モーゼかな?
本日二話 こっちは二話目
「いや、止まっとけや……」
進めねぇじゃねぇんだよ……殺し屋のクセに前向いてんじゃねぇよ。
どうりで私に向かって怯えた表情を見せるワケだ。
コイツ、町長に怯えているんじゃなくて、私に怯えているわ……。
いや、こんな弱そうな幼女に怯えるなんて恥ずかしくないの? 殺し屋の名が泣くよ?
いや、だからか……。
コイツは『ガキに負けた』って言っていた。
つまりコイツの中で崖から突き落とされたのは、『敗北』だと感じているんだ。
弱い子供に負けたことがトラウマになってるんだね。
このサイコパスは、石橋を拳で叩き割るほどの化け物だ。とんでもない力を持っていて、それに自信もあるのだろう。
それ故に、弱い子供に負けたという事実が受け入れられなくて、『恐怖』しているんだ。
うわっ、やっかい!
なに勝手にトラウマ抱えて、克服しようとしてんだよ。巻き込むんじゃねぇよ。
「…………しつもん」
私が心の中で頭を抱えていたら、黙って見守っていた幼女ちゃんが片手をあげて声を掛けてきた。
「……そいつ、亡霊デュラハン?」
「みたいだね」
変態殺人鬼は、ようやく幼女ちゃんの姿を認識したのか、視線を横にズラす。
「なんだぁ? 嬢ちゃんのお友達か? そうだ……俺が亡霊デュラハンとやらだよ」
変態殺人鬼は幼女ちゃんに向かって、獰猛そうにニッと笑う。しかし、その額には相変わらず汗が滲んでいた。
私どうこう以前に、子供に対してトラウマ発症しているようだ。
「……オバケ姉ちゃんの知り合いみたいだし……わたしは関係ない」
「おっと、このガキまたしても私を売ろうとしてませんかね?」
「……わたし隣の部屋にいどうするね」
そう言って幼女ちゃんが立ちあがろうとするが、私と幼女ちゃんの座席の間に変態殺人鬼の長い足が割り込む。
「わりいな、白髪の嬢ちゃん……町長呼ばれたらたまんねぇんだわ。大人しくしとけや……」
幼女ちゃんは肩を竦めて座席に座り直す。
変態殺人鬼は落ち着くように深呼吸をすると、スッと目を開き私を見てきた。いつの間にか、変態殺人鬼の汗が引いている。
「俺が俺である為に……キサマを殺す……」
覚悟を決めたような変態殺人鬼の表情。
やばい……時間を稼いで逃げる算段を立てないと……。
「殺す殺すって息を吐くように言いますねぇ……なんで殺すんです?」
「……自分で言ってんじゃねえか……呼吸が出来なくなるからだよ」
「ただの趣味でしょ? ここで暴れたら町長が来ますよ?」
「……隣に町長……いねぇんだろ?」
ちっ、バレてら……。
「いますよ?」
「……はっ、だったら呼んでみな……」
変態殺人鬼が、右腕を上げると腕がビキリと音を立てる。
「……いるよ」
幼女ちゃんがボソリと呟く……。
「あぁ?」
「……町長……いるよ」
「嬢ちゃんといい……お友達もブラフが上手いじゃねぇか……」
変態殺人鬼に睨みつけられて、幼女ちゃんはブルリと震えるが顔を逸らすように外を眺めると。
「……だっているしなぁ」
ドン引きしたような声で呟いた……。
「「……は?」」
幼女ちゃんの視線を追って外を眺める。
列車から十メートルほど離れた場所を並走する町長と目が合った……。
爆走する町長がニッコリ笑うと、口が動く。
『アーハー……ショータイム!』
――――――――――――――――――――――
「うっ……おっ!」
私達の視線に気づいた瞬間……町長の姿が掻き消え、瞬間移動のように町長が近づいていた。
チン……
という音と共に、窓際が切り取られ車内に風が吹き荒れる。
私と幼女ちゃんは、その暴風に吹き飛ばされるように列車外に放り出されると、空中で町長に捕まれそのまま雪の積もった地面に投げ捨てられた。
「「……ぶべっ」」
やや乱暴な救出に、抗議の声を町長に向けようとズボっと雪から顔をだすと……。
「アーハー! よかった間に合ったよ〜!」
「チッ!」
ギリギリと、長剣と突き出した手のひらを拮抗させる町長とフード男の姿があった。
その拮抗部分からは火花がチリチリと散らす。
「んーん、そのフード……暗殺者が魔力を誤魔化す為によく使う魔道具だろ?」
「チッ!」
町長の長剣が僅かに光ったのを察して、フード男が飛び退く。あのフード男……変態殺人鬼だよな?
