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言葉の通じない交渉


 牢屋生活がヒマ過ぎてアヤカシ球を作ってはスキマに放り込む作業をしているんだけど、正直ヒマ潰しにならないんだよねこの作業……。

 別に集中力が必要って訳でもないし。片手さえフリーなら生成できるんだよ。

 こんなに作っても使い道ないしさ。


 あー、せめて牢屋の本棚にある本が読めたら少しはヒマ潰しになるんだけど……。


 ソファーでゴロゴロしてたら尋問の時間がやってきた。いつも通り豚貴族と軍人執事だ。

 つか君たちもヒマね。お偉いさんだろお前ら。

 毎日毎日、私の牢屋にやって来てさぁ。

 私に興味深々か?


 と思ったら豚貴族。私の事を一別もせずに自分用の椅子に座った。そして軍人執事はお茶を用意して、豚貴族の向かい側へ。会話をし始めた。


「いや、くつろぎに牢屋来てんじゃねーよ」


 私の呟きに豚貴族は少しだけ視線を向けたが、直ぐに軍人執事との会話に戻る。


「なんなのコイツら……」


 もういいよ好きにしたら?


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 本当に好きにしてたな! 一時間くらい私の事無視ししつづけたぞ。今は軍人執事がテーブルに広げていた書類を纏めて鞄に仕舞ったところだ。

 豚貴族は少々疲れたのか、目頭を揉んでいる。

 なんか会話もひと段落したらしい。お茶のお代わりとお茶請けのお菓子をテーブルに並べた。


 お菓子?

  お菓子かぁ……。


 なんだろう……見た目は……気泡の入った羊羹? いや、ちょっと色味が薄いか? 固体のコーラ。うん色的にそんな感じ。それがコーヒーカップのような形にデザインされている。

 異世界のお菓子。どんな味してんのかね?


「へへ、旦那ぁ……ちーとばかし私にもオコボレをちょうだい出来やせんかねぇ?」


 気づいたら鉄格子の前でゴマをすっていた。

 豚貴族は不審そうな目で見下ろしてくる。


「ーー。ーーー。」

「……ーー。」


 豚貴族は顔を軍人執事に向けたまま私を指差すと、軍人執事は鼻から抜けるようなため息を吐きながらお菓子を指差した。


 恐らく「この美少女は何が言いたいんだ?」と聞いて「お菓子が食べたいんじゃない?」と軍人執事が返したんだと思う。言葉は分からなくても何となくジェスチャーで分かる。細部は違っててもそんなに遠くないんじゃないかな? 特に美少女の部分とか……。


 豚貴族は「フンッ」と鼻息を吐くと私を無視してお菓子を食べ始めた。


「この豚やろう……」


 おっと思わず口が悪くなっちゃった。いかんいかん、対価もなしにお菓子を強請るのはこの世界的にNGなのかもしれない。


 てっことで対価を……部屋をキョロキョロ見渡す。いや、流石に牢屋の中の物は対価にならんわな。元は豚貴族の持ち物だし。


「ちょっと待ってろ!」


 私は風呂場にペタペタ走っていくとスキマの空間からアヤカシ球を四つ取り出して戻る。

 隙間に入り込む能力を見られる訳にはいかないから、わざわざ風呂場まで行ったんだ。


「どーっすかね? これ四つとそのお菓子交換してもらえないっすか?」


 鉄格子から差し出す四つのアヤカシ球を豚貴族は繁々と見つめる。

 現状、私の持ち物と言ったらアヤカシ球しかないからね。あとは屋敷で失敬させてもらった物しかないから出す訳にはいかない。

 

 どーよこの球。キラキラして綺麗でしょ? 欲しくない? 宝石みたいでしょ?


 ぶっとい指でアヤカシ球を見ていた豚貴族は「はんっ」と鼻で笑うと投げ返して来た。


 コノヤロウ……。私のアヤカシ球を河原で拾って来た子供の宝物みたいな目で見やがった……。


 いや、まてまて。たしかに今のアヤカシ球はそんなに綺麗じゃないだろう。

 なんせこのアヤカシ球。属性をつける前のプレーンなアヤカシ球だからね。豚貴族よ、よく見るが良い!


 私は豚貴族の投げたアヤカシ球をキャッチすると、豚貴族に対してチョイチョイと手招きする。豚貴族は怪訝な顔をしながらも私の持つアヤカシ球を見るために近寄って来た。


 ちょ、軍人執事が警戒しとる! 胸元に手を入れるな! 別に危害を加える気はないから!

 両手をバタバタして敵意がない事をアピール。


「よく見とけよ豚貴族。炎滅生成!」


 私がそう叫ぶと持っていたアヤカシ球が光り、球の中に揺らめく炎が現れた。別に叫ぶ必要はないけどね!


 各種アヤカシ球はプレーンのアヤカシ球から変化させる事が可能なんだ。プレーンのアヤカシ球さえ沢山作っておけば必要な時に変化させればいい。


 豚貴族は、ほほぉ……と炎滅球を受け取るとマシマジと見つめる。どや、美しかろう。小さな球の中に常に変化をし続ける炎は幻想的なはずだ。

 この世界でも珍しい光景かは知らんけどね。


 さーらーに、氷滅球! 風滅球! 雷滅球!

 四つの球をそれぞれ別の属性球に変えてやる。豚貴族は大興奮、なるべく映える属性を選んだかいがあったよ。

  まぁ一個ずつ持っててもマジで意味がないけどね。スーパー妖怪殲滅2の能力だからさ。同じ種類の球が四つないと只の綺麗な球だよ。


 軍人執事は警戒してるみたいだけど本当に綺麗なだけの球だからさ。だからナイフをチラつかせるの止めてくれない? 爆弾とかじゃないから……。


 豚貴族は満足そうにアヤカシ球をポケットに入れると部屋から出ていった。

 うん、出て行った。


「豚野郎が!! 球だけ持ってくんじゃねぇぞ! お菓子と交換だろうが!」


 私は鉄格子を掴みながら叫んだが、帰ってくる様子はない。


 私を怒らせたな……


 こ の う ら み

 はらさでおくべきか!


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[一言] 珍獣は怒らせたら駄目だって…
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