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一風変わったダンジョンです!


『しかし、この地図見やすいな……』

『ああ、下手なアプリよりずっと使いやすい……』


 お褒めの言葉ありがとう。どーも私です。


 ふはははっ、見やすかろう使いやすかろう!

 当たり前よ。そのマップの雛形は、私がやったゲームの中でも、特に見やすいと思った物を流用してるからね。【ガチャっとガーディアン】【監視カメラの能力】


 それに、このダンジョンは立体構造じゃくて、平面に近いフィールドなんだよ。だから見やすい平面マップとして作ることができた。

 通路っていうか、道路をマッピングする感じ。


 立体構造ダンジョンだったら、別ゲーのマッピングシステムを用意しなきゃいけなかったよ。


「お、そろそろ例の場所に着くね……さぁ、冒険者の戦いを見せてもらおうか」


 三人の冒険者が向かう道の先には、一匹の蜘蛛型モンスター。子犬ほどの大きさのクモは、ちょっとデフォルメされたようなコロコロ体型。


「ふむ、ちょっとカワイイ感じね」

「……イカれてんのか?」


 いや、一般論よ。ヌイグルミみたいじゃん。

 それより、そんな感想しか出てこない幼女ちゃんの方が心配になるんですけど。


『鑑定アプリ!』

『あいよ、あ〜……いつものだ』

『出てくる魔物は至って普通だな……』


 そうこうしているうちにクモ型モンスターは、冒険者の燃える剣に貫かれて消え去った。


「剣が燃える意味ってなによ……」


 あれか? カッコいいから燃えてるとかか?

 ん〜……もしかして、モンスターの弱点属性的な要素あったりするんかな?


「……たぶん、炎が弱点というより……炎の魔力が弱点なんだと思う」

「ほ〜ん、よく分からん」


 そもそも、モンスターってなんなんだろうね。動物とは違うのか?


 まぁいいや、正確にはアレ、本物のモンスターじゃないし。

 

 ウチに出てくるモンスターは、エネルギーを使って作り出した、本物と変わらないロボットみたいなもんなんだ。

 ロボットといっても、領域畑のエネルギーを使って作った存在だからね。

 神殿ダンジョンから情報を頂いて、本物のような動きをするし、強さも同じだ。モンスターが何かは知らんけど、本物と変わりないんだから問題はない。


 んで、ここでちょっと気になることがあるよね。

 本物と変わりない『強さ』のモンスターって所。


 私の作り出した能力には、戦闘能力がないはずだよね。

 その通り、生み出したモンスターには実は戦闘能力がない。じゃあハリボテなのかというと、そうではない。


 冒険者がモンスターと戦えば怪我もするし、冒険者は本物のモンスターと戦ったという感触があるだろう。


 カラクリはこの領域畑に作った、ダンジョンという存在。領域畑ってのは突き詰めていけば、『私の領域』にたどり着く。

 

「つまりは……このダンジョン自体が私の世界で、夢か幻覚みたいなもん」


 でも結局は夢幻(ゆめまぼろし)だから、冒険者は本当に怪我をする事はないし、死んだと思ったとしてもゲームオーバーでダンジョンの外に無傷で排出されるだけだ。


「う〜ん……相変わらず攻撃力のない能力ね」


 いやまぁ、ポジティブにメリットと考えよう。

 死人がでねぇんだからドシドシやって来なさいよ。


 それが伝わるかは知らんけど……。


『ドロップは……魔石と爪、あとは……なんだコレ?』

『赤い……玉?』


 冒険者達が手にしたのは、ゴルフボールほどの赤い玉。

 お、出たね。それは私のダンジョンにおけるオリジナルアイテムだから。

 爪は知らん……元のモンスターがドロップするんじゃない? 私は感情エネルギーを注ぎ込んだだけだから。


 んで、その赤い玉だよ。んふふふ、それはこのダンジョンにおける大事な物だから……。


『売れそうにないから置いていくか……』


 

「待ってぇ〜! 捨てちゃダメだから!」


 クソッ! 拾わないなんて思わないじゃん! どどどうする!? えぇい仕方ない!


「幼女ちゃん! 緊急事態だよ。今から言う言葉を魔石にプログラミングして!」

「……おけ」


 幼女ちゃんの書き込んだ文字を、冒険者のパイプ端末に慌てて送り込む。捨てるなよ〜。

 マジで捨てんなよ!