「んっふっふ。といってもキミの正体は分かっているんだ〜。昨日僕に斬られて血を流しただろ? アレの血液を調べて貰ってたんだ」
「……ふん」
そう言ってフードを取る変態殺人鬼。
顔を隠すより動きやすさを取ったのかもしれない。
そして、やはり現れる変態殺人鬼の不機嫌そうな顔。
「殺人鬼……プレジール ヴィイ。血液の魔力から犯罪データが一致した時には、文字通り血の気が引いたよ。慌てて追いかけてきたよね〜。疲れたよ!」
「……ふん、これは町長殿……知って貰って嬉しいぜ。なぜ俺を狙う……」
ピクリと反応する町長は、ニコニコ笑いながらハイテンションに宣言した。
「だってキミ! 悪名高いじゃないか〜! わざわざ首を切って殺しを続けるサイコキラー! 捕まえたくなるよね〜」
「……チッ……俺が殺したヤツに身内でもいたか?」
「……んーん、どうだろうね〜。僕はただ、少女たちを助けにきただけさ。僕は彼女たちを利用した責任があるからね……だって僕、町長だもの!」
変態殺人鬼はチラリと私を見た後に、舌打ちをする。
お、帰るか?
「おっとヴィイ君! 逃がさないよ〜!」
お、いいぞ町長! 殺せ!
このまま逃したらまた来るかもしれんから、今殺せ!
「んーん、オーちゃん! 準備はいいかい?」
「オッケーよお父様」
カメラを持って現れる町長の娘。金髪ちゃんが撮影を始める。
「アーハー、今回は許可もらって豪華だよ〜」
そう言って町長がポーズを取る。
「ショータイム! 市民の皆んな〜! 町長のゼンシュリーク バベルだよ〜! いきなりだけどゴメンね〜! びっくりしたよね? 今日は生放送なんだ〜」
生放送? これってもしかして、町中に映像流れてるってこと? なんでんなもん……そりゃ決まってるか。
人気取りの為だよね〜。
「さぁて、映ってるかな〜? 彼は巷を騒がせる亡霊デュラハン! 裏の世界では名の知れた殺し屋のプレジール ヴィイ君だよ! 顔だけでも覚えてあげてね〜」
そして町中にばら撒かれる変態殺人鬼の個人情報……。
おおう、アイツここを逃げ切ってもマトモに行動できなくなるぞ。いいぞもっとやれ。
「ま、逃す気なんてないんだけどね〜! そして気づいているかい? この場所……」
町長がニッコニコで、変態殺人鬼の後ろに長剣を向ける。
変態殺人鬼の後ろは海だ。
「ここなら本気出しても周りに迷惑は掛けないよ〜」
そう言って町長の長剣が眩いほどの光を放つ。
変態殺人鬼は目を見開くと、両手をクロスした。
「ショー、ターーイム!!」
光る剣を下から上に振る。
辺りを眩い光が支配して、轟音が木霊した。
そして、その眩しさにようやく目を開いた時……。
「…………モーゼかな?」
海が真っ二つに割れていた。




