虎の威を借る幼女
本日二話 こっちは一話目
列車の中から、おはようございます。
どーも私です。良い朝ですね。
ところで、亡霊デュラハンは、私達の居場所が分からなくて、町長宅のある場所を張っていたんですよね。
だから私達は町長宅から離れれば、亡霊デュラハンから見つかる心配はないってワケですよ!
だってそうだろ?
アイツに私達を追う術はないんだよ。
そもそも、首無し死体を見つけた路地裏は別の場所だし。
拠点の灯台に帰れば私達は安全なんだ。
町長の策略によって、デュラハンは呼び寄せられただけだからね!
そう、用がないなら帰るのが当たり前だよね?
そう、思うよね?
でもね……逆を言えば、それは亡霊デュラハンも拠点が別なのは一緒であってぇ……。
「……腕の怪我……痛そうッスね……」
「……クッ!」
帰り道に同じ公共機関を使うことも、あり得るんだよねー!
クッじゃねぇよクッじゃ!
目の前に座る男は、コート姿にグラサンを掛けた背の高い男……。
グラサンの下から見える目は鋭い三白眼で、パッと見イカれたシリアルキラーってところ。
でも今はそのサイコパスそうな顔に脂汗を滲ませ、追い詰められた獣のように顔を引き攣らせていた。
なんでこのコート男が『亡霊デュラハン』だと思ったかと言うと、腕に巻かれている包帯と背格好からだ。
それだけだったら気づかなかっただろうが、明らかに私達を見て反応するってのは顔を知っている証拠。
マフィアじゃなかったら私達の顔を知っているのは殆どいないんだ。
だから祈りを込めて『亡霊デュラハン』かと問いかけたワケなんだけど……。
「く、ククッ……久しぶりだな嬢ちゃん……昨日ぶりか?」
正解のようですねぇ〜…………。
亡霊デュラハンはダラダラ汗を掻きながらも、虚勢を張るように口を笑みのように変え、余裕があるかのように呟く。
「どーも亡霊デュラハンさん……私です……」
あ〜、間違いなく私の顔も、目の前のコート男と同じような顔をしているだろうねぇ……。
いや、ヤベぇよ……どうすんだよこの状況……。
「……」
「……」
「……」
そして再び訪れる、コンパートメント内の静寂。
と言うか、なんでお前も焦ってんだよ!
困ってんのは私達の方だろうがっ!
お前が殺人犯で私達はターゲット!
思ってもいない遭遇でビックリするのは分かるけど、お前のせいだろがよぉ……。
亡霊デュラハンは私達を警戒しながらも、サングラスの上から震える眼球を左右に動かす。
なんだ? なにを警戒している?
「…………」
ははぁ〜ん……。
私は亡霊デュラハンに見えるように親指を立てると、無理矢理笑みを作って背後の壁を指してやる。
「ッ! 動くな!」
「あんま大きな声出さない方がいいんじゃないッスか? 町長様ならお隣に居ますよ」
私の行動に腰を上げようとした亡霊デュラハンは、その後の私の言葉で動きを止めた後、ゆっくりと座席に座り込んだ。
「……随分な護衛が付いたもんじゃねえか、なぁ嬢ちゃん」
なるほどなるほど……。
つまりコイツは町長の存在を警戒してるのか。
だったら隣に町長がいるフリして手出しされないようにすればいい。
「……ふぅ」
「ッ!」
ん? あれ……。
落ち着く為に軽く深呼吸をしただけなのに、亡霊デュラハンは強力な重力が壁に掛かったかのように大袈裟に反応する。
お前……おかしくね?
ハイテンション町長を警戒するのは分かるよ。
その腕の包帯を見れば結構な傷を負ったんだろうからね。町長の方が強いから警戒する……それは分かる……。
でも、オマエ……私に対しても怯えてないか?
「ん〜、ん〜……お兄さん?」
あ……うわマジかよ。
気づいちまったわ。
「どっかで会ったことあります?」
「はっ……ククッその様子からすると嬢ちゃんも思い出してくれたみたいだな……嬉しいぜ」
コイツ、豚貴族の息子とやってきた殺し屋……『変態殺人鬼』だ……。
うん、豚貴族を殺す為にやってきて石橋を叩き壊し、あろう事か私の腹を蹴飛ばしてくれた化け物クラス……。
そういやこの世界に来て、一番最初にヤベェ世界だと認識させられたのはコイツだったね。
「崖の下でお魚さんのお友達はできましたかね?」
んで、私が石橋の下の崖に蹴り落としたんですわぁ……。
「ク、ククッ……残念ながら下は川なんて流れてなくてな……友人はできなかったぜ」
変態殺人鬼はコメカミに血管を浮かせながらも、獰猛な笑みの顔を作る。
あ、崖の下ってもしかして岩場でした?
よく生きてたね……。
いやまぁ今なら分かるよ。
たかが崖から突き落とされたくらいで、死ぬような存在じゃねぇわな。
「……あれから元気してました?」
私は雑談をしながらも、どう逃げるかを模索する。
「お陰様でなぁ……あのあと本部にどう報告するか億劫だったんだよ。『ガキに負けました』ってよぉ。でもラッキーなことに俺の所属していた暗殺機関な……潰されてたわ」
あ、もしかして豚貴族がやったか?
「なるほど、殺し屋廃業しちゃったんですねファッションサイコパスさん」
「チッ……」
「その割には殺し……続けているみたいですけど?」
「そう言うなよ嬢ちゃん……ただの趣味だよ」
そ、そうですか趣味ですか。
ならしょうがないね……とはならんやろ。
「亡霊デュラハンってカッコいいあだ名ですね。自分で考えたんですか?」
「はっ、殺し屋の異名なんて自分で付けるやついるかよ。…………俺、そんな異名ついてんのかよ」
よし、だいたい方針は決まった。
「このクロックシティの町長様が付けたんじゃないッスか? 隣から聞いてきましょうか?」
「……」
必殺! 虎の威を借る戦法!
ここで私達を殺すのやめときましょうよぉ〜。
隣にいる町長が飛んできますよ〜ってな。
とまぁ、ここで追い込むと何するか分からんからね。本当は町長なんていねぇし。
だからコイツに逃げ道を用意してやるのが、私の生き残る道だ。
「ねぇファッションサイコパス兄さん。ここは引きません? それなら私達も声を上げて町長を呼ぶことはしませんよ」
「……」
私の言葉に、変態殺人鬼は拳を握りしめて葛藤しているようだ。
そして、眉毛をハの字にさせると私を弱々しい目で睨みつけてきた。
「お、俺は……お前を殺さないと進めねえんだよ……」
コイツ、もしかして幼女恐怖症になってませんかね?