 ――――――――――――――――――――――――


 

 冒険者達の持つパイプ端末が、ピロンという音と共にある文字をポップアップさせる。


「うわ、なんだ?」


【ソレ ヒツヨウなモンだから。スてちゃダメってツタエテ】


「……」

「……」

「「「…………ん?」」」


 冒険者達はパイプ端末からの通知を見た後、しばらく考えて一斉に首を捻る。


「あ〜え〜……なんだ? この赤い玉……拾っとけって言いたいのか?」

「どうする? 金になるとは思えないけど……一応拾っとくか」

「なんかアレだな……覚えたばかりの言葉を、無理矢理使うバケモノみたいな文章だな」


「はは、確かに、知能の低そうな文章だな!」


 ――――――――――――――――――――――



「幼女ちゃん落ち着いて! 急いでたからね! 子供だからちゃんと文字書けないのはしょうがないからね! ね!」


 腕をブンブン回しながらモニターに殴りかかる幼女ちゃんを羽交締め……。

 う、う〜む、知能が低そうと言われたことに腹を立てているらしい。


 ままま、しょうがねぇよ。

 幼女ちゃんがなんて伝えたか知らないけど、まだ小さいからね。私の感覚で言うと、漢字を使ってない文章みたいなモンなんだろ。


「私は良いと思ったッスよぉ〜。ホラ、リュックサック冒険者も言ってたじゃん。言葉を覚えたばかりのバケモノみたいだって! 怪しくて素敵じゃん!」

「……読み書きがすこしもできないヤツはだまってて」


 フォローしてやってんだから落ち着けよ低脳……。


 まぁ、通知のお陰で玉を捨てないでくれたみたいだからヨシとしよう。

 その後も、冒険者パーティはモンスターを倒しては、魔石と玉を拾っていく。


『一応、拾っとけって言われたから拾っといたけど、なんなんだコレ?』

『赤、青、黄色、黒、緑……今の所、五色の玉を拾ったな……』

『拾った玉の数にバラつきがある……赤が一番多くドロップするのか』


『結構ドロップしてるな。こう数が多いと流石に邪魔だぜ……』


 邪魔かぁ、そうだよね。意味の分からんアイテムだろうしね。

 今後のアップデートでそこんところ改善してみるか……。アプリ上のデータにしてみるとか。

 

 まぁでも、もう少しで役に立つから頑張って!

 

 そして冒険者が街の角を曲がって目にしたのは。


『お、やっと宝箱か』

『出てくる魔物の傾向としては、マンディルと酷似していたな……』


 マンディルって多分、私が情報を抜き取ったいつものダンジョンのことだろうね。


『罠はないみたいだな。でも開かねえ。鍵が掛かってんのか?』

『うん? また通知が来たぞ』

『【色玉……おなじイロのタマを四つハメこめ】』


『色玉って今まで拾った玉のことだよな?』

『確かに、玉が嵌められそうな窪みがあるな』

『既に一個、赤い玉が入ってるから、赤い玉を三つ嵌め込めば良いのか?』


 よしよし、気づいたね。

 モンスターを倒してドロップした色の付いた玉は、ダンジョンのギミックに使用するんだよ。

 分かりやすく言うとアレだね。


「ゲーム内通貨……」


『お、開いた……ナイフかぁ。やっぱマンディルの表層に似てる気がするな』

『つまり、色の付いた……あー色玉とやらを四つ嵌め込めば開くのか。鍵みてぇなモンだな』

『案外……悪くねえかもな。玉を集めるだけで宝箱が開くとしたら、罠解除に使う道具がいらないだろ。あれ地味に高いクセに使い捨てだしな』


『なるほど……罠がないとしたら魔物を狩るだけで開くのか……確かにいいかも』

『邪魔だけど拾っとくか……』


 いいぞ〜、色玉の有用性がわかって来たみたいだね。

 言っておくけど、色玉の使い道はソレだけじゃ無いからね。


 その後も冒険者パーティはモンスターを倒しては、ズンズンとダンジョンを進行して行く。


『結構進んだな』

『帰り道はマップを辿ればいいから、ついつい進んじまうな』

『公園か……少し休憩しようぜ』


 冒険者パーティがたどり着いたのは古びた公園。

 もちろん、私達が拠点を張ってる公園じゃないけどね。


 ちなみに、ここにたどり着いたら、パイプ端末に通知が行くようになってるよ。


『あん? 【ちぇっくポイント】』

『赤玉、青玉、緑玉を各四個ずつ、像に嵌め込めばいいのか? あ、これ端末ごとの消費だな』

『なんか今回は多いな……やってみるか。余ってるし』


『お、通知がきた。……これは』

『おい、マジかよ……』

『……似たようなコトは他のダンジョンでもあるが、こんなに分かりやすく提示されるか』


 んははは、色玉はゲーム内通貨だって言っただろ。

 ダンジョン内を探索するに当たって面倒なのは『帰り道』と『道中』。


 はい、ここでチェックポイントの開放を、色玉で行って頂きます!

