「興味なさそうだね」
「この街の事ですからね。外から来た私達には関係ないッスね」
「アッハッハ、この街に関係ない人間にはそんなもんだよね〜! 外まで送るよ」
「ああ、助かりますわ。隠れてたら置いてかれたんですよ」
本当は負け犬がファインプレーで先に外に逃した事にしてくれたんだけどね。だって巫女さんいるし……。
「ちなみに亡霊デュラハンの方はどうなってます?」
「ん〜? 問題ないよ。着実に追い詰めてるさ。今回イキナリ呼び出されて焦ったけど……」
そう言って町長は疲れた顔をした。
そういや『守り神』に言われて来たんだっけ?
――――――――――――――――――――――
「ご苦労じゃったな……町長よ」
「…………」
町長に連れられてダンジョンを抜け出したら、腰の曲がったジーサンと、妙にヒョロ長いネーチャンが町長を待っていた。
「アーハー、『亀』様に『イタチ』様。言われた通り何とかしたよ〜」
「うむうむ。悪いのお……」
腰の曲がったジーサンは好好爺のようにホッホと笑うと髭を撫でる。
たぶんこの二人が町長の言ってた守り神とやらなんだろうなぁ……。なんか人間離れした雰囲気あるし……妖怪が人間のフリしてる感じがする。
「んじゃ私達はこの辺で……」
まぁ私達には関係ない。
と思って立ち去ろうとする私と幼女ちゃんだったが……好好爺が横を通り過ぎようとする幼女ちゃんの肩に手を乗せて止めた。
「……なに?」
好好爺は曲がった腰のまま、幼女ちゃんをニコニコ顔で覗き込む。
お、なんだジーサン? お小遣いでもくれんのか?
ジーサンくらいの世代なら私達は可愛くてしかたねぇだろ。
「キサマ! 泥臭い『蛇』の匂いがするわ! ヤツの眷属かっ!」
クワッと顔を豹変させた好好爺が爬虫類のような顔に変わり、幼女ちゃんを睨みつけた。
え……神様とか呼ばれてるヤツにバリバリ敵意向けられてるんだけど……キミ何したん?