 開放されたチェックポイントは、パイプ端末上のマップに記載される。そして……チェックポイントの使い道とは……。


『試してみるか……』

『ああ』


 冒険者がパイプ端末上のモニターをタップすると、足元に転移陣が浮かび上がる。

 そして、次に冒険者が現れたのは……

 

「あれ? 入り口のモニターどれだっけ? あ、これこれ」


 冒険者が一番最初に入って来た入り口の所。

 つまりは、開放したチェックポイントを経由して移動が出来るんだよね。

 

 どや? 色玉を集める気になったやろ?


 ダンジョンの進行状況をセーブ出来るとか便利でしょ? どんどんモンスターと戦って集めてね!

 それが私の糧になるからさぁ。


 それから冒険者パーティは、再びチェックポイントに飛んでから探索を再開。

 よしよし、良い感じで我がダンジョンにハマってらっしゃる。


「お、イベントが発生したね。どのイベントかな?」


 モンスターと戦いながら進行する冒険者が、寂れた廃墟の扉を見つける。


『ここも色玉消費で開くタイプか……』

『どうする? 宝箱じゃないみたいだが……』

『入ってみようぜ、お宝が建物内に入ってるかもしれん』


 色玉を消費して扉を開いた先にあったのは、ボロボロの室内。


『もとは何かの事務所か?』

『ッ!』


 興味深そうに室内を見渡していた冒険者が、急に剣を抜いて破れて古くなったソファーに向ける。


『【やぁ……】』


 そのソファーには、輪郭だけで青白く発光する男のシルエット……。まるで幽霊のようなその男は、ソファーに座りながら、まるで友人を迎え入れるかのように片手を上げる。


『ッ! 鑑定!』

『……反応なし……魔物じゃない』

『なんだよ……これ』


『フッ!』


 そして、剣を振るった冒険者の剣はすり抜け、ソファーの背もたれを斜めに切り裂く。


『……実体がない?』

『恐らく……ただの映像だ……』


 輪郭だけで、透けている男の表情は分からないが、冒険者達を認識している様子はない。


『【ようこそ、僕はファーマル……探偵をやっている】』


『は、はは、なんだこのダンジョン……』


『【ああ、ここでは生前に僕の解決した事件を、君たちにも体験して貰う。まぁなんだ。ただの暇つぶしだと思ってくれていい。でも、キミたちが事件の犯人を当てることが出来たら、ちょっといいお宝をあげるからね】』


『なんだ……この……なんだこれ』


 うははは! 混乱してやがる。

 はい、これがイベントの一つ!

 探偵ファーマルの事件簿!


 私の【言語理解の能力】の元となったゲームだね。

 ゲームリンクさせることで、このイベントにおけるエネルギーコストを削減しているんだよ。

 遊園地のアトラクションみたいなモンだと思ってくれていいよ。


『……おい、なんか周りの風景が変わったぞ』


 そして始まる、青白い幽霊達による物語。


『う〜ん、Dの男じゃないか? アリバイないし』

『いや、端末によるとDは小太りヒゲだから、小窓を越えられないだろ』


 お、考えてる考えてる。

 早くもこのアトラクションに適応してくれたみたいだね。


『お前ら……やっぱこのダンジョンおかしいって……あと犯人は多分Eの女だろ。アリバイをシャワーの音で偽装して……クソ! 面白いな!』


 せやろせやろ。

 ゲーム中にあった事件だからね。よくギミックが出来てるやろ。


『犯人はEの女で!』


 はい、正解。なかなか頭いいじゃん。


『【おめでとう助手君。これは報酬だよ】』


 犯人を端末で選択すると、探偵ファーマルがスゥ……と消えて宝箱が残る。


『お、ミリゲーターの飾り羽……いい金になるな』

 

 現在の進行よりちょっとエネルギーを込めた宝箱だから良いの出るよ。


『いや〜、なんか普通に映画見てるみたいで楽しかったな』

『そうそう』

『俺は不気味さが増したけどな……』


 廃墟から出た冒険者パーティが、そろそろ帰ろうかとチェックポイントに足を進めた……その進行方向に。

 

 街頭に照らされ、地面に影を作る異形の化け物が佇んでいた……。


『なんだアレ……鑑定!』

『……反応なし! 魔物じゃない!』


 ねじれた角を持つ異形は、二メートルほどの巨体で灰色の筋肉質な肉体を持つ。

 硬質化した骨のような顔からは、窪んだ目元が怪しい光を放っていた。

 まさに、悪魔といった様相に冒険者は体を震わせる。


「あらら、出会っちゃったねぇ〜。私のダンジョンにおけるオリジナルのモンスター……」


 ダンジョンをランダムに動き回る【徘徊型モンスター】


「ジャック」

『【アイボォォォオオオオ!!】』


 ――――――――――――――――――――――

 


 ピロンと冒険者の端末に通知が行く。


【つかまったラ……ゲームオーバー】


『う、うぉおおお!』

『ば、馬鹿! 逃げろ!』


 剣を持った冒険者が、徘徊モンスター【ジャック】に切り掛かる。

 しかし、剣は無常にもすり抜け……その尖った爪が振り下ろされた。


『ぎ、ぎゃあーー! ってあれ? 痛くねえ』

『お、お前……足元に……』


 ジャックの爪も冒険者をすり抜けたが、冒険者の足元には転移陣が浮かび上がり、そのまま姿を消した。


『に、逃げろ!』

『う、うわーー!!』


 目の前で消え去った仲間を見て、パニックを起こし一目散に駆ける。

 ただの魔物ならいい。倒せばいいのだから……。


 でもアレはダメだ。

 そもそも、攻撃が物理的に通じていない。

 そのクセ、攻撃を受ければコチラは消え去ってしまうのだ。


 逃げ去る冒険者に、光る瞳を向けた悪魔……ジャックはしゃがみ込み、スタートダッシュの態勢をとる。

 そして……。


『【ァァアアィボォォォオオオオ!!】』


 スプリンターのようなフォームで爆走する。


『は、はえーー!!』


 背後から聞こえる、ズシャッズシャッズシャッズシャッという足音から恐怖を感じる。

 そして、残りの二人もジャックの爪の餌食となった。

 


 ――――――――――――――――――――――



『お、帰って来たな』

『お、お前無事だったのか!』


『ああ、どうやら入り口に飛ばされたみたいだな……』

『なんなんだよアレ……攻撃は通じねえし。理不尽過ぎるだろ……』


『あぁ、ソレなんだけどな。端末の通知見てみろよ』

『モンスター図鑑?』

『徘徊獣ジャック……』


『あぁ、アレに触れられると強制的に入り口に戻されるらしいな。たぶんアレもファーマルと一緒で実体はないんだろう』

『おい、アイテムと色玉が無くなってるぞ!』

『な、なにぃー! 全部か!』


『い、いや、チェックポイントから後に拾ったアイテムだけだな……』


 

 はいは〜い。いや〜残念でしたねぇ!

 その通り! 一度チェックポイントにたどり着いたら……というか外に運び出したら、ダンジョンからアイテムを持ち出せるシステムだよ。


 その間にゲームオーバーになったら、ダンジョン内で拾ったアイテムはパァになっちゃうからね。

 言っちゃえば、夢の中から持ち出せるのは、キチンと出入口から出た場合だけってこと。オーケー?


 よしよし、何となくシステムは理解したね。

 その情報をもって冒険者に広めな!


 あ、ちなみに【徘徊獣ジャック】の説明いる?

 私が一番最初にやったゲーム。

 slitースリットーから流用したモンスターだよ。


 モンスターっていうか、捕まったらゲームオーバーにしてくるお邪魔キャラだね。

 中々の迫力だったでしょ。


 今回は、感情エネルギー的にプラスだったんだけどね。最後にゲームオーバーになってくれたお陰でだいぶプラスになったわ。


「お、今日はもうお帰りですか」


 またのお越しをお待ちしております。



「……いや、だから……これダンジョンじゃないって」



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― 新着の感想 ―
久しぶりに見たら攻撃出来ない理由が覚えていない! でもやはり楽しいです、ダンジョンではないけど
パチンコとか作ったらすぐ感情エネルギーたまりそう
どこかの遊園地の幽霊がシュバって来そうな施設ですな(*^ω^*) 過去のゲームなら恐竜パックというロマンの塊を再登場させましょう! もしくはイベント部屋:人狼ゲームで友情崩壊する冒険者もアリだな(๑╹…
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